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2010/02/18

【歌舞伎】穏やかに死を受け入れる勘三郎の『俊寛』 2010年2月歌舞伎座昼の部

 『俊寛』は有名な演目ですが、実はぽん太はあまり好きではありませんでした。一度は自己犠牲を決意しながら、独り孤島に残される寂しさに耐えかねて、鼻水たらしながら大げさに泣き叫ぶという話しがなんだか大げさで、未練たらしく思われるからです。
 しかし、勘三郎の『俊寛』はまったく違っていました。遠ざかる船を見ようと崖の上の松にすがった時、一瞬険しい顔を見せるものの、最後は実に安らかな表情を浮かべて幕となりました。勘三郎の俊寛には、孤島に独り残される苦しみ、都に戻りたいという未練がありません。
 もうひとつ、船が出港する場面です。普通の演出では、ほどいた船のもやい綱が砂浜に置かれ、船の出港とともに綱がスルスルと動いていくのを、俊寛が思わずつかもうとします。船に乗りたい、という気持ちを表して涙をさそう演出ですが、今回の勘三郎の演出ではこの場面がありませんでした。
 さらにもうひとつ、勘三郎の俊寛は、遠ざかる船に何度も「お〜い」と呼びかけます。船からの「お〜い」という返事は、船が遠ざかるに従ってだんだんと小さくなっていきます。勘三郎は、耳に手を当てて、その声を聞き取ろうとします。俊寛は、遠ざかる人々、つまりこの世に別れを告げます。それは自分の人生、そして妻との思い出への別れでもあります。
 ではなぜ俊寛は、落ち着いた気持ちで鬼界ヶ島に残ることができたのでしょうか。俊寛は、成経と千鳥が夫婦になったことを喜んで、衰弱した身体でふらつきながら舞いまで披露します。このことから、いかに俊寛が夫婦の情を大切にしていたかがわかります。ところが俊寛は、瀬尾の口から、妻の東屋が清盛の命によって打ち首になったことを聞かされます。「三世のちぎりの女房しなせ、何のたのしみに我独京の月花見たふもなし」と俊寛は言います。俊寛にとって妻のいない都は、もはや鬼界ヶ島よりましなところとは思えなかったのでしょう。苦しみに満ちた現世に留まるより、死んで極楽浄土に往生することを、俊寛は選びました。ですから、独り島に残って死ぬことは、俊寛にとっては苦痛ではなかったのです。
 俊寛が自分の代わりに千鳥を船に乗せようとしたのは、現代人の我々が考えるような「自己犠牲」ではありません。現世の望みを捨て、極楽浄土に往くことを願った俊寛は、ひとつでも善行を積もうと思ったのです。「この鬼界ヶ島では五穀をたべることすらできない餓鬼道にあり、今の苦しみは修羅道、そしてこの島の火山はまさに地獄、この世で三悪道を体験すれば、来世では極楽浄土に生まれ変わることができるだろう、自分が乗りたいのは極楽浄土に渡る船であって、現世のこの船ではない」と俊寛は言います。
 勘三郎のラストシーンでの穏やかな哀しみの顔は、この世に生を受け、さまざまな大切な人と別れて行くという、人間の普遍的な孤独を表していると感じました。
 勘三郎は、どうやってこのような俊寛像を見いだしたのでしょうか。今月の公演は「十七代目中村勘三郎二十三回忌追善」と銘打ってますが、十七代目の写しなのか。それとも『俊寛』を最後の舞台ととしてこの世を去った十七代目の心境を表しているのでしょうか。

 『ぢいさんばあさん』は、シンプルな筋立ての小品ですが、玉三郎、仁左衛門の老い姿が味があってすばらしかったです。おとがめによって有馬藩お預かりとなり、37年ぶりの再会。『俊寛』からのつながりで、俊寛が望んでいたのはこのような夫婦の情愛だったのだなあ、と思い涙が誘われました。森鴎外の原作は こちらの青空文庫で読むことができます。ごく短いので、一読をおすすめします。
 『爪王』は、子供の頃読んだ動物作家の戸川幸夫の原作。七之助と勘太郎が若々しく綺麗でしたが、踊りとしてはあまり面白く感じませんでした。


歌舞伎座さよなら公演
二月大歌舞伎
十七代目中村勘三郎二十三回忌追善

平成22年2月/昼の部

一、爪王(つめおう)
               狐  勘太郎
               鷹  七之助
              庄屋  錦之助
              鷹匠  彌十郎

二、平家女護島
  俊寛(しゅんかん)
            俊寛僧都  勘三郎
          丹波少将成経  勘太郎
              千鳥  七之助
           平判官康頼  扇 雀
            瀬尾兼康  左團次
            丹左衛門  梅 玉

三、十七代目中村勘三郎二十三回忌追善 口上(こうじょう)
                  芝 翫
                  勘三郎
                  幹部俳優出演

四、ぢいさんばあさん
           美濃部伊織  仁左衛門
          下嶋甚右衛門  勘三郎
            宮重久弥  橋之助
             妻きく  孝太郎
           石井民之進  市 蔵
            戸谷主税  桂 三
            山田恵助  右之助
           柳原小兵衛  秀 調
          宮重久右衛門  翫 雀
           伊織妻るん  玉三郎

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