【書と絵】黒彩 Black+Color 岡庭呑石・田村吉康共作展@石川画廊
銀座の石川画廊で、岡庭呑石・田村吉康共作展「黒彩Black+Color」を見てきました。
当日はまず、新橋演舞場で平成18年11月「花形歌舞伎」の午前の部の初日を見ました。「弁天娘女男白浪」(べんてんむすめめおのしらなみ)は、「知らざあ言って聞かせやしょう」などの名台詞で有名な、これぞ歌舞伎という演目です。江戸から明治にかけて活躍した河竹黙阿弥の作ですが、近代的な自我の苦悩とは無縁な、絵画的で粋な芝居です。菊之助の演じる弁天小僧菊之助がいなせでよかったです。「勧進帳」は海老蔵が武蔵坊弁慶。海老蔵の「くささ」が弁慶の役とうまくあって滑稽にならず、迫力があってよかったです。「番長皿屋敷」は岡本綺堂による大正5年初演の新歌舞伎。「一枚、二枚……」で有名なお菊さんの怪談を下敷きに作られた、皿を割ることによって青山播磨の本心を試そうとするお菊、そして自分の愛情を疑われたことに腹を立ててお菊を手打ちにする播磨との悲恋物語です。江戸時代的な心理ならば、男としての面子を立てることと、愛するお菊を手打ちにしなければならない悲しみとの板挟みになって、生きることの苦しみを感じつつ手打ちにするはずです。また近代的な心理に従えば、播磨は自分の誠実を疑われたことに対して理不尽な怒りに駆られ、まさにキレた状態でお菊を切ると考えられます。芝居の頭で、播磨が旗本でありながら町奴との喧嘩に明け暮れているところが描かれているので、後者の可能性が高いとぽん太は思います。しかし松緑の演技はどっちつかずで、播磨がどういう気持ちでお菊を切ったのかがよくわかりませんでした。
で、共作展の方ですが、岡庭呑石は書道家、田村吉康は画家(漫画家でもある)であり、書と絵のコラボレーションという展覧会でした。書と絵の共作というと掛け軸などでは当たり前のように思えますが、書は黒一色だし、田村吉康の絵はアクリル絵の具を使ったリアルで色彩が鮮やかなものなので、一見すると極めて異質な組み合わせに感じられます。しかし呑石氏も書道家といいながら、号からもわかるように酒を愛する通人であり、田村氏の絵との組み合わせによって、艶やかな情感が醸し出されているようにぽん太には感じられました。
ところで田村吉康という名前に聞き覚えがある方も多いかと思いますが、その通り、月刊少年ジャンプにマンガの「筆神 1 (1)」を連載していたひとです。このマンガに出てくる書道家も「呑石」という名前のようですが……。田村氏の話しでは、彼は単なる漫画家にも単なる画家にもなりたくなく、娯楽としての漫画と芸術としての絵画のあいだに一線が画されている現状に満足できず、漫画と絵画の境界を目指していきたいとのことでした。タヌキと人間のあいだを生きるぽん太は、とても共感を覚えました。
この共作展は2006年11月1日から11月7日まで銀座の石川画廊で開催されています。
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