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2008/12/11

【読書】あなたは欧米派それとも日本派? 石川榮吉『欧米人の見た開国期日本 異文化としての庶民生活』

 以前に新聞の書評欄で見て気になっていた、石川榮吉の『欧米人の見た開国期日本―異文化としての庶民生活』(風響社、2008年)を読んでみました。
 開国期に日本を訪れた外国人たちの残した記録をひもとき、当時の外国人が日本をどのように見て、どのように感じていたかをまとめた本です。
 著者の石川榮吉(1925-2005)は社会人類学、オセアニア民族学が専門で、自身もオセアニアの少数民族のフィールドワークを何度も行っているとのこと。自らの異文化との接触体験を踏まえて、本書は、単なる開国期日本の風俗史ではなく、また外国人の誤解をあげつらうのでもなく、異文化の接触において生じる問題まで視野に入れているところが興味深いです。著者は2005年にこの世を去りましたが、氏の遺稿を須藤健一氏がワープロ化して、本書が生まれたとのこと。その須藤氏があとがきで書いているように、サイードの『オリエンタリズム』と同じ問題意識を持つ本だと思われます。とはいえ、けっして堅苦しい本ではなく、気軽に読むことができます。また、ところどころで著者がもらす現代の風潮に対する批判もおもしろく、エッセイとしても楽しめます。
 ぽん太の個人的興味としては、歌舞伎で描かれている人たちが、実際はどういう生活をしていたのかを知るという楽しみもあります。
 いつものように、興味のある方はじかに本を読んでいただくことにして、ぽん太が興味深かった点の抜き書きです。

 多くの外国人は、日本人の容姿を醜いと感じたようです。特に成人女性の、眉を剃り落してお歯黒をした姿は、彼らの目には醜く映ったようです。一方で若い娘に関しては、美しさや愛らしさを讃えた記述が多いそうです。
 日本人の清潔好きも、外国人を驚かせたようです。入浴の習慣を初めとし、道路の掃除が行き届いていること、住居がこざっぱりとしていることなどです。
 入浴に関しては、お湯の熱さに関する記述も多いそうですが、もひとつ男女混浴だったことへの驚きが大きかったようです。本書によれば、東京で男女混浴が禁止されたが1869年(明治2年)ですが効果は上がらず、1890年(明治23年)に東京で7歳以上の男女混浴の禁止が再度布告されてから、ようやく混浴は姿を消して行ったのだそうです。
 さらには、湯屋から近くの自宅まで、真っ裸で帰る男女がいたそうです。当時は裸は「見てもいいが見つめてはいけない」ものだったようです。しかし、外国人が日本に住むようになると、かれらのぶしつけな視線を嫌って、女性たちは湯屋の帰りもしっかりと着物を着るようになっていったのだそうです。
 吉原などの遊女に関しては、ぽん太も常々歌舞伎を見て疑問に思っておりました。平気で妻や娘を遊郭にやる気持ちがよくわかりませんでしたが、それは外国人も同じだったようです。もちろんヨーロッパにも娼婦はいましたが、日本の売春の特徴として、外国人はおおむね次のような特徴をあげているそうです。(1)幕府に公認された遊郭は、税金を納め、これが幕府の財源となっている。(2)日本の遊女の多くは貧しさのために売られたものであり、彼女には何の罪も責任もないし、社会から非難されることもない。(3)遊女たちは、年季が明けるか、身請け金を支払われた場合には自由のみとなって結婚することも多かったが、その際、過去が問われることはない。(4)幼女期に遊郭に売られた娘は、十五、六歳になって娼妓となるまでのあいだに、行儀作法、読み書き、歌舞音曲、生け花、書道など、高い教養を身につける。浅草の観音堂には遊女の額がかかげられていたそうですが、外国では非難される娼婦が日本では名誉ある身分とされていることに、外国人は驚いたそうです。
 家屋に関しては、日本の家がたいてい開け放ちで、家のものが家事をしていたり、寝そべっているのが丸見えだったそうです。家の中に家具がないことも珍しかったそうで、一般庶民は食事も畳の上に直接食器を起き、また少なくとも下層の庶民は、敷き布団を使う習慣もなかったそうです。
 外国人に対して、江戸時代の庶民が友好的で、親切で、正直な印象を与えたのに対し、幕府の役人や商人には、不誠実で嘘つきで信頼できないと受け止められたようです。役人たちは、のらりくらりと言い訳をして何もせず、倫理的あるいは論理的に問いつめても、意に介さなかったそうです。何かというと雑談をしたりお茶を飲んだりして、時間を無駄にしていたそうです。のらりくらりと責任転嫁して何もしないという役人の伝統は、開国期にはすでに出来上がっていたようですね。
 また、日本人の勤勉さを讃える外国人がいる一方で、日本人が怠惰で悠長で、「時は金なり」という観念がないというヨーロッパ人も多かったようです。当時の日本は「急ぐ」という感覚がなかったようで、いつから日本人は現代のような働き蜂に変身したのか、興味深いところです。
 ぽん太の関係する疾病に関して言えば、眼病と皮膚病が多いことを指摘している西欧人も多いそうです。
 宗教に関しては、日本人は宗教に無関心だと感じた外国人が多いそうです。ハリスの日記には、「この国の上層階級の者は、実際はみな無神論者であると私は信ずる」と書かれているそうです。またオールコックは、一般大衆の中には来世を信じている者もあるが、知識階級は死後の世界を信じていない、と書いています。また浅草寺のように、宗教と娯楽が結びついているというのは、西欧人には理解不能だったようです。
 よくいわれる当時の親子関係に関してですが、子供のしつけが行き届いていて、子供が愛情をもって育てられていることに多くの欧米人が着目しています。モースは、日本の学童が先生を深く尊敬していることに驚き、アメリカだったら「ある学区では、職業拳闘家(ボクサー)でなければ学校の先生は勤まらない」と嘆いたそうですが、現代のわれわれが当時の日本を訪れたら、モースと同じような感慨に浸ることでしょう。

 この本を読んでいると、ある部分では「日本人は今も昔も変わってないな〜」と感じますし、別の部分では「をひをひ、まじかよ!」と、外国人と一緒にツッコミを入れたくなります。同じ著者には、反対に当時の日本人は外国をどう捉えたか、を扱った『海を渡った侍たち―万延元年の遣米使節は何を見たか』という本があるので、そのうち読んでみたいです。

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