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2009/07/10

【映画】愚直な現地ロケが生み出した圧倒的映像「劔岳 点の記」

 登山好きなぽん太としては、映画「劔岳」を見逃すわけにはいきません。長く黒澤明のカメラマンを務めたという木村大作監督が、剣岳を相手にどのような映像美をみせてくれるのか、とても楽しみでした。公式サイトは下のバナーからどうぞ。
映画『劔岳 点の記』公式サイト 
 スクリーンに映し出される剣岳と周辺の山々は、重厚にして格調があり、圧倒的な迫力でした。また美しい紅葉の立山や、稜線の猛吹雪など、自然のさまざまな表情を見せてくれました。
 ぽん太が剣岳に登ったのはだいぶ前ですが、室堂からアプローチしていくにつれて、別山乗越の向こうに姿を現してくる剣岳の怪異な姿に、目を見張った記憶があります。あいにく登頂の日は天候が悪かったのですが、ガスで視界が悪いおかげで、難所のカニの横ばい・縦ばいはちっとも怖くありませんでした。
 この映画は、200日にわたる過酷なロケが話題になりました。テレビのインタビューで浅野忠信が、3時間かけて登って撮影して、また3時間かけて戻ってくることの繰り返しで、現場まで9時間歩いたときにはさすがにこたえた、と言っていたのには笑いました。おそろしいですね〜。映画というのは、セットとかを使って、いかにも本物っぽい映像をマジックのように作り上げるものだと思っていたのですが、主人公が実際に歩んだ道をそのまま辿ってロケをするとは、愚直というか要領が悪いというか……。このいまどき流行らない愚直な映画の作り方が、映画の主人公の柴崎芳太郎の愚直な生き方と重なってくるところが、この映画のミソです。
 「映像はすごいけどストーリーはいまいち」という噂もありましたが、ぽん太にはストーリーもおもしろかったです。ただ、登山をしないひとにとっては、山の周囲をあちこち移動しながら登り口を探しまわる下りは、退屈に感じるかもしれないと思いました。
 人間を寄せ付けない崇高な劔岳を前にして、柴崎芳太郎は、測量という行為がいったい何の意味を持つのかと悩みます。この瞬間彼は、人間の心にぽっかりと開いた深淵をかいま見たのでした。直ちに彼はこの穴を、「地図を作ることが人々の役に立つこと」、「何をするかではなく何のためにするかが大切だということ」というパッチでふさぎます。これは、監督がこの映画で訴えたかったイデオロギーですが、なかなか説得力があります。またラストで日本山岳会の小島烏水は、柴崎らに対して、あなたたちこそが劔岳の初登頂をしたのであり、あなたたちの名は日本山岳史に永久に残るだろう、と敬意を表します。こちらは(黎明期の)スポーツ登山という別のイデオロギーに属しています。こうした諸々のイデオロギーをはぎ取ったところに残るのは、理由はわからないけれども、目の前に超然に立ちはだかる山を畏怖する感情です。この感情は、個体や種を維持しようという動物の生存本能とはまったく異なる、人間固有のものであり、生存の役に立つどころか命を危険に陥れることさえあるという点で、死の本能に属すると言えるでしょう。

劒岳 点の記 Mt.Tsurugidake
監督 木村大作
製作総指揮 坂上順、亀山千広
製作 「劒岳 点の記」製作委員会、東映、フジテレビジョン、住友商事、朝日新聞社、北日本新聞
脚本 木村大作、菊池淳夫、宮村敏正
出演者 浅野忠信、香川照之、松田龍平、仲村トオル、宮﨑あおい、井川比佐志、夏八木勲、役所広司
音楽 池辺晋一郎
撮影 木村大作
編集 板垣恵一
配給 東映
公開 2009年6月20日
上映時間 139分

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