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2006/04/10

ラカンの『精神分析の倫理』(の一部)のみちくさ開始

 以前のブログでアンティゴネをキーワードに、ラカンの『精神分析の倫理 下』(小出浩之他訳、岩波書店、2002年)へのみちくさを高らかに宣言したぽん太ですが、いまとなっては心から後悔しております。とはいえ、ひとたび宣言したからにはみちくさせざるをえません。いざ、進めや進め!

 このセミネールの19章から21章が、「悲劇の本質 ソフォクレスの『アンティゴネ』への注釈」という表題でまとめられています。19章から読み進めてみることにしましょう。
 まず115ページ。『アンティゴネ』と倫理という問題は、古来多くの学者たちによって論じられてきたが、それらをつぶさに検討した結果、ろくな意見がなかった、とラカンは偉そうに言っております。
 116ページに移りましょう。フロイトは『オイディプス王』を初めさまざまなギリシア悲劇に言及しているけれども、『アンティゴネ』にははっきりとは言及していないそうです(真偽不明)。しかしラカンは、『アンティゴネ』がソフォクレスの悲劇のなかで最も傑出していると言います。
 ここでちらっとヘーゲルの名前が出てきます(116ページ5行目)。ヘーゲルは古代ギリシアが好きだったそうで、アンティゴネに関しては『精神現象学』、『美学講義』、『法の哲学』で言及しているようですが、ラカンはもう少しあとでヘーゲルを詳しく論じるようなので、ぽん太もそのとき改めてみちくさすることにしましょう。
 次の10行目の翻訳はなんだか変です。

 「この悲劇は、単にエディプス・コンプレックスとの位置関係において分析経験にとって重要であるという以上に、分析経験の根源にあるものです。そのことは「カタルシス」という要となる語が証言しています」

 「この悲劇」というのは『アンティゴネ』を指していると思われますが、『アンティゴネ』とオイディプス・コンプレックスとはあんまり関係ありませんし、また『アンティゴネ』がほかの悲劇に比べて「カタルシス」と関わっているわけでもありません。原文を見ると次のようになっています。

  Plus originellment encore que par son lieu au complex d'Œdipe, la tragédie est à la racine de notre expérience, comme en témoigne le mot clé, le mot pivot de catharsis.

 このla tragédieというのは、『アンティゴネ』ではなく、一般的な悲劇のことでしょう。ですから、タヌキ語訳すると、次のようになります。

 「悲劇は、オイディプス・コンプレックスにおける悲劇の位置によってよりもさらに当初から、われわれの経験の根源にあります。そのことは『カタルシス』という鍵となる言葉、要となる言葉が示しています」

 で、この文章が意味するところですが、「われわれの経験」というのは邦訳が意訳しているように「精神分析の経験」のことですね。悲劇と精神分析とのつながりといえば、『オイディプス王』とオイディプス・コンプレックスが有名ですが、実はもっと以前にもつながりがあるのです。それは悲劇の「カタルシス」という概念と精神分析の「カタルシス」という概念とのつながりです。
 フロイトがオイディプス・コンプレックスという用語を初めて使ったのは1910年の「男性にみられる愛人選択の特殊な一タイプについて」という論文です。オイディプス・コンプレックスという考え方は、もう少し以前にフロイトが自己分析のなかで見出したもので、1897年10月15日のフリースへの手紙で『オイディプス王』に言及しています。一方カタルシスという用語は、1895年の『ヒステリー研究』ですでに使われており、その概念が作られたのは1880年から1885年頃と考えられています。『ヒステリー研究』はフロイトの出発点、すなわち精神分析の出発点に位置する論文ですから、こちらの方が時期も早いし、精神分析にとって根源的なわけです。
 あれれ、よく見ると邦訳は「鍵となる言葉」という部分が抜けてますね。ちょっと邦訳の信頼性が疑わしくなってきましたが、かといって原文で読む元気はありませんから、邦訳を読みながらたまに原文を参照することにしましょう。

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