« 【舞踏】へんなおじさんたちがなぜかカワイイ 山海塾『卵熱』 | トップページ | 【レニングラード国立歌劇場オペラ】オーソドックスで若々しい『エフゲニー・オネーギン』 »

2009/12/11

【マリインスキー・バレエ】テリョーシキナが良かった。ユーモアとイロニーたっぷりの『イワンと仔馬』

 原作はエルショーフというひとが書いた『せむしの仔馬』という童話だそうです。なんだ「仔馬」というのは。「子馬」じゃないのか?Wikipediaによれば、ポニーのことなので、子馬(子供の馬)ではなく、仔馬ないし小馬、と書いてありますが、真偽のほどは定かではありません。いずれにせよ、ロシア人なら誰でも知っている物語だそうです。
 作者のエルショーフに関しては、日本語のWikipediaにも出ておらず、情報がほとんどありません。英語のWikipediaには出ているようです。英語版Wiipedia(の自動翻訳)にリンクしておきます。それによれば、Pyotr Pavlovich Yershov (Пётр Павлович Ершов)は、1815年3月6日(ユリウス暦2月22日)に生まれ、1869年8月30日(ユリウス暦8月18日)に死去したロシアの詩人。サンクトベテルブルク大学在学中に書いた『せむしの仔馬』が1834年に発表されると、瞬く間に世間の注目を浴びたそうです。プーシキンも絶賛したそうで、当時の人たちはエルショーフというのは仮名で、本当はプーシキンの作だと思ったと書いてありますが、ウソかホントか……。
 公演プログラムの村山久美子の作品解説によれば、『せむしの仔馬』は何度かバレエかされたそうですが、今回のシチェードリンの音楽は、1960年に初演されたものだそうです。このときの振り付けはラドゥンスキーで、記事の一番下にこの版のDVDをリンクしておきます。今回の来日公演は、ラトマンスキーの新たな振り付けによって2009年3月14日に初演された、できたてほやほやの新ヴァージョンです。
P5040215 ストーリーはたわいもない話しですが、赤尾雄人の「シチェドリンとプリセツカヤの愛の“仔馬”」(公演プログラム所収)によれば、作曲をしたシチェドリンは、ラトマンスキー版の『仔馬』を評して、「この演出は現代の美意識と調和している。そこには過去・現在・未来に対する悪ふざけ、皮肉、当てこすりがあり、繊細で慎み深くそれでいてい誰からも好まれるユーモアで満ち溢れている」と述べたそうです。とっても貧相な皇帝は、時計台のような衣装を着ておりますが、今年のGWにロシア旅行をしたばかりのぽん太には、これが赤の広場にあるスパスカヤ塔であることはすぐにわかりました。この塔はクレムリンの公用門で、現在でも大統領はこの門を使用します。ですからこの皇帝は「クレムリン」を意味しているわけです。衣装や舞台美術は、マレーヴィッチの絵画をふまえているようですが、二十世紀初頭のロシア・アヴァンギャルドの一翼を担ったマレーヴィッチが、スターリン政権下では弾圧され、ありふれた写実絵画を描きながら測量士として一生を終えたことも、よく知られています。そもそもエルショーフの原作にしてから、皇帝を愚弄しているということで発禁処分を受けていたことがあるそうです。バレエの最後で、まるで熱湯コマーシャルのような煮え立つ大釜に飛び込んだイワンがどんな立派な姿で出てくるのかと思ったら、なんと「立派な」クレムリン。このバレエには、ロシア人ならすぐにわかる皮肉がもっともっと隠れているに違いありません。
 シチェドリンの音楽は、悪くはないけど新しさもなく、普通という感じ。ラトマンスキーの振り付けも、前衛的な動きはなく、第1幕はちょっと退屈でした。第2幕のクラシカルなパ・ド・ドウや群舞の方が面白かったです。
 『白鳥』でも観たテリョーシキナの姫君は、美人でかわいらしいけれど、ちょっとわがままであだっぽいところがあり、皇帝やイワンを手玉に取るあたりがよかったです。イワンにおさげを引っ張られて、なにするのよ〜という仕草もかわいい。第2幕の踊りは絶品でした。イワンのロブーヒンは初めて観ましたが、素直な若者という感じでイワンらしかったです。仔馬に抜擢されたペトロフも可愛らしい。今後の活躍にも期待。芸達者のバイムラードフは今回は侍従で登場。雌馬と海の女王のコンダウーロワは、背も高いしスタイルもいいし美人だし、まるで絵画に描かれた女神みたいですね。
 マリインスキー歌劇場管弦楽団は、指揮は残念ながらゲルギエフではなくレプニコフでしたが、勢いと迫力があり、ノリノリの演奏ですばらしかったです。
 明日のガラも行きたいところですが、先にレニングラード国立歌劇場の『オネーギン』の切符を取ってしまったので、そちらに行ってきます。


マリインスキー・バレエ
『イワンと仔馬』全2幕
2009年12月9日

音楽 : ロジオン・シチェドリン
振付 : アレクセイ・ラトマンスキー (2009年)
台本 : マクシム・イサーエフ
音楽監督 : ワレリー・ゲルギエフ
装置・衣裳 : マクシム・イサーエフ
照明 : ダミール・イスマギロフ
指揮 : アレクセイ・レプニコフ
管弦楽 : マリインスキー歌劇場管弦楽団

≪出演≫
姫君 : ヴィクトリア・テリョーシキナ
イワン / 皇子 : ミハイル・ロブーヒン
仔馬 : イリヤ・ペトロフ
侍従 : イスロム・バイムラードフ
皇帝 : アンドレイ・イワーノフ
父親 : ロマン・スクリプキン
雌馬 / 海の女王 : エカテリーナ・コンダウーロワ
大きな馬たち : アンドレイ・エルマコフ/ カミーリ・ヤングラゾフ
ダニーロ : ソスラン・クラーエフ
ガヴリーロ : マクシム・ジュージン
娘たち : ヤナ・セーリナ/エカテリーナ・イワンニコワ/クセーニャ・ロマショワ/ヴァレーリヤ・マルトゥイニュク/エリザヴェータ・チェプラソワ/オリガ・ミーニナ
ジプシーたち : ラファエル・ムーシン/フョードル・ムラショーフ/カレン・ヨアンニシアン/エレーナ・バジェーノワ/アナスタシア・ペトゥシコーワ/ポリーナ・ラッサーディナ/リュー・チヨン/アリサ・ソコロワ

|

« 【舞踏】へんなおじさんたちがなぜかカワイイ 山海塾『卵熱』 | トップページ | 【レニングラード国立歌劇場オペラ】オーソドックスで若々しい『エフゲニー・オネーギン』 »

芸能・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74997/46984125

この記事へのトラックバック一覧です: 【マリインスキー・バレエ】テリョーシキナが良かった。ユーモアとイロニーたっぷりの『イワンと仔馬』:

« 【舞踏】へんなおじさんたちがなぜかカワイイ 山海塾『卵熱』 | トップページ | 【レニングラード国立歌劇場オペラ】オーソドックスで若々しい『エフゲニー・オネーギン』 »