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2006/11/06

【歌舞伎】2006年10月松竹座「染模様恩愛御書」(★★★)

 ぽん太とにゃん子は大阪の松竹座で花形歌舞伎「染模様恩愛御書」(そめもようちゅうぎのごしゅいん)を見ました。元になったのは「蔦模様血染御書」(つたもようちぞめのごしゅいん)という題で明治22年に初演された歌舞伎で、男色(衆道)という主題と、生火を使った火事の演出がネックとなり、ながらく上演されずに封印されていた演目だそうです。
 今回の目玉も、もちろん男色と火事。染五郎演じる若侍、大川友右衛門と愛之助演じる小姓、印南数馬との同性愛、いや、友右衛門を演じる染五郎と数馬を演じる愛之助の同性愛(?)が見物です。ぽんたはもうちっと耽美的・倒錯的な世界を期待していたのですが、愛之助に惚れて周りが見えなくなった染五郎は一直線に押しまくり、まるで中学生の初恋のようなすがすがしさと微笑ましさで、妖しさのかけらもありません。障子に映るシルエットで表現された二人が結ばれるシーンでおきた笑いは、照れ笑いだけでなく失笑が混ざっていた気がします。
 そしてもうひとつの目玉の大火事のシーン。客席の上からスモークや、火の粉を模した紙吹雪が降りそそぎ、ぽん太は間違ってユニバーサルスタジオに来たのではないかと思いました。最後に流れる歌も違和感があり、ここは新宿コマか?と思いました。
 ということで楽しめはしたのですが、心に残る、心にしみる舞台でなかったのが惜しまれます。チラシに名前も出てない芝のぶは大健闘。

 で、ぽん太が気になったのは、この芝居での男色の扱われ方です。春猿演ずる腰元あざみが「男同士とはけがらわしい」みたいなセリフを言っていたと思うのですが、男色が否定的に描かれています。ぽん太の記憶では、江戸時代以前の日本では男色が当たり前で、布教に来たキリシタンがびっくり仰天したなどという話しもあった気がします。同性愛を忌み嫌うようになったのは、明治以降の近代になってからでしよう。
 原作の「蔦模様血染御書」でも男色が否定的に扱われているかどうか、脚本が手にはいらないのでぽん太にはわかりません。
 この歌舞伎の舞台は江戸時代に設定されています。「蔦模様血染御書」はいわゆる血達磨物に属する作品です。細川家の家宝の達磨の掛け軸があり、細川家が火事になったとき、大川友右衛門が自分の腹を切って掛け軸を入れ、焼失を防いだという有名な物語があり、この物語を脚色して作られた歌舞伎や講談を、血達磨物というようです。この逸話はどうやらフィクションらしいのですが、この話しに出てくる細川のお殿様は細川綱利で、生まれが1643年(寛永20)死去が1714年(正徳4)ですから、時代はこのあたりに設定されていると考えられます。するとやはり、男色が否定的に扱われているのはおかしい気がします。
 ただ、この芝居自体が書かれたのは、冒頭で述べたように明治22年ですから、当時の性倫理観では男色に否定的であった可能性は十分あります。男色の歴史は、そのうちみちくさしたい領域です。

 ちなみに現在、精神医学的には、同性愛は基本的には病気とは見なされておりません。米国精神医学会の精神疾患の診断基準である『DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引』(高橋三郎他訳、医学書院、2003)では、露出症や小児性愛などの性嗜好異常や、性同一性障害はありますが、同性愛はありません。同性愛によって精神的に苦しんでいる場合には、「302.9特定不能の性障害」に入れることになっています。WHOの疾病分類ICD-10でも同性愛だけでは病気と見なさないとされており、同性愛が原因で「性的パートナーと関係を作ったり、維持したりすることが困難」な場合、「F66.21性関係障害・同性愛的」というコードが付くとされています。DSMから同性愛が取り除かれた経緯に関しては、『精神疾患はつくられる―DSM診断の罠』(ハープ・カチンス他、高木俊介他監訳、日本評論社、2002年)の第3章「『同性愛という診断名』の浮沈」が詳しく、またネット上で見れるものとしては、「精神医学における同性愛の『取り扱い』の変遷」(濱田龍之介)があります。

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