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2008/03/06

【歌舞伎】團十郎の熊谷直実の感情表現、仁左衛門の伊左衛門のかわいらしさ(2008年3月歌舞伎座昼の部)+「西行の仮名」(出光美術館)

 冬に逆戻りしたかのような寒さのなか、ぽん太とにゃん子は歌舞伎を観に出かけてきました。3月の歌舞伎座は、團十郎、藤十郎、菊五郎に仁左衛門と役者がそろっており、たいへん充実した舞台で、ぽん太とにゃん子は大満足で帰ってきました。しかし、たまたま今日だけなのか、それとも若い人気役者がいないせいなのか、はてまた派手な演目がないせいなのか、空席が目立ったのには納得できませんでした。
 さて、昼の部の一番の見物は『一谷嫩軍記』。この狂言は三段目の「熊谷陣屋」が有名で、ぽん太も何度か観たことがありますが、その前段の「陣門・組打」は今回が初めてでした。熊谷直実が一の谷の合戦で、源義経の「一枝を切らば,一指を切るべし」という制札の真意を読み解いて、敦盛の身代わりに自分の息子である小次郎の首を切るという場面です。團十郎と藤十郎が同じ舞台を勤める、というのがすごいことらしいのですが、歌舞伎歴の浅いぽん太にはよく実感できません。
 團十郎の演技が武将の大きさといい、我が子を手にかける悲しみの表現といい絶品でした。これまでぽん太の印象では、團十郎はどちからというと表面的でカラリとした役者で、深い感情表現は向いていないように思っていました。しかし今回の舞台ですっかり見方を改めました。直実が息子を殺すのは、単に主君義経の命令だからというだけではなく、不義密通の罪から救ってくれた藤の方(敦盛の母)への恩義を返すためでもあります。ときには子を思う親心から気持ちがぐらつきながらも、衆人環視の戦場で敵にも味方にも気づかれないように堂々と首を討たねばならないという複雑な心情を、見事に演じておりました。ことが済み、我が子の首を布で包み、亡がらを川に流し、鎧や刀を馬に積み、後片付けをする静かで長い演技のあと、悲しみが一気に押し寄せて来て馬の首に顔をうずめて身を震わせて泣き出す場面も感動しました。
 藤十郎の小次郎と敦盛の二役は、若々しく色気があり、また小次郎が父に早く討ってくれろと告げる場面など品格が感じられました。魁春の玉織姫は、目が見えなくなって小次郎の首を敦盛と思って嘆く下りが、感情を大げさに表に出さない分、哀れさが胸を打ちました。
 昼の部でもうひとつすばらしかったのは、「吉田屋」の仁左衛門です。伊左衛門はなよなよした若旦那で、子供っぽくてしょうもない人物ですが、仁左衛門が演じるといやみったらしくならず、ホントに無邪気でかわいらしく見えました。火鉢で冷えた手のひらを暖める仕草なども美しかったです。福助も、夕霧のような花魁の役は絶品。
 菊五郎は「女伊達」で気っ風のいい姐さんの立ち回り。最初の『三番叟』『萬歳』『屋敷娘』の踊りが春らしくて楽しいです。

 ところで、今回の歌舞伎では、歌舞伎独特の遠近法の表現が二つ出て来たのが面白かったです。ひとつは「組打」。波が描かれた板が、手前から奥に向かって三段あって、一番奥の三枚目には小さな船が浮かんで、沖にある船を表します。浜辺の設定の舞台手前を馬に乗って下手から上手に駆けていった敦盛(実は小次郎)は、次いで一枚目の波の向こうを上手から下手に移動しますが、次に二枚目の板の向こうに下手から現れるのは子役で、浜辺からだんだんと遠くの船に向かって馬を泳がせて遠ざかっていく様子が表現されます。遠くで子役同士が一騎打ちをし、浅黄幕が振り落とされると、組み合った熊谷直実と敦盛が舞台手前にセリ上がってくるのは、現代の映画でいえば望遠から突然クローズアップにカットバックするような、見事なスペクタクルです。 
 もうひとつは「吉田屋」で、伊左衛門が吉田屋の奥座敷へ夕霧の様子をうかがいにいく場面です。伊左衛門はふすまをいくつも開けて舞台のはるか奥にある奥座敷へと走って行くのですが、実際はふすまとふすまの間隔はそれぞれ半間ほどしかありません。現実にはわずかの奥行きを、すごい距離があるかのように見せて、何回か行ったり来たりするシーンは、ちょっと滑稽でおもしろかったです。

 さらに豆知識ですが、馬上の敦盛と熊谷直実は、二人とも背中に布をかけたカゴのようなものを背負っていました。これは母衣(ほろ)と呼ばれる軍装で、元来は背後から飛んで来た矢を防ぐためのものでしたが、のちには身分などを表す装飾としても使われたそうです。花弁をこの母衣に見立てて名付けられた、その名もクマガイソウアツモリソウというランがあります。ぽん太はどちらも見たことがないのですが、一度見てみたいと思っています。美しい形から、盗掘が後を絶たないそうです。

 帰りに出光美術館の「西行の仮名」展を見ました。国宝の「一品経和歌懐紙」(京都国立博物館蔵)はわずか数点敷かない西行の真筆のひとつだそうです。字が下手で書道の素養のないぽん太には、「上手だった」という感想しかないのが悲しいところです。
 
一、春の寿(はるのことぶき)
  三番叟
  萬歳
  屋敷娘
  <三番叟>
               翁  我 當
             三番叟  歌 昇
             三番叟  翫 雀
              千歳  進之介
  <萬歳>
              萬歳  梅 玉
  <屋敷娘>
              お梅  扇 雀
              お春  孝太郎
二、一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)
  陣門・組打
          熊谷次郎直実  團十郎
             玉織姫  魁 春
         平山武者所季重  市 蔵
  熊谷小次郎直家/無官太夫敦盛  藤十郎
三、女伊達(おんなだて)
           木崎のお秀  菊五郎
           淀川の千蔵  秀 調
           中之島鳴平  権十郎
四、夕霧 伊左衛門
  廓文章(くるわぶんしょう)
  吉田屋
          藤屋伊左衛門  仁左衛門
            扇屋夕霧  福 助
           太鼓持豊作  愛之助
            番頭清七  錦 吾
           阿波の大尽  由次郎
        吉田屋女房おきさ  秀太郎
         吉田屋喜左衛門  左團次

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