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2008/11/03

【歌舞伎】海老蔵の仁木弾正はハリウッド張りの殺人鬼・花形歌舞伎2008年11月夜の部

 今月の花形歌舞伎@新橋演舞場は、海老蔵の人殺し2態が見物です。昼の部は『伊勢音頭恋寝刃』の福岡貢による遊郭での大量殺人、夜の部は『伽羅先代萩』の仁木弾正による渡辺外記左衛門の殺人未遂です。人殺しを見物して楽しむとは、歌舞伎が江戸時代には吉原と並ぶ「悪所」とされたこともうなづけます。『伊勢音頭恋寝刃』のモデルとなった、医者孫福斎宮(まごふくいっき)による遊郭における9人の殺人事件が起きたのが1796年(寛政8年)5月4日。それから間もない同年の7月25日に、『伊勢音頭恋寝刃』は初演されています。現代に置き換えてみると、例えば池田小事件の2〜3ヶ月後に、それを題材にしたテレビドラマをやるなどというのは考えられないことです。当時の歌舞伎が、現在のテレビのワイドショーや週刊誌の役目を果たしていることを差し引いても、かなり不謹慎なきがします。しかも現在では、着物姿のセレブなご夫人がこれらの狂言を見て、喜んで拍手を贈っているというのも不思議と言えば不思議です。

 さて、夜の部の感想です。「花水橋」では、亀三郎の頼兼が、残念ながら領主としての風格もなければ、放蕩にふけるつややかさもなし。さらに身のこなしに、踊りの優雅さやリズム感がなく手足だけを動かしてる感じで、音楽に乗せただんまりの面白さがでてきません。
 「竹の間」では、ぽん太ごひいきの愛之助が役を作り過ぎ、八汐が滑稽に感じられました。八汐はところどころに愛嬌はあっても、基本は憎々しげな巨悪でないと、話しが盛り上がりません。対する菊之助の政岡も、セリフはちゃんと言っているものの、自分を陥れるようなセリフを耳にしてハッと驚くような仕草がありません。保っちゃんなら、「ハラで聞いていないからである」とでも言いそうです。「足利家御殿の場」で、千松の死を嘆く場面も絶叫し過ぎで、もう少し押さえた演技で悲しみを表現して欲しいところです。
 「床下」の海老蔵の仁木弾正。こうした役での迫力と集中力は絶品です。ゆっくりとした花道の引っ込みで、まったくだれることなく緊張感を保っていました。
 そして「対決・刃傷」。海老蔵演じる仁木弾正は、圧倒的な力の差を見せつけながら、まるで猫がネズミをもてあそぶかのように、老人渡辺外記左衛門(男女蔵)に襲いかかります。その様子は、まるで人間らしい感情が感じられず、「ターミネーター」だか「13日に金曜日」だかアメリカ映画の冷徹な殺人鬼を見るようでした。人情沙汰や金目当てではない昨今の目的なき殺人を反映しているようで、とても同時代的で身につまされる演技で、寒々しく恐ろしかったです。討たれたあと手足をばたばたと動かす仕草は、エイリアンかロボットのようでした。「対決・刃傷」をハリウッドばりに演じた海老蔵に、こんかいは拍手です。それから片足で立ってのシェーのような見得(すみません、歌舞伎初心者のぽん太には用語がわかりません)で、微動だにしないバランス感覚にはびっくり仰天。ぽん太の好きなバレエでいえばポリーナ・セミオノワに匹敵する、すごい身体能力です。松緑の細川勝元は明るく朗々として利発な感じでよかったですが、大大名の懐の深さや風格が感じられず、江戸の岡っ引きのようなに見えてしまったのは、若いから仕方ないのでしょうか

 おしまいに『龍虎』。愛之助と獅童が、舞台を歩き回ったり、髪の毛を振り回したりするだけで、踊りとしての味わいもなければ、アンサンブルもそろっていない。頑張ってるのはわかりますが、歌謡ショーをみている感じで、「若さ」は感じるものの、面白くもなんともありませんでした。

 今年の正月のチベット旅行でご一緒したアヒルさんに、偶然会いました。なつかしかったです。


花形歌舞伎

平成20年11月/新橋演舞場
夜の部 
一、通し狂言 伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)

  序 幕 鎌倉花水橋の場
  二幕目 足利家竹の間の場
  三幕目 足利家御殿の場
      同  床下の場
  四幕目 問注所対決の場
  大 詰 控所刃傷の場
  <花水橋・竹の間・御殿・床下>
              政岡  菊之助
              八汐  愛之助
          荒獅子男之助  獅 童
            絹川谷蔵  男女蔵
            足利頼兼  亀三郎
              松島  吉 弥
             沖の井  門之助
             栄御前  右之助
            仁木弾正  海老蔵
  <対決・刃傷>
            細川勝元  松 緑
         渡辺外記左衛門  男女蔵
            渡辺民部  亀三郎
           山中鹿之助  宗之助
            山名宗全  家 橘
            仁木弾正  海老蔵

二、龍虎(りゅうこ)
               龍  愛之助
               虎  獅 童

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コメント

かんがえるさん、コメントありがとうございます。
ぽん太のブログは全く個人的な感想なので、鵜呑みにしないようお気をつけ下さい。
豪快で迫力ある海老蔵を見たければ夜の部、美男子でやさ男の海老蔵を見たければ昼の部でしょうか?

投稿: ぽん太 | 2008/11/04 21:12

ブログの評判を参考にしつつ、たまにポッと出る良いお席をゲットして下旬に観に行くというパターンで最近は観ることが多いのですけれど。
今月は演舞場夜の先代萩をと目論んでおりましたが、やはり昼の部よりは夜のほうが良さそうでしょうか。10月の歌舞伎座夜の部が良かっただけに…。う~ん。どうしましょう。

投稿: かんが える | 2008/11/04 18:14

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