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2009/02/26

【バレエ】ノイマイヤーの豊かな才能に感服『人魚姫』ハンブルク・バレエ

 ノイマイヤーの「人魚姫」を観てぽん太はとても感動したのですが、ブログに書こうにも感動が大きすぎてぽん太の筆が追いつかず、のびのびになっていました。いくら先延ばししても同じことなので、本日書いてしまいます。ジョン・ノイマイヤー/ハンブルク・バレエの「人魚姫」の民音の公式サイトはこちら。ちなみに民音と創価学会が関係あるとは、ぽん太は初めて知りました(民音の概要)。

 とにかくこの作品は、バレエというジャンルを超えて、同時代の舞台芸術のトップレベルの作品だと思いました。このような舞台を観ることができて本当に幸せです。
 ノイマイヤーは幅広い才能をもっているようで、それは演出・振付だけでなく、舞台装置・照明・衣装まで一人でこなしていることからもわかります。一人でやっていながら、けっして単調にならず、大勢のスタッフが関わったかのように豊かで複雑です。またそれによって、作品の隅々までノイマイヤーの神経が行き届いており、統一感が感じられます。
 まず面白かったのが、「人魚姫」の原作者であるアンデルセンを舞台に登場させていること。ぽん太は精神科医でありながらまったく知らなかったのですが、アンデルセンはかなり変わった人だったそうで、生涯独身ですごし、同性愛者だったという噂もあるそうです。アンデルセンの友人であるエドヴァートが結婚してしまうシーンから舞台は始まり、アンデルセンの思いが人魚姫を生み出し、以後、アンデルセンと人魚姫が交錯しながら物語は進んで行きます。アンデルセンが友人エドヴァートの結婚をきっかけに「人魚姫」という童話を書いたというのは、事実のようです。この仕掛けによって、人魚姫の王子に対する「成就せぬ愛」というメルヘンが、アンデルセンのエドヴァートに対する愛という現実に重ね合わされ、さらにぽん太の頭の中では、身分、宗教、人種などあらゆる差別によって「成就せぬ愛」へとひろがっていきました。ぽん太はこのバレエを観ている最中に、イスラエルのガザ攻撃のことまで考えたりしました。
 振付けもアイディア満載で、波に揺れるワカメのような手の動きが、バレエ全体を支配します。「白鳥の湖」で白鳥の羽ばたく動きが統一感を与えているようなものですね。そして黒い服をまとった3人の男性ダンサーが人魚姫をリフトすることで、人魚が水中を泳ぎ回っているような効果を産み出します。そしてその動きも、魚の動きを連想させます。以前に観た小野寺修二の『空白に落ちた男』で、バレエ・ダンサーの首藤康之が小野寺をリフトすることによって、宙に体が浮かんだような不思議な効果を出す部分があったのですが、ひょっとして首藤が「人魚姫」から着想を得たのでは、というのはぽん太の妄想でしょうか?
 海中の世界は、日本の歌舞伎や文楽の影響を受けているようで、黒い服のダンサーたちはまさに黒衣(くろこ。歌舞伎では「黒子」ではなく「黒衣」と書くようです)ですし、人魚姫の尾びれはまるで長袴、海の魔法使いは袴姿で隈取りのような化粧をしています。上述の民音のサイトには衣裳の引き抜きもあると書いてあり、おそらくは人魚姫の尾びれを取るところだとおもうのですが、これは脱がせただけで歌舞伎の引き抜きとは違うと思います。ちなみに「引き抜き」の解説は例えばこちら、引き抜きの動画はこちらを御覧下さい。ノイマイヤーさんは、日本文化に造詣が深いそうです。
 ところで日本文化に造詣が深いといえば、船上で奥に煙突が出て来て、下手から水兵が手すりを持って現れ、人々が歩き回るシーン(どのへんだったか忘れましたが)は、寺山修司の世界のように思えたのですが、そう感じたのはぽん太だけでしょうか?
 足を得て人間になった人魚姫は、アンデルセンの原作ではとても美しくてダンスが上手で(そのかわり口がきけません)、皆から賞賛の目で見られますが、ノイマイヤーのバレエでは、人間の体をもてあますようなぎこちない動きをし、車椅子に乗せられたり、からかわれたりします。水兵にからかわれているのがよくわからず、無邪気に笑っていたりするのが哀れです。精神科医のぽん太からすると、地上での人魚姫は障害者(ときには脳性小児麻痺による身体障害者、ときには知的障害者、ときには精神障害者)のように見えました。また第3幕の、人魚姫が閉じ込められている遠近法が強調された小部屋は、精神病院の保護室を連想させました。ぽん太の解釈によれば、第3幕全体は、精神病院の保護室に収容された人魚姫が見た夢、あるいは妄想であり、人魚姫は精神病院の一室で息を引き取ることになります。もちろんこれはぽん太の個人的な解釈ですが。ただアンデルセンは、祖父も父親も精神障害を患っており、自分もいつ発狂するのではないか、という不安にいつも怯えていたそうです。
 人間の世界になんとか溶け込もうとしていた人魚姫が、足を捨てて人魚に戻ろうと決意する瞬間を、人魚姫役のアッツォーニがトウシューズを脱ぎ捨てることで表現していたのも、びっくりしました。ダンサーが舞台上でトウシューズを脱ぐなんて!またラストシーンで、天上が下がって来て人魚姫(とアンデルセン)が小部屋の中で押しつぶされていき、次いで二人が天上の上に立つと今度はそれが再び上昇し始め、二人が天に昇って行くというアイディアも、天井が下がって上がるだけでこれだけの劇的な効果を生み出すことに感動しました。とはいえ、けっしてしかつめらしい難解な舞台ではなく、水兵のマッチョな踊りも楽しかったです。
 人魚姫役のアッツォーニには脱帽。バレエ、演劇、マイムといった既成のジャンルに収まらない、まったく新しい身体表現を見せてくれました。
 音楽も、新しいけど難解でなくて、激しいリズムや悲哀に満ちた叙情があり、シュニトケやショスタコーヴィチ、プロコフィエフなどを思い浮かべました。作曲家はレーラ・アウエルバッハというひとだそうな。初耳です。ちょっとぐぐってみたら超有名なひとだそうで、こちらが公式サイトです。おまけに超美人ですネ。CDも何枚か出ているようです。
 それから、テルミンが使われていました。実物は見たことがないので、休憩時間中にオケピまで見に行けばよかったですが、うっかり忘れてました。昨今は、ロシアつながりなのか、マトリョーシカ人形にテルミンを仕込んだマトリョミンなるものが一部で流行しているようですが、その演奏風景はなかなかシュールです(動画はこちら)。


ハンブルク・バレエ「人魚姫」
2009年2月15日、NHKホール

演出・振付・舞台装置・照明・衣装:ジョン・ノイマイヤー
音楽:レーラ・アウエルバッハ

詩人:イヴァン・ウルバン
人魚姫/詩人の創造物:シルヴィア・アッツォーニ
エドヴァート/王子:カーステン・ユング
ヘンリエッテ/王女:エレーヌ・ブシェ
海の魔法使い:オットー・ブベニチェク

指揮:サイモン・ヒューウェット
ヴァイオリン:アントン・バラコフスキー
テルミン:カロリーナ・エイク
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

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