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2006/04/16

カタルシスとは

 前回に引き続き、ラカンの『精神分析の倫理 下』を読んでいきましょう。
 116ページ10行目以降は、カタルシスの概念の説明となります。
 カタルシスを『広辞苑第五版』で引いてみると、次のように出ています。

カタルシス【katharsis(ギリシア)】(浄化・排泄の意)
1.古代ギリシアの医学で、病的な体液を体外へ排出すること。瀉血{しゃけつ}。
2.オルフェウス教・ピタゴラス学派・エンペドクレスなどにおける、罪からの魂の浄{きよ}め。
3.アリストテレスは悲劇の目的をパトス(苦しみの感情)の浄化にあるとした。最も一般的な理解では、悲劇を見て涙をながしたり恐怖を味わったりすることで心の中のしこりを浄化するという意味。
4.精神分析の用語。抑圧されて無意識の中にとどまっていた精神的外傷によるしこりを、言語・行為または情動として外部に表出することによって消散させようとする精神療法の技術。浄化法。

 さすがに天下の『広辞苑』。よくまとまっています。
 で、ラカンは4番目の意味から始めます。「カタルシス」という用語はフロイトとブロイアーの共著『ヒステリー研究』(1895)に出てきます。ぽん太が持っているのは人文書院の『フロイト著作集 第7巻 (7)』(懸田克躬訳、1974年)で、以下の引用はそのページですが、最近ではちくま学芸文庫の『ヒステリー研究 上』(上下、金関猛訳、2004年)のほうが手に入りやすいようです。
 『ヒステリー研究』は精神分析の出発点に位置づけられる著作です。本書には「カタルシス療法」を行った5つの症例が治められておりますが、カタルシス療法とは次のようなものです。
 「……われわれは、誘因となる事象の回想を完全な明白さで呼びおこして、それによってこれに随伴していた感動をも呼びさますことに成功し、そのうえで患者が自らその事象をできるだけ精細に述べてその感動に言葉を与えるようにすれば個々のヒステリー症状はたちどころに消滅し二度とは起こる物ではない、ということを発見した……」(12ページ)。
 ブロイアーは患者に催眠をかけることによってこの操作を行いました。フロイトも当初はブロイアーにならって催眠を使いましたが、次第に催眠を放棄して自由連想法を用いるようになったことは、よく知られています。カタルシス療法がなぜ有効なのかについて、フロイトは次のように説明しています。
 「われわれの療法は、最初のときに除反応を受けなかった観念の作用力を、押しこめられているこの観念に言葉によるはけ口を与えることによって、取りのぞくのである。そしてその観念を(軽い催眠状態の時に)正常な意識に引きこむことによって、連想にもとづく訂正を受けるようにするか、あるいは医師の暗示によって、健忘を伴う夢遊の間に起こるのと同じく、その観念を無効にするのである」(22ページ)。
 ここには「除反応」という言葉が出てきます。ラカンは、除反応というのはそう簡単な概念ではないと言っています。
 『精神分析の倫理 下』邦訳117ページ3行目の「行為がそれを語るパロールに放出される」というのも意味がわからないですね。原文はl'action peut être déchargée dans les paroles qui l'articulent.ですから、actionは「行為」ではなくフロイトがここで書いている「観念の作用力」のことですね。

 次にラカンは、『広辞苑』の3番目の意味に移ります。アリストテレスの『詩学』は、岩波文庫版があります(『詩学』松本仁助他訳、岩波文庫、1997年)。第六章の冒頭付近に次のような文章があります。
 「悲劇とは、一定の大きさをそなえ完結した高貴な行為、の再現(ミーメーシス)であり、快い効果をあたえる言葉を使用し、しかも作品の部分部分によってそれぞれの媒体を別々に用い、叙述によってではなく、行為する人物たちによっておこなわれ、あわれみとおそれを通じて、そのような感情の浄化(カタルシス)を達成するものである」(34ページ)。
 

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