« 【歌舞伎】海老蔵はこころがないのが欠点でもあり長所でもある・2009年7月歌舞伎座夜の部 | トップページ | 【バレエ】シムキンって柔らかいですね・世界バレエフェスティバル「ドン・キホーテ」 »

2009/07/29

【アート】出光美術館「やまと絵の譜」(と歌舞伎「傾城反魂香」)

 歌舞伎の昼の部は午後3時過ぎに終わるので、そのまま帰るのも中途半端な時間なので、よく出光美術館に立ち寄ります。先日もなにげなく「日本の美・発見II やまと絵の譜」を見に行ったところ、最初の絵に思わず引きつけられました。
 「野々宮図」という題名の『源氏物語』の一場面を描いた水墨画で、光源氏との結婚をあきらめて伊勢に下ることを決意した六条御息所を、光源氏が訪ねる場面です。画像はたとえばこちらのFuji-tv ART NETのサイトにあります。非常にデフォルメされていて、グロテスクと言ってもいいくらいですが、なんともいえない高貴さと柔らかさともののあわれが漂います。鳥居に架かっているしめ縄が、画面左から右へとなびいていて、六条の家から光源氏へと風が吹いていることがわかります。この風は六条の香りを光源氏に届けているはずで、その香りが匂ってきそうです。繊細で艶やかであありながら、どこか物の怪の気配を感じる不思議な絵でした。
 作者を見たら岩佐又兵衛とのこと……。名前は知っていましたが、無学なぽん太は初めて実物を目にしました。というか、初めて「意識して」見たというか。というのは、何回か訪れたことがあるMOA美術館に複数の作品が展示されているからで、実はこれまで気づかずに何度も見ているのかもしれません。
  岩佐又兵衛(1578年(天正6年) - 1650年(慶安3年))は、浮世絵の先駆けとも言われる江戸時代初期の画家ですが、彼が歌舞伎の「傾城反魂香」の又兵衛のモデルであることは筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』で知りました。この小説では、歌舞伎の主人公の吃又(どもまた)の吃りと、小説の反復強迫的な繰り返しが見事にコラボしておりました(この小説の感想は こちら)。
 「傾城半魂香」は、「土佐将監閑居の場」が有名ですが、土佐将監光信のモデルは 土佐光信(1434年(永享6年)? - 1525年(大永5年))です。こんかいの展覧会では、伝土佐光信の「四季花木図屏風」(重要文化財)が展示してありました。また、薮に逃げ込んだ虎を描いたのは狩野四郎二郎元信という画家ですが、モデルは狩野元信(1476年(文明8年)? - 1559年(永禄2年)、そして筆で虎をかき消した修理の介はその功によって土佐光澄という名を与えられますが、このモデルはちとわかりません。又平は、絵が手水鉢を通り抜けた功で土佐又平光起という名を与えられますが、 土佐光起(1617年(元和3年)-1691年(元禄4年))も実在する画家で、「須磨・明石図屏風」が展示されておりました。「四季花木図屏風」と「須磨・明石図屏風」も、Fuji-tv ART NETのサイトで見ることができます。「傾城半魂香」は近松門左衛門の作で、初演は1708年(宝永5年)です。近松は吃又に、岩佐又兵衛と土佐光起をだぶらせているのかもしれませんが、無知なるぽん太はこの辺の事情はまったくわかりません。吃又は、生来の吃りで、 大津絵を描いて生計をたてていたという設定になっておりますが、もちろん岩佐又兵衛も土佐光起もそのような事実はありません。

 これも何かの縁なので、『岩佐又兵衛―浮世絵をつくった男の謎』(辻惟雄著、文藝春秋、2008年)を読んでみました。新書ながらカラーの図録も多く、とてもおもしろかったです。
 岩佐又兵衛という独特の画風を築いた画家が実在したことは確かなのですが、その後彼の周辺にさまざまな伝説が作られて、混乱が生じていったようです。大雑把にまとめると次のようになります(正確に知りたい方は本をお読みください)。
 岩佐又兵衛は、存命中から「浮世又兵衛」というあだ名で呼ばれていたようです。彼は自分の作品に、「勝以」や「道蘊」といった印を押しておりました。しかし彼の死後、「浮世又兵衛」という名前が急速に伝説化して行き、ひとり歩きするようになっていきます。同時代の多くの風俗画が、真筆でないものも含めて、「浮世又兵衛作」とされるようになりました。すでに1718年(享保3年)の時点で、英一蝶でさえ「うき世又兵衛」の本名がわからなくなっていました。1834年には谷文晁が「勝以」「道蘊」の印のある作品を紹介していますが、それが岩佐又兵衛であることは気づかなかったそうです。「勝以」「道蘊」と岩佐又兵衛が同一人物であることがわかったのは、1886年(明治19年)、川越仙波東照宮の扁額に「絵師土佐光信末流岩佐又兵衛尉勝以図」と書いてあるのが発見されたのがきっかけでした。しかしこれですべてが解決したわけではありません。落款はないけれども「浮世又兵衛」の作とされてきた多くの絵画が残っております。これらは、ある作品は真筆とされ、またある作品は他人の手になる「又兵衛風」の作品とされたようですが、いまだ真筆かどうか議論されている作品も多いようです。

「日本の美・発見Ⅱ やまと絵の譜」 展
開催期間:2009年6月6日(土)~7月20日(月・祝)
場   所:出光美術館

<主な出品作品>●・・・重要文化財、○・・・重要美術品
【作者名/作品名/制作年代/備考】
1.「うつつ」を写す - 浮世絵という「やまと絵」
  ●英 一蝶/四季日待図巻/江戸時代/場面替えあり
  ○岩佐又兵衛/野々宮図/江戸時代
  ○岩佐又兵衛/在原業平図/江戸時代
    菱川師宣/立姿美人図/江戸時代
2.物語り、物語られる「いま」、「ここ」 - 「やまと絵」絵巻の諸相
  ●筆者不詳/絵因果経/奈良時代
  ●筆者不詳/橘直幹申文絵巻/鎌倉時代/場面替えあり
  ○筆者不詳/北野天神縁起絵巻/室町時代/場面替えあり
  ○筆者不詳/長谷寺縁起絵巻/南北朝時代/場面替えあり
  ○筆者不詳/白描中殿御会図/室町時代/場面替えあり
    住吉如慶/木曽物語絵巻/江戸時代/場面替えあり
  ○住吉具慶/宇治拾遺物語絵巻/江戸時代/場面替えあり
3.自然への共感 - 「やまと絵」屏風とその展開
    筆者不詳/日月四季花鳥図屏風/室町時代
  ●伝土佐光信/四季花木図屏風/室町時代
    筆者不詳/宇治橋柴舟図屏風/江戸時代/6月30日~7月20日展示
  ○土佐光起/須磨・明石図屏風/江戸時代/6月6日~6月28日展示
    狩野探幽/源氏物語 賢木・澪標図屏風/江戸時代/6月6日~6月28日展示
    狩野探幽/定家詠十二ヶ月和歌花鳥図画帖/江戸時代

|

« 【歌舞伎】海老蔵はこころがないのが欠点でもあり長所でもある・2009年7月歌舞伎座夜の部 | トップページ | 【バレエ】シムキンって柔らかいですね・世界バレエフェスティバル「ドン・キホーテ」 »

芸能・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74997/45451796

この記事へのトラックバック一覧です: 【アート】出光美術館「やまと絵の譜」(と歌舞伎「傾城反魂香」):

» ジャイアンツ プレゼントキャンペーン [(株)住建ハウジング]
この夏、東京ドームで行われる「イースタンリーグ巨人戦」のチケットを 抽選で、グループ8名様1組にプレゼントいたします! 当日は通常では入れないグラウンド上での特別企画や、イベントも開催! リトルリーグメンバー、ご家族、お友達グループなどでお楽しみください! http://www.juken-net.com/dome/... [続きを読む]

受信: 2009/07/29 17:50

« 【歌舞伎】海老蔵はこころがないのが欠点でもあり長所でもある・2009年7月歌舞伎座夜の部 | トップページ | 【バレエ】シムキンって柔らかいですね・世界バレエフェスティバル「ドン・キホーテ」 »