« 【ダイビング】のんびりゆったり・慶良間2日目 | トップページ | 【ダイビング】初物のマクロがいっぱい・慶良間3日目 »

2008/10/27

【歌舞伎】玉三郎の八重垣姫、菊五郎の直次郎・2008年10月歌舞伎座夜の部

 千穐楽に歌舞伎座夜の部を観て来ました。本日の菊五郎の千穐楽のお約束は、「直侍」の「入谷大口屋寮の場」の花道の出で、雪で滑って転んだところか?
 『本朝廿四孝』は今年の4月に時蔵の八重垣姫で観たばかり。今回は玉三郎です。時蔵演じる八重垣姫は表情豊かで、ついつい蓑作に魅かれてしまうかわいさ、濡衣に仲立ちを頼む積極さと恥じらい、自害するときの覚悟などがひとつひとつきっちりと表現されていました。玉三郎の八重垣姫は、表情は抑制されており、身体表現も様式的で、人間ではなく文楽人形のようでしたが、あらゆるポーズや動作がひとつひとつ美しく気品があり、感動したぽん太は口をあんぐりあけて見とれていました。菊之助も、いつの間にか恰幅がよくなって貫禄がでてきて、すばらしい勝頼でした。
 八重垣姫のモデルが、武田信玄の娘で上杉景勝に嫁いだ菊姫であることは、以前の記事に書きました。
 「狐火」を観るのは初めてでした。恋しい勝頼を救いたいと願う八重垣姫が、諏訪明神の使いの狐と一体化する様子は、妖しくもあり神々しくもあり、鬼気迫る名演技でした。
 ところで、何で「狐」? 狐といえばお稲荷さんですが、諏訪大社(諏訪明神)はお稲荷さんではありません。諏訪大社のホームページを見ても、狐のことは書かれていません。しかし、例えばこちらの早稲田大学図書館のページをみると、十返舎一九の作品に『諏訪湖狐怪談』(すわのうみきつねかいだん)というのがあるようです。ちなみに『本朝廿四孝』の初演は1766年(明和3年)、『諏訪湖狐怪談』の出版は1807年(文化4年)ですから、十返舎一九の方が後です。またこちらの怪異・妖怪伝承データベースには、「狐、諏訪のまわたし」という項目があり、「諏訪湖氷結期、明神の輿を守護して、狐が行列をつくり渡る。人々の目には、狐火のみ見えて、形は一向に見えない。これを諏訪のまわたしという」と書かれています。諏訪湖に張った氷が割れて盛り上がる御御渡りに関連して、狐にまつわるなんらかの伝承があったようです。明治初期の神仏分離では、各地で土着の神々の信仰が禁止され、記紀に載っている神様への信仰が強制されたといういきさつがあるので、ひょっとしたら江戸時代には、諏訪明神と狐信仰に関係があったのかもしれません。
 さて10月歌舞伎に話しを戻して「直侍」ですが、菊五郎の直次郎は、このような役をやらせたら絶品ですね。菊之助の遊女三千歳も、恰幅がよくなったためか、濃艶な女らしさがあってよかったのです。だけど演技がちょっとリアルというか生々しすぎるように思われ、もう少し様式的な方が歌舞伎らしくてよかった気がします。今回は清元がよく聞こえる席でしたが、語りが主体の義太夫とは違って、清元が音楽としての表現力を持っていることに初めて気がつきました。再会した直次郎と三千歳のさまざまな感情の動きを、清元が見事に表現しておりました。黙阿弥はホントに天才です。
 精神科医のぽん太が気になったのは、直次郎が訪ねて来なくなったために三千歳が患っていたという「ぶらぶら病」(ぶらぶらやまい)です。初めて耳にした言葉です。「直侍」を含む『天衣紛上野初花』の初演は1881年(明治14年)ですから、この頃には使われていた言葉と思われます。ぽん太の手元にある江戸や明治の病気に関する本を見ても出ていません。医学用語ではなく、民衆の間で一般に使われていた言葉と思われます。芝居の文脈と「ぶらぶら」という名前からすると、落ち込んでなにも手につかずぶらぶらと日々を過ごす状態と推察され、現代でいえば「うつ病」にあたるように思われます。明治時代にはやった「神経衰弱」とも近いのかもしれません。あれあれ、goo辞書に出てました。「特にどこが悪いというわけではないが、何となく調子の悪い状態が長びく病気」とのことで、徳富蘆花の『不如帰』の用例が挙げられています。ちなみに『不如帰』が「国民新聞」に連載されたのは1898年(明治31年)から翌年にかけてです。ほかにググってみても、あまり情報がありませんが、松井高志の『人生に効く!話芸のきまり文句 』(平凡社新書、2005年)で「ぶらぶら病」に触れているという情報があるので、こんど読んでみます。
 『英執着獅子』は、福助の濃さと華やかさが生きていて、美しく豪華でダイナミックでよかったです。こんかいはどの演目も大満足でした。


芸術祭十月大歌舞伎
平成20年10月、歌舞伎座
夜の部 
一、本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)
  十種香
            八重垣姫    玉三郎
            武田勝頼    菊之助
           白須賀六郎    松 緑
            原小文治    権十郎
            長尾謙信    團 蔵
            腰元濡衣    福 助
  狐火

            八重垣姫    玉三郎
            人形遣い  尾上右 近
二、雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)
  直侍
  浄瑠璃「忍逢春雪解」
           片岡直次郎    菊五郎
             三千歳    菊之助
           寮番喜兵衛    家 橘
           暗闇の丑松    團 蔵
              丈賀    田之助
三、英執着獅子(はなぶさしゅうじゃくじし)
        傾城後に獅子の精    福 助

|

« 【ダイビング】のんびりゆったり・慶良間2日目 | トップページ | 【ダイビング】初物のマクロがいっぱい・慶良間3日目 »

芸能・芸術」カテゴリの記事

コメント

松井高志さん、何度もコメントありがとうございます。
ぽん太も、何度かブログで書いたように、科学としての医学の歴史の本はいっぱいあるのに、世の中の人が病をどうとらえていたか、という歴史の本が少ないのを、常々不満に思っております。
ぽん太にはとてもお手伝いは無理ですが、落語・講談と病の本、ぜひ読んでみたいです。

投稿: ぽん太 | 2009/04/14 18:46

松井です。
「天保六花撰」はいうまでもなく、三代目松林伯圓の講談です。芝居はそれを演劇化したものです。従って、「天保六花撰」の口演速記をみれば、「ブラブラ病」が確認できると思われます。落語では、意外なところで「搗屋幸兵衛」にありました。長屋の隣に米搗きが住んでいて、明け方に仕事するので、その震動で仏壇の先妻の位牌が向きを変えてしまう。後妻がそれを気に病んでブラブラ病に罹る、という筋です。落語・講談と病(あるいは「生老病死」)というのは、それだけで一冊の本になりそうなテーマなのですが、素人の私には手になかなか負えません。機会があればお智恵を拝借させてください。失礼しました。

投稿: 松井高志 | 2009/03/27 14:27

もしかして、ご、ご本人ですか?感激です!happy01
2008年11月23日の記事に書いたように、『人生に効く!話芸のきまり文句』を読ませていただきました。病気の日常用語も、時代に連れて変わるものなんですね〜。
「ひきこもり」などというのも、百年たったら誰も意味を知らなくなるのかもしれません。
たまに遊びに来て下さい。

投稿: ぽん太 | 2009/03/24 16:48

「人生に効く! ~」の著者・松井高志です。よく落語には「ブラブラ病」が出てきます。代表例が「代脈」という噺で、明治45年の四代目柳家小三治口演(「文藝倶楽部」に速記掲載)のものに、「俗に云ふブラブラ病、大切と云へば大切には違ひないが、何もさう案じる程の事はない」とあります。「大して重くもないのに、久しく全快しない病気。気鬱症、恋わずらい、神経衰弱の類。肺病の下地といわれた」(「江戸語の辞典」前田勇・講談社学術文庫版)とのことですが、落語では「恋わずらい」であることが多いようです。他には「崇徳院」とかに出てきそうです。講談ならさしずめ「朝顔日記」「小西屋騒動」あたりでしょうか。

投稿: 松井高志 | 2009/03/21 19:42

かんがえるさん、コメントありがとうございました。
10月の夜の部はホントによかったですよね。
ぽん太は歌舞伎初心者なので、あんまり参考にならないかと思いますが、
こんかいの「ぶらぶら病」や「狐」などのように、
今後も初心者なりに気になったことを調べて書いていきますので、
ときどき遊びに来て下さい。

投稿: ぽん太 | 2008/10/28 18:48

少し前よりときどき拝見。とりわけ歌舞伎は参考にさせていただいております。千秋楽に参りましたが、本当に満足いたしました。玉三郎に引き込まれ、菊五郎にうんうんと頷き菊之助に見惚れ、そして千秋楽の福助のぐるんぐるんは身体が壊れるんじゃないかと思うほど果てしなく続き、やんやの拍手で大盛り上がりでした。どれも大満足というぽん太さま同様、本当に堪能いたしました♪

投稿: かんが える | 2008/10/27 16:57

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74997/42921032

この記事へのトラックバック一覧です: 【歌舞伎】玉三郎の八重垣姫、菊五郎の直次郎・2008年10月歌舞伎座夜の部:

« 【ダイビング】のんびりゆったり・慶良間2日目 | トップページ | 【ダイビング】初物のマクロがいっぱい・慶良間3日目 »