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2010/03/08

【バレエ】ウィリになっても血の通っているアナニアシヴィリの『ジゼル』・グルジア国立バレエ

 ABTを退団して祖国グルジアに戻ったアナニアシヴィリが、芸術監督を務めるグルジア国立バレエとともに来日いたしました。こちらが公式サイトです。グルジアは、アナニアシヴィリが生まれた頃は、ソビエト連邦に所属する一共和国でしたが、1991年のソ連崩壊によって独立国になりました。グルジアは、スターリンの出生地としても有名ですね。ソ連というと、北国を思い浮かべますが、地図を見るとわかるように、黒海に面し、トルコと国境で接しています。アナニアシヴィリにもそんなアジア的・南方的な雰囲気がありますが、彼女(とグルジア国立バレエ)が、『ジゼル』をどのように踊るのか、とても楽しみでした。
 幕が開くと、舞台装置はだいたい普通。森番(ハ、ハンス〜?ヒラリオンじゃないのか)は、普通はちょっと粗野な感じの無骨な男性ですが、今回はとても人のよさそうな若者でした。新国立で見慣れたウヴァーロフのアルブレヒトは、背も高いしスタイルもよく、誠実な若者で、婚約者がいながら素朴なジゼルに思わず心を奪われてしまったという感じで、ジゼルが死んだ後は本気で後悔しているようでした。ただ、ニーナとのペアでは、少し背が高すぎるような気もしました。
 剣を隠すジゼルの向かいの家から、おばあさんが出て来たのにはびっくりしました。しかも剣を預かる代償に、お金を要求したりします。なんかアジア的・南方的です。
 アナニアシヴィリのジゼルは、オペラグラスで拡大すると年齢は隠せませんが、遠目にはまったくオッケー。小ぶりでかわいらしく、上半身と手の動きがとても柔らかく、感情的表現が豊かで演技力がありましたが、弱々しさ、儚さにはちと欠けるように思いました。
 第一幕のコール・ド・バレエの衣装は、水色や黄色や赤を組み合わせた色使いや、スカートにちっちゃなエプロンみたいなのが付いているのが、コーカサスっぽかったです。ところでジゼルの第一幕の群舞って、いつもこんな振付けだっけ。なんか見慣れない感じがしたのですが。それに、ちょっとばらばらで、いまひとつでした。第一幕全体は、マイムが多いこともあって、とてもドラマチックで演劇的でした。例えばジゼルの母が「そんなに踊って死んでしまうと、ウィリになってしまうんですよ」と言う場面では、登場人物全員に緊張が走り、次の瞬間われに返るのですが、こういう演出も初めて見ました。
 第二幕では、背景に教会の屋根と塔が見えます。ジゼルの墓は、てっきり深い森のなかにあるのかと思っていましたが、教会の裏手の林のようです。してみると、ウィリがうろうろしているのが、教会の窓から丸見えなのか……。またハンスを脅かすのも、人魂のような炎ではなく、パチパチいう閃光です。さらにワイヤーで吊られたウィリが舞台を横切って飛んで行くなどの「けれん」もあり、なんか見慣れた静謐な舞台とはことなります(ちなみに「ジゼル」の初演時にも、ジゼルやウィリはワイヤーで吊られて宙を飛んだそうです)。ミルタの踊りはなかなか見事で、またウィリの群舞も、第一幕よりはよかったです。ジゼルとアルブレヒトのパ・ド・ドゥはすばらしかったですが、いつも見慣れているような、純真無垢で氷のようなジゼルではなく、血が通っているジゼルに見えました。
 ということで、見慣れた北欧神話的な『ジゼル』とはちょっと違い、小芝居も混ざったアジア的・南方的なジゼルでしたが、それはそれで面白かったです。しかしよく考えてみると、以前の記事に書いたように、ウィリの伝説は北欧起源ではなく、スラブ系の起源を持つオーストリアの伝説です。ハイネはウィリたちのことを、「ぞっとするような明るい声で笑い、冒涜的なまでに愛くるしい。そして神秘的な淫蕩さで、幸せを約束するようにうなずきかけてくる」と書き、「この死せる酒神の巫女たち」と言い換えています。してみると、現在主流の純真無垢なジゼルは、必ずしも「正統的」とは言えないのかもしれません。


アナニアシヴィリ&グルジア国立バレエ
≪ジ ゼ ル≫ 全 2 幕
2010年3月3日 東京文化会館

音楽 : アドルフ・アダン
台本 : テオフィル・ゴーチエ,ジュール=アンリ・ヴェルノワ・ド・サン=ジョルジュ
振付 : ジャン・コラーリ,ジュール・ペロー,マリウス・プティパ
振付改訂 : アレクセイ・ファジェーチェフ
改訂振付補佐 : タチヤーナ・ラストルグーエワ
装置・衣裳 : ヴャチェスラフ・オークネフ
照明 : パウル・ヴィダル・サーヴァラング
指揮 : ダヴィド・ムケリア
管弦楽 : 東京ニューシティ管弦楽団

<出 演>
ジゼル : ニーナ・アナニアシヴィリ
アルブレヒト : アンドレイ・ウヴァーロフ
ベルタ(ジゼルの母) : ニーノ・オチアウーリ
アルブレヒトの友人 : ユーリー・ソローキン
公爵(バチルドの父) : パータ・チヒクヴィシヴィリ
バチルド(アルブレヒトの婚約者) : マイア・アルパイーゼ
ハンス(森番) : イラクリ・バフターゼ
ジゼルの友人 : アンナ・ムラデーリ,ニーノ・ゴグア,ナティア・ブントゥーリ,エカテリーナ・スルマーワ,ニーノ・アルブタシヴィリ,エカテリーナ・シャヴリアシヴィリ
パ・ド・シス : テオーナ・アホバーゼ,ニーノ・マハシヴィリ,ラーナ・ムゲブリシヴィリ,ニーノ・マティアシヴィリ,ワシル・アフメテリ,オタール・ヘラシヴィリ,メルガリエフ・ヤッサウイ
ミルタ(ウィリの女王) : ラリ・カンデラキ
ウィリたち : エカテリーナ・スルマーワ,アンナ・ムラデーリ

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