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2007/12/22

【文学】継母が継子に恋をする話し エウリピデス『ヒッポリュトス』・セネカ『パエドラ』・ラシーヌ『フェードル』

 歌舞伎の「摂州合邦辻」をきっかけに、継母が継子を愛する話しに興味を覚えたぽん太は、前回は『今昔物語集』の説話をみちくさいたしました。こんかいは海を越えて、ヨーロッパの文学をみちくさしてみました。
 今日のみちくさは、エウリピデス『ヒッポリュトス』(『ギリシア悲劇〈3〉エウリピデス〈上〉 (ちくま文庫)』ちくま書房、1986年、に所収)、セネカ『パエドラ』(『セネカ悲劇集〈1〉 (西洋古典叢書)』小林正廣他訳、京都大学学術出版会、1997年、に所収)、ラシーヌ『フェードル』(『フェードル;アンドロマック (岩波文庫)』、渡辺守章訳、岩波書店、1993年、に所収)の三つです。いずれもギリシア神話に題材をとっており、王(テセウス、テゼー)の不在の間に、王の実子(ヒッポリュトス、イポリット)に対して継母(パイドラ、フェードル)が愛を告白しますが拒絶されます。やがて戻って来た王は、息子の方が継母に迫ったという讒言を信じて、息子を呪い殺してしまい、また継母も自害するという話しです。
 ただ、細かいところはいろいろと違いがあります。どこがどう違うかをまとめるのは面倒くさいし、どうせ誰かがやっているでしょうから、省略いたします。ぽん太のひとこと読後感は、エウリピデスでは神の意思に翻弄される人間の運命が胸を打ち、セネカではうんざりするほどの修辞を伴う長台詞のなかにパイドラの複雑で矛盾した内面が描き出され、ラシーヌでは登場人物たちが様々にかかわり合いながら状況が次々と変化していく劇的な構成が見事に思われました。
 エウリピデスの『ヒッポリュトス』のあらすじは例えばこちらのla maison du soirのページに、セネカの『パエドラ』のあらすじは例えばこちらのpdfファイルの4ページに、またラシーヌの『フェードル』のあらすじは例えばこちらのwikipediaの「フェードル」の項目をご覧下さい。
 これらの「西洋系」と、「摂州合邦辻」や『今昔物語集』の「東洋系」を比べてみると、「東洋系」に共通する「息子が盲目となって放浪するが最後に救われる」という部分が「西洋系」にはみられません。「西洋系」で盲目となって放浪する話しといえば、ソポクレスの『コロノスのオイディプス』(『ギリシア悲劇〈2〉ソポクレス (ちくま文庫)』所収)が思い出されますが、この劇ではオイディプスは最後には神に許され、大地のなかに消え去ります。
 ラシーヌの『フェードル』がエウリピデスとセネカを下敷きにして書かれたということは、ラシーヌ自身による序文に書かれています。エウリピデスは、現存している『ヒッポリュトス』以前に、もうひとつ別の同名の劇を作ったそうで、第一作を「顔を蔽うヒッポリュトス」、第二作を「花冠を捧げるヒッポリュトス」と呼んで区別するそうです。セネカは、「顔を蔽うヒッポリュトス」に影響を受けたといわれています。またエウリピデスの訳者松平千秋の解説によれば、ヒッポリュトス伝説の起源は、古くはペロポネソス半島東北のトロイゼンにあるそうです。
 11月の国立劇場「摂州合邦辻」の筋書(歌舞伎のパンフレットのこと)の解説には、「継母が息子を恋する説話は、インドに源流をもつとされ、それが西に伝わりギリシアの悲劇の題材となり、さらにラシーヌの『フェードル』を生み、一方、東へ流布してこの作品(注:「摂州合邦辻」のこと)に結実したともいわれています」と書かれていました。エウリピデスの『ヒッポリュトス』の初演は紀元前428年の春ですから、これは『今昔物語集』の説話に登場するアショカ王の在位(紀元前268年から232年)より200年も前になります。両者に共通するインドの説話があったかどうか、ぽん太には確認するすべはありません。しかしぽん太には、どっちが先でどっちに後から伝わったかを云々するよりは、継母が継子に恋をするという話しが、人類に共通する説話の類型なのだと考える方が自然なような気がします。

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