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2009/01/21

【オペラ】大感動!演出よし歌よし音楽よし・『蝶々夫人』新国立劇場

 う〜、さぶ……。
 新国立劇場の『蝶々夫人』を観に行ってきました。軽い気持ちで行ったのですが、あふれる涙が止まらず、ぽん太は数年ぶりの大感動でした。公式サイトはこちらです。
 『蝶々夫人』を観るのは2回目で、前回は2006年7月の東京二期会の公演でした。その時の印象は、「ああ、有名な『蝶々夫人』って、こんな話しね」という感じで、それなりに面白かったものの、そんなに感動した記憶はありません。
 幕があくと、舞台装置はやや抽象的で、立体的な造形や質感が心地よいです。ライティングもすばらしく、階段上の入り口から入ってくる人物の影が、湾曲した壁に大きく映し出されるのですが、このオペラの悲劇的で暗い部分を効果的に暗示しております。またライティングや障子の開け閉めによって、舞台上に切り取られるさまざまな光の図形が印象的です。そして驚きのラストシーン。蝶々夫人は、舞台の上手客席側で、客に背を向けて舞台の奥を向いたまま、自害します。「あれあれ、何であんな端っこで……」と思っていると……!公演は1月24日までなので、書かないておきましょう。とにかく、とてもすばらしい演劇的な演出でした。
 調べてみると、演出の栗山民也は、演劇畑で活躍して来たひとで、現在は新国立劇場の演劇部門の芸術監督だそうです。だからこそ、通常のオペラのような、歌手が大げさな身振り手振りをしながら歌うという演出ではなく、音楽と歌に「+α」としての演出を加えることができたのですね。ぽん太はこんかいの演出に、拍手喝采を送りたいと思います。
 蝶々夫人を歌ったのはババジャニアン。変な名前です。でも透明な美しい声で声量もあり、演技も上手で、とてもよかったです。アルメニア生まれとのことで、ちょっと東洋系が入っている感じで、青い目の白人さんが蝶々夫人を演じるときの違和感もなかったです。公式サイトはこちらです。ピサピアのピンカートンは、豊かな声量と延びやかな歌声で、これぞイタリアという感じ。これだけ声がよければ、ちょっとメタボでもノープロブレムです。シャープレスのイェニスはなかなかの男前で、ピンカートンの手紙を届けに来たものの、蝶々夫人がいまだにピンカートンを待っていることを知って逡巡するあたりの演技がすばらしかったです。
 オペラ『蝶々夫人』の面白さは、ピンカートンを信じて帰りを待ち続ける蝶々夫人の愛と純情にあるのではありません。すでに結婚するときから、周囲のひとたちはやがて蝶々夫人がピンカートンに捨てられることを知っています。そして周囲のひとたちがそれを知っていることは、台詞から、観客もわかっています。そのことを知らないのは、舞台上も客席も含めて蝶々夫人ただひとりです。正確にいえば、蝶々夫人も無意識的にはそのことを知っているのであり、彼女の「意識」だけが、自分がやがて捨てられることを知らないのです。彼女は、誰にとっても自明である「現実」を受け入れようとしません。そのかわりに、ピンカートンが戻ってくるという「幻想」にしがみつきます。シャープレスは、ピンカートンの手紙を読むとき、彼女に現実をわからせようとします。これは、精神医学では「直面化」(confrontation)と呼ばれます。シャープレスは、「もしピンカートンが戻ってこなたったらどうするか」と蝶々夫人に訪ねますが、すると彼女は「芸者に戻るか、死ぬしかない」と答えます。しかも「芸者に戻る」という悲惨な選択肢は、すぐさま否定されてしまします。ちなみに歴史的には、江戸時代の芸者(遊女)がけっして惨めで恥ずべき存在ではなかったことは、以前の記事で書きました。それはさておき、蝶々夫人は、ヤマドリ公爵と結婚するという選択肢も捨て、自らを最も危険な選択肢に追い込んで行きます。誰からも見えている「現実」を否認し続け、ひたすら「幻想」にしがみついている蝶々夫人の姿こそが、ぽん太が彼女を哀れに思い、深く同情する理由なのです。なぜならそれは、自分自身の姿でもあるわけですから。


『蝶々夫人』
2009年1月18日、新国立劇場・オペラ劇場
【作 曲】ジャコモ・プッチーニ
【台 本】ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イッリカ

【指 揮】カルロ・モンタナーロ
【演 出】栗山 民也
【美 術】島 次郎
【衣 裳】前田 文子
【照 明】勝柴 次朗
【芸術監督】若杉 弘

【蝶々夫人】カリーネ・ババジャニアン
【ピンカートン】マッシミリアーノ・ピサピア
【シャープレス】アレス・イェニス
【スズキ】大林 智子
【ゴロー】松浦 健
【ボンゾ】島村 武男
【神官】龍 進一郎
【ヤマドリ】工藤 博
【ケート】山下牧子

【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団

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