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2009/12/20

【歌舞伎】『野田版 鼠小僧』がおもしろく、「引窓」の脚本に感服・2009年12月歌舞伎座夜の部

 今年もいよいよ終わりですねえ。
 夜の部で一番面白かったのは、ぽん太お気に入りの野田秀樹作・演出の『野田版 鼠小僧』です。なんでも平成15年8月に初演された芝居の再演だそうな。冒頭の過剰な言葉とハイテンションから、リリックな幕切れまで、野田ワールド全開です。
 いきなり鼠小僧の劇中劇から始まります。筋書きを見ると、鼠小僧の染五郎の役名は稲葉幸蔵となっておりますから、河竹黙阿弥の『鼠小紋東君新形』(ねずみこもんはるのしんがた)と思われます。ということは『野田版 鼠小僧』は『鼠小紋東君新形』を踏まえていると思われますが、ぽん太は『鼠小紋』を見たことありませんし、脚本を読むのもめんどうなので、みちくさはやめておきましょう。七之助が自害する振りをして橋之助の気を引こうとするあたりは、歌舞伎でよくあるシーンのパロディですね。
 鼠小僧といえば、盗賊でありながら、悪徳商人や私腹を肥やした武士からお金を奪って貧しい人に分け与えるという義賊。ですから自然と芝居のテーマは、権力・富・階級といったものの嘘を暴くということになります。金にがめつい棺桶屋三太は、ふとしたきっかけで鼠小僧となります。世間からは善人と見なされている與吉は実は腹黒い人物。名奉行の誉れ高い大岡越前守は、貞女の鑑と評されるお高を囲っています。そしてころころと意見を変える町人たち……。
 民衆にお金をばらまく鼠小僧は、「三太」という名前つながりで、サンタクロースに結びつきます。12月は、この芝居の上演にうってつけの季節です。金にしか関心がなかった三太が心を入れ替えるというところは、『クリスマス・キャロル』を思い出します。エンディングは、てっきり鼠小僧三太が撒いた小判をさん太が受け取るのかと思ったら、三太は死んでしまい、朝日に輝く雪がさん太の頭上に降り注ぐというものでした。やはり野田はひねって来ますね。とはいえ、前衛的な演劇を創る力を持ちながら、力を余して歌舞伎向きの娯楽作品にまとめているあたりも見事です。
 『らくだ』でぽん太のツボにはまった亀蔵の死体役、今回もすばらしかったです。おおいに笑わせてもらいました。勘三郎はいつもながらうまい。彌十郎、福助もいつもながらの熱演。三津五郎は、古典味のある本格派の役者かと思っていたら、以外とこういうのも好きなんでしょうか?はじけていた孝太郎にも、福助みたいな変な癖がつかないかと心配になりました。

 「引窓」。右之助の母お幸がすばらしく、この芝居の主人公はお幸だということがよくわかりました。しかしこの芝居、よくできてますね〜。人気の相撲取りでありながら人を手にかけて追われる身の濡髪長五郎、町人でありながら郷代官に取り立てられんとする南与兵衛、遊女から与兵衛の妻となったお早など、登場人物はみな世の中に定まった位置を持たず、境界線上をさまよう、よるべない人々です。それが昼と夜のうつろいに重ね合わされ、引き窓という小道具によって具体化されます。
 この狂言の舞台は、放生会(ほうじょうえ)の前日に設定されています。放生会とは、例えば Wikipediaによれば、「捕獲した魚や鳥獣を野に放し、殺生を戒める宗教儀式」とのこと。現在では、福岡の筥崎宮の 放生会大祭(ほうじょうや)や、京都の石清水八幡宮の 石清水祭が有名なようです。エンディングの「捕まえた濡髪長五郎を逃がす」という行為は、放生会に重ね合わされているわけですね。
 また放生会は古くは旧暦8月15日に行われたそうで、旧暦と言えば月の満ち欠けを基準にした太陰暦ですから、1日が新月で15日頃が満月となります。つまり昔の観客は、「放生会の前日」と聞いただけで、月がこうこうと照る満月の夜であることがわかったわけで、それで引窓の開け閉めが効果的になるわけですね。
 この芝居は、母お幸が息子長五郎を守ろうとするという「情」で始まり、次に南与兵衛の手柄のために息子を引き渡すという「義」に移ります。そして最後は放生会の「信仰」の世界となり、それぞれの登場人物の罪と慈悲のなか、長五郎は大阪へ落ち延びて行きます。
 「顔かたちを変えて逃げる」と聞くと、時節がら市橋容疑者のことを思い浮かべます。お幸は長五郎を逃がすため、人目につく大前髪を剃り落とそうとします。しかし長五郎は、「変装した姿でつかまって、命が惜しかったと思われるのも残念だ」と拒否しようとします。お幸はなんとか説得して大前髪を剃り、次はホクロを剃り落そうとします。今度はお幸が「思えば、自業自得とはいえ、親から授かったホクロを剃り落すはめになったのか」と嘆きます。そもそも濡髪長五郎が人を殺めたのは、恩義のあるひとを悪人から救うためでした。市橋容疑者は、自らの欲望を満たすために人を殺めておいて、いったい何のために整形までして逃げ延びようと思ったのでしょうか?

 「雪傾城」。芝翫がお孫さんたちに囲まれて幸せそうでした。児太郎くん、だいぶお大きくなりましたが、色気はまだまだ。


歌舞伎座さよなら公演
十二月大歌舞伎
平成21年12月・歌舞伎座夜の部

一、双蝶々曲輪日記
  引窓(ひきまど)
    南与兵衛後に南方十次兵衛  三津五郎
           濡髪長五郎  橋之助
            平岡丹平  秀 調
            三原伝造  巳之助
             母お幸  右之助
              お早  扇 雀

二、御名残押絵交張(おなごりおしえのはりまぜ)
  雪傾城(ゆきけいせい)
              傾城  芝 翫
           役者栄之丞  勘太郎
         芝居茶屋娘お久  七之助
            新造香梅  児太郎
           雪の精 奴  国 生
           雪の精景清  宗 生
           雪の精 禿  宜 生

三、野田版 鼠小僧(のだばんねずみこぞう)
           棺桶屋三太  勘三郎
              お高  福 助
              與吉  橋之助
           大岡妻りよ  孝太郎
            稲葉幸蔵  染五郎
          目明しの清吉  勘太郎
             おしな  七之助
             さん太  宜 生
            與惣兵衛  井之上隆志
              凧蔵  猿 弥
          辺見勢左衛門  亀 蔵
             独楽太  市 蔵
           番頭藤太郎  彌十郎
             おらん  扇 雀
            大岡忠相  三津五郎

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