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2008/08/03

【歌舞伎】玉三郎・海老蔵の「高野聖」は少し不満が残りました(2008年7月歌舞伎座夜の部)

 7月の歌舞伎座夜の部は、お楽しみ玉三郎と海老蔵の「高野聖」と、「夜叉ケ池」の再演です。ワクワクしながら観に行ったのですが、残念ながら不満が残る結果となりました。

 「高野聖」の原作は、言わずと知れた泉鏡花(1873〜1939)の同名の小説です。昭和29年(1954年)に歌舞伎として上演されたこともあるそうですが、今回は石川耕士と坂東玉三郎が新たに演出したものだそうです。
 玉三郎演ずる「女」は、美しくて落ち着きのある年増で、次郎や獣に対して邪険ともとれる態度をとる一方で包み込むような優しさがあり、気品と妖艶さを併せ持つというものでした。泉鏡花の描いた「女」の一面をよく演じていたと思います。しかし「女」のもう一方の面、非現実的な魔境に棲む妖女という面があまり感じられず、ちょっと世話物っぽくい印象を受けました。ポスターの写真の方が、妖艶さや魔性の雰囲気があったように思います。とはいえ、小説では観念的イメージにすぎない「女」を、生身の身体で表現した玉三郎には拍手を送りたいと思います。
 蛇や猿、蛙やコウモリ、ムササビなどの獣は、黒衣さんたちがすごく頑張ってリアルに演じていましたが、気味悪く不気味というよりも、滑稽でかわいらしく感じられました。馬も機械仕掛けが目立ち過ぎで、普通に人が入っている方がよかった気がします。また舞台がやたらとぐるぐる回るのもわずらわしかったです。
 原作では、ヒルの森などの描写によって、現実から魔境に入って行く境界がわかりやすいのですが、舞台では不明瞭だった気がします。
 玉三郎と海老蔵の混浴、もとい一緒に水浴びするシーンも、「お客様サービス」という感じで、妖艶な雰囲気はなく、客席からも照れ笑いが起こってました。ちなみにぽん太とにゃん子の席は前の端の方だったので、岩陰で着物を脱いだ海老蔵のふんどし姿が見え、にゃん子は喜んでおりました。
 今回の舞台がいまひとつ面白くなかった理由として、もともと独白形式の小説を演劇化する難しさがあったような気がします。
 劇の構成としては、後半の親仁の台詞が長過ぎます。この台詞はとっても大切なもので、これによって「女」の来歴や魔力がすべて明らかになるという、この話しの核心なのですが、それが一人の長台詞で解き明かされるのでは、劇として破綻しています。歌六の台詞まわしは実に見事で、この長台詞をちっとも飽きさせませんでしたが、登場人物のやり取りで表現して欲しいものです。
 また、心の中を文章で表現できる小説と異なり、演劇では外的な言動でしか表現できないので、高野聖がどう感じて何を考えていたかという内面がわかりませんでした。これも海老蔵の演技力の問題だけでなく、脚本の問題でもありましょう。
 ちなみに『高野聖』を書いた当時の泉鏡花は、桃太郎という名の芸伎(本名:伊藤すず)との愛を育んでいました。しかし当時の日本社会では、芸伎はあくまでも遊び相手であり、生まれ育ちのよい妻をめとって立派な家庭を築くのが男子たるものの本懐であると考えられており、鏡花の師匠の尾崎紅葉は二人の交際をかたく禁じたのでした。しかし尾崎紅葉の死後、ふたりは夫婦となります。つまり現実には、小説の結末とは異なり、高野聖は「女」のところへ戻って行ったのです。しかし今回の公演では、「心根の美しい若い僧に惚れた年増が応援する」という話しになってました。
 尾上右近の次郎は、最初サッカーの小野伸二かと思いましたが、好演。木曽節では見事な喉を聞かせ、六代目菊五郎のひ孫で、七世清元延寿太夫の息子である血筋を見せつけました。
 ちなみに、聖が女に出会った天生峠(あもうとうげ)をぽん太が訪れたときの話しは、こちらです。残念ながらぽん太は妖女には出会いませんでした。
 
 「夜叉ヶ池」は平成18年7月に歌舞伎座で行われたときとほぼ同じメンバーによる再演でした。夜叉ヶ池の主である白雪姫が、実は昔雨乞いの生け贄にされて池に身を投げた娘・白雪であるという下りが、今回は前回よりわかりにくかった気がするのですが、台詞がいくらか変わっていたのでしょうか? そこを押さえないと、人間界と魔界という二つの世界があり、百合と萩原が人間界から魔界へ移行するという話しが見えにくくなり、欲得を求める村人が懲らしめられるという教訓になってしまいます。
 ちなみに、夜叉ヶ池の白雪姫に恋文を寄せたのは白山の千蛇ヶ池の主ですが、ぽん太も白山に登ったことがありますが、そんな名前の池はあったっけ。調べてみると、山頂付近のお池めぐりなかのひとつよのうです。しまった、写真を見直してみましたが、千蛇ヶ池の写真はありませんでした。残念!

歌舞伎座・七月大歌舞伎(平成20年7月)
夜の部
一、夜叉ヶ池(やしゃがいけ)
              百合    春 猿
             白雪姫    笑三郎
             萩原晃    段治郎
            穴隈鉱蔵    薪 車
           畑上嘉伝次    寿 猿
           黒和尚鯰入    猿 弥
             万年姥    吉 弥
            山沢学円  市川右 近
二、高野聖(こうやひじり)
               女    玉三郎
              宗朝    海老蔵
              薬売    市 蔵
              次郎  尾上右 近
              猟師    男女蔵
              百姓    右之助
              親仁    歌 六

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