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2009/02/11

【バレエの原作を読む(4)】『白鳥の湖』←ムゼーウス『奪われた面紗』??

 なんとか4回目を迎えたぽん太の「バレエの原作を読む」シリーズ。今回はクラシック・バレエの代表『白鳥の湖』です。
 Wikipediaを見ると「ドイツの作家ムゼウスによる童話『奪われたべール』を元に構想が練られ」たと書いてあります。ははは、楽勝です。『奪われた面紗ーーあるいはモンゴルフィエ風のお伽話』という題で邦訳が手に入ります[1]。め……面紗。読めません。なんだ「ヴェール」とルビがふってある。
 『白鳥の湖』の台本をうんぬんするには、このバレエの成立事情を押さえておく必要があります。初演は1877年、モスクワ・ボリショイ劇場バレエ団、台本はウラジミール・ペギチェフとワシリー・ゲルツァー、振付けはヴェンツェル・ライジンガー、音楽は言わずと知れたチャイコフスキーですね。この初演は大失敗だったという説や、そこそこの成功だったという説もあるようですが、約40回上演されたのち、1893年を最後にボリショイ劇場のレパートリーから消え、当時の振付けも廃れてしまいます。チャイコフスキーは1893年に急死しますが、1894年にプティパとイワーノフの振付けで、サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場で全幕が再演されます。これが「蘇演版」とよばれるもので、その後の版はこの「蘇演版」が元になっています。鈴木晶氏のサイトに『白鳥の湖』台本対照表があり、初版の台本、チャイコフスキーが楽譜に書き込んだメモ、蘇演版台本、がアップされているので便利です。初版の台本を読んで興味深いのは、オデットが白鳥となったいわれが書かれていることです。
 オデットの母親は善良な妖精でしたが、父(オデットの祖父)のいいつけに従わずに騎士と恋に落ちて結婚し、オデットをもうけました。ところがこの騎士(オデットの父)は実はDVで、母親はさんざん痛めつけられたあげく死んでしまいます。父は再婚しましたが、継母は実は邪悪な魔女で、オデットを憎んで殺そうとします。しかし祖父がオデットをかくまってくれました。祖父はオデットの母のことを思って泣き続け、その涙で白鳥の湖ができました。祖父は湖の奥にオデットを隠しましたが、昼の間だけは白鳥に姿を変えて飛んだり遊んだりできるのです。
 オデットにそんな身の上話があったとは、ぽん太は初めて知りました。一方、蘇演版ではオデットは悪魔に呪いをかけられて、昼間は白鳥の姿に変えられてしまい、夜だけ人間に戻れるという設定です。またフクロウは、初版では継母の魔女ですが、蘇演版では悪魔とされています。舞踏会のシーンでは、初版ではジークフリートはオディールの美しさに魅かれて愛を誓ってしまいますが、蘇演版ではオデットとオディールが同一人物だと思って愛を誓うとされています。またラストシーンは、初版も蘇演版も王子とオデットが湖に沈んで死んでしまう点は同じですが、初版では王子の裏切りによって二人とも死んでしまうのですが、蘇演版では愛の力によってフクロウが打ち倒されます。
 で、鈴木晶氏の言うには、

 『白鳥の湖』の物語を着想したのは作曲者自身だろうと推測されるが、先にも触れたように、その材源はわからない。(……)
 いっぽう、日本の羽衣伝説に相当する、白鳥処女伝説・説話が各国にあり、チャイコフスキーの材源のひとつともいわれる。ドイツの作家ムーゼウスの童話「奪われたヴェール」もそうした説話を下敷きにしているが、『白鳥の湖』が白鳥処女伝説にもとづいているとは考えられない。([2]p.365-366)
とのこと。
 むむむ、ムーゼウスと『白鳥の湖』は関係なさそう。しかし、せっかくなので読んでみることにしました。
 さてあらすじ……。原作でないと知った今、あらすじをまとめる元気はありません。自分で読んどくれ。でも、けっこうおもしろいですよ。ギリシア神話や聖書や古典文学から様々な引用がしてあって、注を見ると「ふ〜ん」という感じですが、当時の読者は理解できたのでしょうか?また副題に出てくる「モンゴルフィエ」ですが、当時モンゴルフィエ兄弟が作成した熱気球の実験成功が大センセーションを巻き起こしていたそうで、白鳥と「空を飛ぶ」つながりで言及したものだそうです。
 ムーゼウス(Jhann Karl August Musäus, 1735-1787)は、同書の解説によれば、ドイツの啓蒙主義に関わった作家、文芸評論家だそうです。彼の名を世に広めたのは『ドイツ人の民話』(1782-1786)だそうで、そのなかに『奪われた面紗』が含まれています。グリム兄弟が、民話を原型に近い形で採録、保存しようとしたのに対し、ムーゼウスは民話を素材にして創作を加えたものと考えられるそうです。
 ちなみにムーゼウスはイェナ(Googleマップ)で生まれましたが、この地はやがてザクセン=ヴァイマル公家の領地となりました。1763年、彼はヴァイマル宮廷の小姓教育官となり、1769年にはヴァイマル古典語中高等学校(ギムナジウム)教授に任ぜられました。このころのヴァイマル宮廷といえば、1775年から1786年までゲーテが訪れていました。さらにレンツも1776年にゲーテを追ってヴァイマルにやってきましたが、まもなくゲーテによって追い出されたことは、以前の記事で触れたことがあります。

【参考文献】
[1] J.K.A.ムーゼウス『奪われた面紗』、『リューベツァールの物語―ドイツ人の民話』鈴木滿訳、国書刊行会、2003年に収録。
[2] 鈴木晶『バレエ誕生』新書館、2002年。

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