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2009/11/13

【歌舞伎】若々しくてよかった「盟三五大切」・2009年11月花形歌舞伎昼の部

 今年の花形歌舞伎は、昼の部も夜の部も、一つ目の演目は「結局は同じところに行くはずの百両を奪い合う話し」で、二つ目の演目は「毛ぶり」。偶然でしょうか。
 「盟三五大切」は、一年前に仁左衛門の源五兵衛で観てあまりの恐ろしさに震えた演目。その印象がいまだ残っているので、今回のメンバーではどうかなと思っていましたが、どうしてそうしてなかなか面白かったです。脚本がいいのか、役者が良かったのかわからないのが、歌舞伎初心者のぽん太の悲しいところ。
 鶴屋南北の脚本としては、『元禄忠臣蔵』と『東海道四谷怪談』をないまぜにした構成が見事。そして終いには母親の手で赤子を殺させるという冷徹さは、昨今の殺人事件を彷彿とさせます。また、登場人物の名前の数字のお遊びも面白いです。笹野「三五」郎の本名は「千」太郎。妻の小「万」の実の名はお「六」。武士の薩摩源「五」兵衛の実の名は不破「数」右衛門。その若党は「六七八」右衛門。そのほか役も数字が多いです。
 染五郎の源五兵衛は、神経質そうな感じ、女郎に騙されるのもむべないと思われる実直さ、凄まじい恨みの執念など、すばらしかったです。菊之助は、美しい女形だけでなく、美男の男役も板についてきました。まだまだなぞっている感じで、微妙な表現や味、歌舞伎らしい型には欠けるようですが、十分良かったし今後も期待されます。亀治郎はあいかわらず芸達者。愛之助の六七八右衛門はすごく良かったですが、主の身代わりにお縄になるところは、もう少し毅然としてもよかったかも。松也の虎は、松也とは思えない気持ち悪さがよかったです。
 さきほどこの狂言は、『元禄忠臣蔵』と『東海道四谷怪談』を踏まえて創られていると書きましたが、もうひとつの源泉としては小万(おまん)と薩武士源五兵衛の物語があります。この情話のもとになる事件があったのかどうか、いつ頃のどのようなものだったのか、無学なぽん太は知りません。ただこの話しは、俗謡などで歌われ、江戸時代には有名な物語だったようです。井原西鶴は『好色五人女』(1686年、貞享3年)の「恋の山源五兵衛物語」でこの物語をとりあげています。また近松門左衛門は人形浄瑠璃『薩摩歌』(1704年?、元禄17年)を創りましたが、ここでは小万の情夫「笹野三五兵衛」という役名があり、『盟三五大切』の「笹野屋三五郎」との関連が伺われます。
 さらにもう一つの源泉となったのが、1737年(元文2年)、薩摩武士が大阪曽根崎新地の湯女(ゆな)菊野ら五人を斬り殺すという事件。この事件もさまざまな形で歌舞伎化されましたが、この五人斬りの事件と「お万・源五兵衛」の話しを結びつけたものとして、初世並木五瓶の『五大力恋緘』(ごだいりきこいのふうじこめ)があります。1794年(寛政6年)に大阪で初演されたときは、芸子は「菊野」という名前でしたが、翌年江戸で上演されたときには「小万」という名に改められ、以後上方系と江戸系の両方の脚本がそれぞれ繰り返し上演されたそうです。ここでは「小万」、「勝間源五兵衛」、「笹野三五郎」といった登場人物があり、さらに「五大力」を「三五大切」に書き換えるというアイディアも見られます。しかしストーリーは、小万と源五兵衛が愛し合っており、そこに三五郎が横恋慕するもので、『盟三五大切』とは違っております。
 『盟三五大切』では、薩摩源五兵衛は実は四十七士の不破数右衛門という設定。不破数右衛門って誰じゃ。 Wikipediaによると、家僕を斬ったことなどで浅野内匠頭の勘気を受けて浪人となり、松の廊下の刃傷事件のときは赤穂藩の家臣ではありませんでしたが、後に四十七士に加わることが許されたそうです。「斬り殺して浪人」というあたりで、鶴屋南北は、不破数右衛門と薩摩源五兵衛を結びつけたのかもしれません。
 ところで不破数右衛門という人物、ぽん太は『仮名手本忠臣蔵』や『元禄忠臣蔵』を見ているのに記憶にありません。調べてみたところ、『仮名手本忠臣蔵』では、「おかる勘平」の最後で大星由良之助の使いとして金を返しにやってきたものの、勘平の無実を明らかにして四十七士に加える侍が、不和数右衛門でした。また『元禄忠臣蔵』では、「伏見橦木町」で遊興にふける大石内蔵助に、決起を促すべく江戸から駆けつけた急進派の侍が不破数右衛門でした。

 「浅草祭」は、ぽん太は踊りはよくわかりませんが、「盟三五大切」で暗くなった気分が、すっかり明るくなりました。


新橋演舞場 花形歌舞伎
平成21年11月 昼の部

一、通し狂言
  盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)

  序 幕 佃沖新地鼻の場
      深川大和町の場
  二幕目 二軒茶屋の場
      五人切の場
  大 詰 四谷鬼横町の場
      愛染院門前の場  

      薩摩源五兵衛/家主弥助  染五郎
           笹野屋三五郎  菊之助
           六七八右衛門  愛之助
            廻し男幸八  亀 寿
            内びん虎蔵  松 也
             芸者菊野  梅 枝
 賤ヶ谷伴右衛門実はごろつき勘九郎  亀 蔵
             同心了心  竹三郎
           富森助右衛門  家 橘
             芸者小万  亀治郎

二、四変化弥生の花浅草祭(やよいのはなあさくさまつり)

  武内宿禰/悪玉/国侍/獅子の精  松 緑
  神功皇后/善玉/通人/獅子の精  愛之助

【参考文献】服部幸雄他編『歌舞伎事典』平凡社、2000年。

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■日時:2009年11月15日(日)、11:00〜 ■劇場:新橋演舞場 ■作:鶴屋南北 ■出演:市川染五郎、市川亀治郎、尾上菊之助、他 新橋演舞場で、ボクが劇作家としては今もっとも注目したいと感じている江戸時代に活躍した鶴屋南北の「盟三五大切」を見ました。この作品はボクにとっては片岡仁左衛門が出演したものをテレビで見て、なんか鶴屋南北って凄くないか?と気づくきっかけとなった作品です。その後、花組芝居によるものや、映画になったもの(「修羅」)なども見る機会がありボクにとっては馴染み深い作品となりまし... [続きを読む]

受信: 2009/11/19 10:40

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