« 【歌舞伎】2007年12月歌舞伎座夜の部「寺子屋」「粟餅」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」 | トップページ | 【文学】継母が継子に恋をする話し エウリピデス『ヒッポリュトス』・セネカ『パエドラ』・ラシーヌ『フェードル』 »

2007/12/18

【文学】継母が継子に恋をする話し。歌舞伎の「摂州合邦辻」と今昔物語集の「拘那羅太子、眼を抉り法力に依りて眼を得る語」

 ぽん太が11月に歌舞伎の「摂州合邦辻」(せっしゅうがっぽうがつじ)を見た話しは、以前の記事で書きました(【歌舞伎】国立劇場「摂州合邦辻」)。そのとき、継母が継子を愛するというこの物語は、古くはインドの説話として『今昔物語集』に収録され、その後もさまざまに形を変えながら語り継がれていることを知りました。またギリシア悲劇でも似たような話しがあり、ラシーヌの『フェードル』という名作を生んだとのことでした。
 今回は、そのへんから散歩を始め、あちこちでみちくさしてみましょう。

 まず「摂州合邦辻」の復習です。あらすじをまとめるのは面倒なので、たとえばこちらの「人形浄瑠璃文楽」のページや、「歌舞伎文庫」のページを参照して下さい。テキストを読みたい方は、『新版歌祭文ー摂州合邦辻・ひらかな盛衰記』(織田紘二編、白水社、2001年)が手に入りやすいです。

 さて『今昔物語』です。ぽん太が読んだのは、安価な講談社学術文庫版です(『今昔物語集 4 (4) (講談社学術文庫 308)』国東文磨訳注、講談社、1981年)。第4巻の第4に、「拘那羅太子、眼を抉り法力に依りて眼を得る語」というのがあります。読みがなを付けると、「拘那羅(くなら)太子、眼(まなこ)を抉(くじ)り法力(ほうりき)に依りて眼を得(う)る語(こと)」だそうです。
 あらすじですが、今は昔、天竺の阿育王(あいくおう)に拘那羅(くなら)という名の太子がおりました。継母の帝尸羅叉(たいしらしゃ)は拘那羅に愛欲を抱き、太子の居間に忍び込んで思いを遂げようとしますが、拒絶されます。そのことで太子を恨んだ継母は、夫の阿育王に「太子が自分に恋心を抱いている」と訴えます。王は后の嘘を見破り、太子に遠い国を与えてそこに住まわせます。しかし怒りの収まらない后は、「太子の両目をえぐって国外に追放せよ」という偽りの王の命令を発します。盲目となった太子は妻を連れて流浪の旅に出ますが、いつしか生まれ故郷にたどり着きます。姿形は変わり果てたものの、太子の弾く琴の音で、王はそれが息子であることに気がつきます。真実を知った王は后を罰しようとしますが、太子はそれを制します。寠沙(くしゃ)大羅漢が貴い説法をし、それを聞いた人々が流した涙を集めて太子の眼を洗うと、再び光を取り戻しました。王は関係者を処罰し、太子が眼をえぐったところに塔を建てましたが、そこに盲人がお参りすると眼が見えるようになった。
 阿育王とは、アショカ王のことで、在位は紀元前268年から232年です。ですからこの伝説が事実であったとしたらこの時代まで遡れますが、おそらくそれ以後に作られた伝説でしょう。もちろんこれに似た説話が、アショカ王の時代以前からインドに伝わっていた可能性もあります。
 この説話では、継母が継子に恋をするという点が「摂州合邦辻」と共通ですが、拒否された継母は継子に直ちに恨みを抱き、その恨みから太子の眼をえぐらせます。「摂州合邦辻」では、継母の玉手御前は拒否されても継子の俊徳丸に恋心を抱き続けます。玉手御前が俊徳丸に毒を盛って盲目にさせた理由は、俊徳丸が醜くなることによって、許嫁の浅香姫から嫌われるようもくろんだからです(最後にどんでんがえしがありますが……)。
 盲目となった継子が身をやつしてさまよう点は両方に共通しており、折口信夫はこのように高貴な生まれの人間が身をやつしてさまよう」という物語を日本文学の原型のひとつとして捉え、貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)と呼びました。wikipediaによれば、「のだめカンタービレ」も千秋真一の貴種流離譚とみなせるのだそうです。
 さて、『今昔物語集』では、太子の眼は仏教の霊験によって元通りとなり、仏教のありがたさが強調されます。「摂州……」の方では、実はすべては継母玉手御前が深い思慮によって仕組んだことが明らかとなり、玉手が我が身を犠牲にすることによって俊徳丸の眼が開き、継母の慈愛が誉めたたえられます。継子を愛するという家族制度の侵犯を行った玉手御前が、実は自分を犠牲にしても家族制度を守ろうとしていたというテーマは、1773年(安永2年)の初演時にはおそらくありがたい話しだったと思われますが、現代ではちと納得できない部分があります。

 『今昔物語集』のこの説話は、中世には説教『しんとく丸』と能『弱法師』(よろぼし)を生み出すことになるのですが、今日のところはここまでに。

|

« 【歌舞伎】2007年12月歌舞伎座夜の部「寺子屋」「粟餅」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」 | トップページ | 【文学】継母が継子に恋をする話し エウリピデス『ヒッポリュトス』・セネカ『パエドラ』・ラシーヌ『フェードル』 »

思想・宗教」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74997/17403005

この記事へのトラックバック一覧です: 【文学】継母が継子に恋をする話し。歌舞伎の「摂州合邦辻」と今昔物語集の「拘那羅太子、眼を抉り法力に依りて眼を得る語」:

« 【歌舞伎】2007年12月歌舞伎座夜の部「寺子屋」「粟餅」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」 | トップページ | 【文学】継母が継子に恋をする話し エウリピデス『ヒッポリュトス』・セネカ『パエドラ』・ラシーヌ『フェードル』 »