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2009/07/15

【映画】想田和弘監督の無私のまなざしが心の病の光と深淵を映し出す・「精神」

映画『精神』公式サイト ウシ先生のおすすめで、映画「精神」を観てきました。公式サイトは左のバナーからどうぞ。予告編の動画もあります。 
 場所は シアター・イメージフォーラムというミニシアターでした。ミニシアターときくと、ぽん太は早稲田にあったACTミニシアターなどを思い浮かべますが、こちらは青山通りにあって料金も1800円とお高く、おしゃれな雰囲気です。青山学院大学も近く、イマドキの女の子たちが派手な服装で闊歩してたりして、田舎者のタヌキのぽん太は気恥ずかしくて、しっぽをこっそり隠しておずおずと歩きました。
 ドキュメンタリー映画ということですが、音楽もナレーションもなく、映像が淡々とつながれていきます。なんでも「観察映画」というのだそうです。監督の想田和弘は、ぽん太は初めてでしたが若手の注目株だそうで、前作「選挙」もおおいに話題になったんだそうな。
 スクリーンに映し出されるのは、「こらーる岡山」という精神科診療所に通う患者さんたちの、ありのままの姿です。診察の様子や、作業所(?)でくつろいでいる場面、自宅でホームヘルプサービスを受けいるところなどで、ときに監督の質問に答えて、発病のきっかけを語ったりもします。精神科医のぽん太からすると、よくある、おなじみの見慣れた光景が続くのですが、精神科医にとっては「普通」の世界が、一般の人にはどのように見えるのか、そちらが興味深く思えます。
 「こらーる岡山」は診療所といっても、建物は古い木造民家で、スタッフも大勢います。現在よくある「精神科クリニック」とは様子がだいぶ異なり、一昔前の「精神病院」や「作業所」のイメージで、観ていてちょっとなつかしい気分になります。院長の山本昌知先生はご高齢で、朴訥とした暖かい人柄が伝わってきます。先生とスタッフと患者さんが、大きなひとつの家族のように見えます。
 同業者のぽん太は、山本先生の診察の場面を見ながら、ついつい「ここでどう対応するか?」とか、「ナルホドこんな手もあるのか」などと、テクニックに目がいってしまいました。というのも、研修医時代ならいざしらず、他の先生の実際の診察を見る機会というのは、ほとんどないからです。
 想田和弘監督は、特定のイデオロギーを押し付けるでもなく、かといって冷徹な客観的観察者の立場を取るでもなく、虚心坦懐に患者さんを撮影していました。この優しさに満ちた「無私」のまなざしは、想田監督の優れた特質であるようにぽん太には思われました。編集にもたいへん非常に気を使っているようで(10ヶ月かけたとのこと)、冗長さを感じさせず、詩情が伝わってきました。
 ぽん太が「やられた」のは最後のシーン。男性患者が作業所(?)に運動靴のまま土足で上がり込み、電話で市役所かなにかに激しい口調でクレームをつけます。作業所の職員も、もう夕方なので作業所を閉めたいようですが、剣幕に気圧されて言葉をかけられず、困ったような表情を浮かべています。ぽん太は「こういう患者さんいるよな〜、ホントに困るよな〜」などと思って見ていました。さんざんクレームをつけて気が済んだのか、ようやく男は帰ろうとします。するとあれあれ、玄関を出るところで運動靴を脱ぎ始めます。何をやってるんだろうと見ていると、足首を支える装具がついた靴に履き替えます。細かい台詞は忘れましたが、職員が「××さん、バイトの面接どうだった?」と聞くと、男性はとてもひとなつっこい笑顔で「だめだった。靴を許してくれなかった」と答え、バイクに乗って颯爽と夜の町に消えて行きます。
 「プロ」であるはずのぽん太がいつの間にか、「土足で上がり込んでクレームを付ける迷惑なやつ」という偏見で男性を眺めていました。対する男性の笑顔は、これまでさんざん偏見を受けてきて、偏見を受けることを苦にしなくなり、偏見を持っているぽん太を許してくれる、力強い笑顔でした。
 幸いにもぽん太のような偏見を持たず、患者さんたちを暖かく見守ることができたひとたちも、エンドロールの「追悼」という言葉には、精神病が決して生易しいものではないという現実を知って、震撼させられることでしょう。


「精神」MENTAL
監督・撮影・録音・編集・制作:想田和弘
製作補佐:柏木規与子
出演:「こらーる岡山」のみなさん、他
2008年/アメリカ・日本/カラー・135分

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