« 【雑学】『曽我物語』をみちくさする(河津掛け、「寿曽我対面」) | トップページ | 【バレエ】フォーゲルと上野水香の「ジゼル」東京バレエ団 »

2009/06/16

【バレエ】「第九」はちょっとどうかな〜・Kバレエ「ベートーヴェン 第九 & シンフォニー・イン・C」

 最初の演目はバランシンの「シンフォニー・イン・C」。バランシンの、古典的なコスチュームで踊られる、ストーリーのない純粋バレエは、すでに「セレナーデ」で体験済みなので驚きません。てっきりこのバレエも、スクール・オブ・アメリカン・バレエのために振り付けられたのかとおもったら、公演プログラムによれば、バランシンが1947年にパリ・オペラ座の客員バレエ・マスターとして招かれたときに初演されたものだとのこと。曲はビゼーの「交響曲ハ長調」。作曲されたのは1855年で、現代ではそれなりに知られた曲ですが、実は演奏されることなく長く埋もれていて1935年2月にようやく初演されたということは、ぽん太は初めて知りました。ですからバランシンの時代には、この曲は古くて新しい曲だったわけですね。
 幕が開いた瞬間、青い背景の前で白いチュチュをきたダンサーたちが光り輝いて見えて、とてもきれいでした。振付けもリズミカルでスピーディーで、変化に富んでいました。SHOKOの踊りの大きさと存在感はさすがでした。長身の宮尾俊太郎が位負けせずに奮闘。浅田・清水ペアもよかったです。今回の目玉の浅田良和は荒井祐子と登場。ジャンプ力もあり、動きも軽々としており、柔らかさ、とくに両手の動きの美しさがすばらしかったです。あと少し背が伸びれば……。今後の活躍が期待されます。松岡・遅沢ペアは貫禄を見せつけました。どのダンサーも満面の笑みを浮かべ、キラキラと輝きながらのびのびと踊っておりました。感動しました。

 次の演目は、熊川哲也の振付けによる「ベートーヴェン 第九」。赤坂サカスのこけら落としには行かなかったので、ぽん太は初見でした。会場全体がスタンディング・オベーションで興奮のるつぼと化し、熱狂的な拍手がいつまでも鳴り止みませんでした……が、実はぽん太はあまり気に入りませんでした。
 「第九」に踊りを付ける、という発想にそもそも問題があったのではないでしょうか?というのは、たとえばビゼーの「交響曲ハ長調」はビゼー17歳の時の作品で、音楽としては未完成な部分があり、その隙間をダンスが補完するということが可能だったわけですが、「第九」はベートーヴェンが渾身の力を振り絞って創った、それ自体が完成された傑作であり、しかも交響曲に合唱を取り入れるという当時としてはアクロバティックな技巧をこらした複雑な作品だったわけです。それにさらにダンスを付け加えて、原曲以上の感動を造り上げるというのは、非常に困難な課題に思えるのです。しかもベートーヴェンの音楽はメロディックではなく、建築のように理論的に構築さていますから、なおさらダンスには向かないような気がするのです。
 当日、第一楽章から第三楽章までは、おそらく踊りやすくするためだと思いますが、早めの速度でインテンポで演奏されていまました。また何カ所か省略されている部分もありました。この時点で、ベートヴェンの「第九」の演奏としてはかなり劣化しているわけですが、ダンスが加わることでその劣化を補って余りある効果が生み出されていたかというと、ちと疑問です。振付けも、やたらと舞台上を走り回ったり、両手を振ったりするのが目立ち、身体の動きのおもしろさに欠け、雑然とした印象を受けました。ただ今回は席がかなり前だったので、少し離れて全体を見わたすと、また印象が違ったのかもしれませんが……。モジモジ君のようなコスチュームも美しいとは思いませんでした。第四楽章は、一転して遅めの重々しいテンポでスタート。嵐のようなファンファーレのあと、チェロとコントラバスがレシタティーボを奏で、第一楽章から第三楽章までのメロディーを振り返るのですが、ここは音楽としては聞かせどころなので、いったいどのような振付けがされるのか期待していたのですが、ダンスはまったくなしで拍子抜けしました。そのかわりに照明を変えることでこれまでの楽章を振り返っていましたが、これはぽん太には中途半端で俗っぽく感じられました。それならいっそのこと幕を閉めたまま音楽だけ聞かせたらいいのに。「喜びの歌」の動機がレシタティーボに現れ、次いでチェロとコントラバスによって呈示されるところもダンスがなし。二回目の繰り返しからダンスが加わりましたが、このすばらしい旋律が最初に現れる感動の瞬間を、ダンスで表現して欲しかったです。そして合唱団がヘンテコな衣装で登場。なんだこりゃ?アラブのペンキ屋か?。合唱団にこのような衣装を選んだ理由はなんなのでしょうか?ただなんとなくでは、ぽん太は納得いたしません。そのように考えて行くと、火・海・生命・星というテーマがそもそも大きすぎる気がします。地球の歴史や人類に関して、熊川がこのバレエで伝えたかった、なにか新しいメッセージがあったのでしょうか?このあたりで、例えばノイマイヤーの「人魚姫」のメッセージ性に比べて、一歩劣るように感じられてしまいます。また、行進曲の歌にあわせてダンサーが行進したり、フィナーレをピルエットで終えるのは、「まんまやねん」と思いました。
 もちろん熊川哲也のパフォーマンスはすばらしかったです。ジャンプやピルエットといったテクニックは言うまでもなく、立ってポーズをとっているだけ観客を魅了する表現力・存在感は、卓越していると思いました。先日の「ジゼル」がとても感動的だったのも、クマテツのこの表現力があったからだと、改めて感じました。

 ベジャールも第九に振付けをしたそうですが、機会があったら見てみたいです。
 オマケ:「第九」の第一楽章第二主題の4音目(81小節のフルート・オーボエの第2音)はニ音で、ベーレンライター版や新ブライトコプフ版に従った演奏でした。


Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY
ベートーヴェン 第九 & シンフォニー・イン・C
Beethoven Symphony No.9 & Symphony in C
2009年6月14日(日) 14:00 Bunkamuraオーチャードホール

第一部 シンフォニー・イン・C Symphony in C
【第一楽章 1st Movement】 ショウコ SHOKO /宮尾俊太郎 Shuntaro Miyao
白石あゆ美 Ayumi Shiraishi / 中村春奈 Haruna Nakamura / 伊坂文月 Fuzuki Isaka / 西野隼人 Hayato Nishino
【第二楽章 2nd Movement】 浅川紫織 Shiori Asakawa / 清水健太 Kenta Shimizu
樋口ゆり Yuri Higuchi / 浅野真由香 Mayuka Asano / ビャンバ・バットボルト Byambaa Batold / ニコライ・ヴィユウジャーニン Nikolay Vyuzhanin
【第三楽章 3rd Movement】 荒井祐子 Yuko Arai / 浅田良和 Yoshikazu Asada
副智美 Satomi Soi / 中島郁美 Ikumi Nakajima / 奥山真之介 Shinnosuke Okuyama / 内村和真 Kazuma Uchimura
【第四楽章 4th Movement】 松岡梨絵 Rie Matsuoka / 遅沢佑介 Yusuke Osozawa
神戸里奈 Rina Kambe / 渡部萌子 Moeko Watanabe / 荒井英之 Hideyuki Arai / 小山憲 Ken Koyama
Artists of K-BALLET COMPANY
●振付 Choreography ジョージ・バランシン George Balanchine & cThe School of American Ballet
●音楽 Music ジョルジュ・ビゼー Georges Bizet (「交響曲ハ長調」 Symphony in C Major)
●振付指導 Staging コリーン・ニアリー Colleen Neary
イヴ・ローソン Eve Lawson

第二部 ベートーヴェン 第九 Beethoven Symphony No.9
【第一楽章 1st Movement】 大地の叫び Cry of the Earth
清水健太 Kenta Shimizu
橋本直樹 Naoki Hashimoto / ビャンバ・バットボルト Byambaa Batbold
伊坂文月 Fuzuki Isaka / 荒井英之 Hideyuki Arai
【第二楽章 2nd Movement】 海からの創世 The Creation of World from Ocean
荒井祐子 Yuko Arai / 松岡梨絵 Rie Matsuoka / 東野泰子 Yasuko Higashino
神戸里奈 Rina Kambe / 副智美 Satomi Soi / 白石あゆ美 Ayumi Shiraishi / 渡辺萌子 Moeko Watanabe
【第三楽章 3rd Movement】 生命の誕生 The Birth of Life
浅川紫織 Shiori Asakawa / 宮尾俊太郎 Shuntaro Miyao
樋口ゆり Yuri Higuchi / 西野隼人 Hayato Nishino
木島彩矢花 Sayaka Kijima / ニコライ・ヴィユジャーニン Nikolay Vyuzhanin
【第四楽章 4th Movement】 母なる星 The Mother Planet
熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
荒井祐子 Yuko Arai / 清水健太 Kenta Shimizu
東野泰子 Yasuko Higashino / ビャンバ・バットボルト Byambaa Batbold
遅沢佑介 Yusuke Osozawa / 宮尾俊太郎 Shuntaro Miyao
佐藤美枝子 Mieko Satoi 笛田博昭 Hiroaki Fueda
谷口むつみ Mutsumi Taniguchi 折江忠道 Tadamichi Orie
合唱 Chorus 藤原歌劇団合唱部 The Fujiwara Opera Chorus Group
Artists of K-BALLET COMPANY
K-BALLET SCHOOL
●演出・振付 Production / Coreography 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●音楽 Music ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン Ludwig van Beethoven
●舞台美術・衣裳 Set and Costume Design ヨランダ・ソナベンド Yolanda Sonnabend
●照明 Lighting Design 足立恒 Hisashi Adachi

●芸術監督 Artistic Director 熊川哲也 Tetsuya Kumakawa
●指揮 Conductor 福田一雄 Kazuo Fukuda ●演奏 シアターオーケストラトーキョー Theater Orchestra Tokyo

|

« 【雑学】『曽我物語』をみちくさする(河津掛け、「寿曽我対面」) | トップページ | 【バレエ】フォーゲルと上野水香の「ジゼル」東京バレエ団 »

芸能・芸術」カテゴリの記事

コメント

ナツさん、コメントありがとうございます。
ぽん太はバレエ鑑賞歴が短いので、ベジャールの「第九」は見たことがありません。Youtubeでほんの断片だけ見ましたが、短すぎてなんだかよくわかりませんでした。機会があったら生で見てみたいです。
こんかいのKバレエの「第九」は、ちょっと用事が立て込んでいることもあり、ぽん太はパスすることにしました。

投稿: ぽん太 | 2013/03/04 10:53

いきなりのコメント失礼します。
ナツと申します。ピアノ教師をしつつ
バレエの伴奏も少しばかりしております。

熊川哲也の第九が再演されるというのを知って「あの振り付けの評判はどうなんだろう」とあれこれ調べていたところこちらの日記にたどり着きました。

私は何年か前にWOWOWだったかで放送されたものを見ただけなのですが、ガッカリした反面、やっぱり・・・と思ったのを覚えております。

ベジャールの第九は残念ながら見た事がないのですが、ベジャールがバッハに振り付けたものやノイマイヤーのマタイ受難曲は舞台を観た事があります。評価というか作品に対する感想は人それぞれで好みもあるとは思うのですが、現代を代表するこの二人の振付家はおそらくスコアを綿密に読み込んでいるのではないかと思ったのを覚えています。ダンサーが各旋律を踊っているそういう印象でした。そして音楽と同じようにそれぞれの旋律がそれぞれに動いているようでいて一つに纏まっている。そんな作品でした。翻って熊川哲也の第九は彼の第九に対するイメージだけで作られたように思います。音楽を「聴いただけ」のイメージと言いますか。あくまでも踊りを見た印象で、熊川哲也もスコアを読んでいるかもしれませんが(汗)。ベジャールやノイマイヤーと比較するのが厳し過ぎるのかもしれませんが、第九はやはり彼の力量を遥かに超える曲のように感じたものです。踊る側に徹していてくれたほうが良いな〜・・・なんて勝手に思っています。

ベジャールの第九はご覧になったのでしょうか?。

投稿: ナツ | 2013/03/03 03:31

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74997/45338358

この記事へのトラックバック一覧です: 【バレエ】「第九」はちょっとどうかな〜・Kバレエ「ベートーヴェン 第九 & シンフォニー・イン・C」:

« 【雑学】『曽我物語』をみちくさする(河津掛け、「寿曽我対面」) | トップページ | 【バレエ】フォーゲルと上野水香の「ジゼル」東京バレエ団 »