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2010/03/22

【雑学】バレエ「海賊」のストーリーの変遷

 バレエの「海賊」は、ガラやコンクールで踊られるアリのパ・ド・ドゥはすばらしいけれど、全幕としてはおもしろくないので有名です。そのためさまざまな振付家が、ストーリーに変更を加えて、少しでも面白くしようと努力してきました。そこでぽん太は、「海賊」のストーリーの変遷を調べてみました。
 まず原作のバイロンの『海賊』ですが、あらすじを以前の記事(【バレエの原作を読む(1)】バレエの『海賊』←バイロンの長編詩『海賊』)に書きましたので、参照して下さい。
 1856年にパリオペラ座で初演されたときの台本は、平林正司の『十九世紀フランス・バレエの台本―パリ・オペラ座』[1]に収録されています。初演時の台本は、「ジゼル」でも有名なジュル=アンリ・ヴェルノワ・ド・サン=ジョルジュと、ジョゼフ・マジリエ、そして振付けはジョゼフ・マジリエでした。そのあらすじはこれだ〜。

 最初の場面は奴隷市場。海賊の首領コンラッドは、市場の年老いた支配人イザークの被後見人であるメドラと思いを寄せ合います。そこにセード・パシャが奴隷を買いに来ます。彼はメドラを気に入ります。イザークは自らが後見している娘を売るのを拒みますが、やがて金に目がくらんでついに売ることを承諾します。しかしころあいを見計らって、コンラッドら海賊たちは、メドラをイザークもろとも奪って逃げます。
 海賊の隠れ家につれてこられたメドラは最初は怖がりますが、やがてコンラッドと愛し合うようになります。そして華やかな宴が繰り広げられますが、メドラは、囚われの娘たちの開放を請います。副首領のビルバントは反対しますが、コンラッドは彼を屈服させ、娘たちを開放します。怒ったビルバントは、イザークと結託し、メドラを奪う計画を立てます。ビルバントは花輪に睡眠薬を注ぎ、コンラッドがそれを嗅いで眠ったすきに、メドラを奪い去ります。しかしその際メドラは、覆面をしたビルバントの腕にナイフで一撃を加えました。
 さて、パシャの宮殿では、若い女奴隷ギュルナールが、他の女奴隷とパシャの寵愛を競っています。そこにイザークがメドラをつれて戻ってきます。ギュルナールとメドラは互いに理解し合い、友情が芽生えます。そこに巡礼者のキャラバンが到着し、宴が繰り広げられます。頃合いを見計らって巡礼者たちが衣を脱ぎ捨てると、彼らはコンラッド率いる海賊たちでした。メドラはコンラッドに救われ、またギュルナールも彼に保護を求めます。そのときメドラは、ビルバントが自分を襲った覆面の男であることに気がつきます。メドラがビルバントの腕を握ると、ビルバントはナイフで刺された傷の痛みにうめき声をあげます。コンラッドは彼を射殺しようとしますが、ビルバントはすきをみて逃げ去り、パシャの衛兵たちを連れて戻ってきます。これにはさすがの海賊たちも、降伏せざるを得ませんでした。
 メドラは、自分がパシャと結婚することで、コンラッドの命を救おうとします。それを知ったコンラッドは、一緒に死ぬことを決意します。しかしそこに現れたギュルナールは、秘密の計画を持ちかけます。まず結婚式では、ギュルナールがメドラの替え玉になり、替わりに結婚指輪を受け取ります。夜になって、メドラはふざけた振りをしながら、パシャの武器を奪い取り、両手を縛ります。そこにコンラッドが現れ、メドラとともに逃げ去ります。慌てるパシャに対してギュルナールは結婚指輪を見せつけ、自分がパシャの妻であり女王であることを誇らしげに宣言します。
 コンラッドとメドラそして海賊たちは、海賊船で大海原を渡っています。しかし恐ろしい嵐が船を襲い、あえなく沈没してしまいます。
 しかしコンラッドとメドラは奇跡的に遭難を免れ、陸地にたどり着き、天に感謝します。コンラッドはメドラの愛によって改悛し、海賊をやめ、永遠の平穏と幸福を得ます。
 ちょっと長めに要約して見ました。最初が奴隷市場で、最後が難破ですね。ギュルナールが計略によってコンラッドとメドラを逃がし、自分はパシャの妻の座に納まるという下りは目新しいです。また最後の「コンラッドが愛によって改悛して海賊をやめる」という結末は、なんだかな〜という感じです。バイロンの描いた、「俗世間を離れて崇高な生き方をする海賊」とは、すでに違うようです。そ、そして……。アリがいない。アリはどこだ!
 初演時の『海賊』は典型的な舞踏劇で、マイムが多くて踊りがすくなかったのだそうです。確かに初演時台本を読むと、今のバレエの感覚からするととても複雑で、どうやって聴衆に理解させたのかと思えます。コンラッド役は鬼のように恐ろしい顔をした野性的なダンサーが踊ったそうで、それが当時の海賊のイメージだったそうです。2年後の1858年、ボリショイ劇場でペロー版が初演され、このときから海賊は王子に変わったそうです。プティパは1863年に自分の版を初演し、その後もドリーブなどの曲を付け加えるなど、何度も改訂を行いました。1867年には第三幕に「動く花園」と呼ばれる抽象バレエを入れました。また1999年には、現在アリのパ・ド・ドゥとして知られているドリゴの曲が追加されました。アリのソロが踊りとして完成されたのは1930年頃で、ワフタング・チャブキアーニが自ら振付けをして踊ったそうです。ただその役名は「奴隷」だったそうです。
 「海賊」はその後ソ連でのみ演じられておりました。1962年にヌレエフがロンドンで踊ってから、パ・ド・ドゥのみ西側に広がりました。ソ連のバレエ団が、西側で「海賊」全幕を公演したとき、観客はアリが主人公じゃないのにびっくりしたそうです。ソ連では1973年にセルゲーエフ版(キーロフ・バレエ団)ができたそうです。現在ABTで踊られているものの元ですね。また難破を冒頭に持って来たのはヴィノグラードフで(キーロフ・バレエ団)、1987年のことだそうです。ABTが「海賊」全幕を初演したのが1999年、欧米のバレエ団では初めてだったそうです。

 う〜ん、なんかとっても中途半端だけど、バレエ素人のぽん太の調査はこれが限界か……。またいい資料に巡り会ったら、みちくさしてみましょう。
【参考文献】
[1]平林正司『十九世紀フランス・バレエの台本―パリ・オペラ座』、慶応大学出版株式会社、2000年。
[2]鈴木晶『バレエ誕生』、新書館、2002年。
[3]佐々木涼子『バレエギャラリー30 登場人物&物語図解』、学習研究社、2006年。
[4]渡辺真弓『バレエの鑑賞入門 』、世界文化社、2006年。
[5]薄井憲二によるDVD「海賊」の解説(1990年)、「キーロフ・バレエ「海賊」 」ワーナーミュージック

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