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2010/06/24

【歌舞伎】ちょっとアジ演説風すぎたかな「佐倉義民傳」シアターコクーン

 今年のコクーン歌舞伎の「佐倉義民傳」は、正直言ってちょっと物足りなかったです。公式サイトは こちらです。
 いつもながら音楽にはパーカッションやエレキギターを用い、さらに今回はラップを組み合わせたのは悪くありません。けれんの仕掛けも、『四谷怪談』の「本水」の次は「火」か!?などと思わせておいて、地味に「土」というところがしゃれてます。
 しかし脚本がイマイチか。悪政に苦しむ農民を救うために我が身を犠牲にした名主・佐倉惣五郎。彼の「義民」としての思いや行為を、現代の人々に投げかけようというものでした。しかし、惣五郎の物語を劇中劇にしたて、観客に自分を意識させるという手法はちょっと陳腐。またラップによって、「惣五郎の心を無にしてはいけない。ガンジーや、天安門広場で戦車の前に立った青年とかを思い出せ。皆も人々のために行動せよ」みたいなこと(正確に覚えてませんが、そんな内容)が歌われるのですが、ちょっと生すぎて、政治的なアジテーションを聞いているような気分になります。ぽん太としては、その辺はストレートに表現せず、言外にほのめかして欲しい気がします。
 それに、「義民」の典型とするには、惣五郎の物語は地味すぎる気がします。「甚兵衛渡し」や「子別れ」といった名場面はあるものの、全体の構造としては、代官・領主・将軍と、相手を変えながら訴えが三回繰り返されるという単調なものです。そこで話しを膨らませるために、橋之助の駿河弥五右衛門や七之助のおぶんが加えられたのだと思うのですが、あまり効果的ではありませんでした。弥五右衛門がおぶんを斬る下りも、心情がよくわかりませんでした。
 惣五郎が磔になるシーンで、死を覚悟して念仏を唱えようする長男を制止し、成仏せずに怨霊となって地上に留まることを誓う、というのも、納得できませんでした。惣五郎は、一揆を起こそうとする農民たちを引き止め、怒りの感情に駆られることなく、一貫して冷静かつ非暴力的に行動していたのでした。そして、将来の名主として殊勝な言葉を述べる長男を誇りに思っていました。成仏を拒否して怨霊になるのでは、民のため「義」に基づいて行動していた惣五郎が、恨みや怒りといった感情に支配されたことになってしまいます。ちなみに『忠臣蔵』の「おかる勘平」でも、切腹した勘平が死ぬ間際に怨霊となることを宣言することは、以前のブログで書きました。
 惣五郎は礼節正しく真面目で立派な人物なので、勘三郎が世話物で見せる演技術のかなりの部分が封印されていたのが残念。笹野高史のテレビではわからない「舞台」でのうまさが光り、ちょっとした間の取り方や演技で客席を泣かせ、またおおいに湧かせていました。

 以下、ぽん太の覚え書き。
 まず、ぽん太は「義民」という言葉が初耳なので、コトバンクで引いてみると、「江戸時代,農民闘争において私財・生命を賭して活動した者。明治維新後に義人,大正期から義民の呼称が一般化した……」とのこと。ナルホド……。
 『歌舞伎事典』(平凡社、2000年)によれば、「佐倉義民傳」はもともと「東山桜荘子」(ひがしやまさくらそうし)という題で嘉永4年(1851年)に江戸・中村座で初演されたとのこと。歌舞伎には、困窮する農民を一命をなげうって救う「義民」を描く、「義民物」というジャンルがあるのだそうな。17世紀後半から、将軍家や大名を出版物や演劇で扱うことは法律で禁じられていましたが、嘉永年間(1848〜1854年)になって幕府の統制が緩み、義民物が上演されるようになったそうです。義民物の上演の背景には、幕末・明治期の百姓一揆や自由民権運動が関係しているのだそうです。
 シアターコクーンで出開帳してましたが、佐倉惣五郎を祭った宗吾霊堂が成田市にあるそうです。公式サイトはこちらです。佐倉惣五郎は、本名木内惣五郎という実在の人物で、慶長17年(1612年)に生まれ承応2年(1653年)に処刑されたのだそうですが、史実と伝説が入り交じってはっきりしないというのがホントのところでしょうか。


渋谷・コクーン 歌舞伎第十一弾
「佐倉義民傳」
2010年6月 シアターコクーン

演出・美術:串田和美
脚本:鈴木哲也

木内宗吾:勘三郎
駿河弥五衛門:橋之助 
甚兵衛の姪おぶん/徳川家綱:七之助
渡し守甚兵衛/座長:笹野高志 
幻の長吉:亀蔵
家老池浦主計:弥十郎 
堀田上野介正信/宗吾女房おさん:扇雀

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