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2008/02/23

【精神医学史】メスメルとフリーメイソン

 以前にぽん太がモーツァルトの『魔笛』とフリーメイソンの関係について書いたとき読んだ茅田俊一の『フリーメイスンとモーツァルト』[1]のなかに、気になる記述がありました。茅田は、18世紀後半のフリーメイソン全盛期にみられた疑似フリーメイソン活動のひとつとして、メスメルを取り上げているのです。メスメルといえば、催眠術を使って神経症の治療を行った人で、ぽん太の守備範囲ではないか!こ、これはみちくさしてみる必要があります。

 フランツ・アントン・メスメル(Franz Anton Mesmer, 1734〜1815)はドイツ生まれの医者で、彼が動物磁気と呼ぶものを使って神経症の治療を行ったのですが、それはいまでいう催眠術であり、彼は精神療法の先駆者とも呼ばれています。
 茅田は、18世紀後半のフリーメイソンの全盛期において、その周辺で、「山師、詐欺師、不法なぺてん師などによる魔術を援用した疑似メイスンリー活動」が行われたと述べ、その代表的な二つの例として、カリオストロとメスメルを挙げています。メスメルは動物磁気による治療を行えるのは、「特別に霊的な能力を備えた人」である必要があり、「メスマーはこの経験から、1783年パリでメイスンリー的性格の結社「宇宙の調和団」を創設した。メンバーは霊的に浄化されて、メスマーの療法を実行し、広める能力を身につけることが出来ると教えたのである。メスマーのシステムは、当然、真正なメイスンリーとは縁のない一種の瞞着ではあったが、実際に治療の効果があがっていたことから、今日では精神療法の先駆者として認められている」([1]、p.118)と茅田はいいます。
 メスメルが山師カリオストロと同列に扱われているのは、精神科医のぽん太はちょっと納得できない気がします。茅田は、一般には政治的陰謀を企む秘密結社のように思われているフリーメイソンが、時代的制約はあったにしろ、実は18世紀の啓蒙主義・理性主義・人間中心主義の思想のなかに位置づけられることを強調していますが、メスメリズムに関しては、同様の好意的な見方をしていないようです。しかし茅田の記述を読むまで、ぽん太はメスメルとフリーメイソンを結びつけて考えたことはありませんでした。
 そこで、エレンベルガーの『無意識の発見』[2]を読み直してみました。すると、なんだ、ちゃんと出てました。メスメルに治療を頼んだひとのなかに、彼に対して多額の金銭援助を行ったひとたちがいました。ひとりが法律家のニコラ・ベルガスで、もうひとりは銀行家コルンマンでした。1783年頃、彼ら二人は、新しい企画を立案します。「二人で予約会員組織を設立し、大金を集めてメスメルの発見を買い上げようというのである。会員はメスメル法の“機密”の所有権を与えられる特典を有し、また会員は全員が一つの結社をつくり、メスメル法を勉強したいものを教育訓練したり、メスメルの思想の普及に当たることとなる」。この協会の名前は調和協会(Société de l'Harmonie)といい、高額な入会金にもかかわらず、著名人も含め多くの人が入会を希望しました。メスメルと弟子たちのあいだの軋轢もありましたが、この会はメスメルに巨額の富みを与えました。この協会は「企業のようなところと市立学校のようなところと秘密結社フリーメイソン支部のようなところが混じった妙な会」でしたが、パリ以外の市や町にも支部が設置されるなどして、大衆の興味の的となりました。1784年3月、フランス国王ルイ16世は二つの委員会を発足させ、メスメルの方法を科学的立場から検証させました。これら委員会には、天文学者バイイ、化学者ラヴォアジエ、医師ギヨタン(豆知識:有名な機会の発案者。但し発明者ではない)、当時アメリカ合衆国駐仏大使だったベンジャミン・フランクリンなど、名だたる科学者が名を連ねていたそうです。委員会の結論は否定的なものでした。またメスメルと弟子たちとの内紛も激しくなり、嫌気がさした多くの会員が脱退していきました。協会設立からわずか2年後の1785年、メスメルはパリから姿を消してしまいます([2]、p.74〜p.78)。
 またシェルトーク、ソシュールの『精神分析の誕生』には、メスメルの「普遍的流体」(un fuide universel)という概念がフリーメイソンの秘密の協議から着想を得たものだと書いてありますが([3]、p.10)、対応するフリーメイソンの教義がなんなのか、ぽん太にはわかりません。

[1]茅田俊一『フリーメイスンとモーツァルト』講談社現代新書、1997年。
[2]エレンベルガー『無意識の発見 上 - 力動精神医学発達史』木村敏・中井久夫監訳、弘文堂、1980年。
[3]シェルトークk、ソシュール『精神分析学の誕生?メスメルからフロイトへ』岩波書店、1987年。

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