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2010/10/30

【オペラ】空席が多くてもったいにゃい 新国立劇場「アラベッラ」

Img_0600 にゃん子「今夜のオペラはなんだっけ?」
 ぽん太「う〜ん、『アラベッラ』て書いてあるよ」
 にゃん子「なにそれ?」
 ぽん太「なんか、イタリア語っぽいな〜。イタリアオペラかな?」

 といった程度の予備知識で行ったのですが、実際に観てみたらとてもすばらしく、ラストシーンでは思わずウルウルしてしまいました。思わぬ拾い物をして得した気分です。リヒャルト・シュトラウスとホフマンスタールのコンビによる最後の作品なのだそうですが、いまひとつ世間には名が知れていないせいか客席も空きが目立ちましたが、実にもったいなく、また熱演した出演者にも申し訳なく思いました。写真は、ぽん太が今年のGWに訪れた、『アラベッラ』が1933年に初演されたドレスデン国立歌劇場です。新国立の公式サイトはこちらです。
 あらすじは上のサイトにも出てるので省略。一見たわいないラブコメ風ですが、実によくできてます。
 享楽的なウィーン社会で暮らすヴァルトナー伯爵一家と、正直だが無骨で荒々しいハンガリー(?)の大地主マンドリカの対比が面白いです。ヴァアルタトナー伯爵は破産寸前というのに賭けトランプに熱中し、伯爵夫人は占いにはまってます。娘二人を社交界にデビューさせるだけのお金がないので、妹は男装させられて男として育てられています。一家の命運は、長女が玉の輿に乗れるかどうかにかかておりますが、彼女は若者たちとの恋の遊戯にご満悦です。一方マンドリカは、広大な土地を持つ田舎者。アラベッラの写真に魅せられて、血塗られた手紙を携えて、はるばるやって来たという怪しい男。正直・実直だけどウィーン人のエレガントさはなく、無骨で激高しやすい男です。
 彼らのもろもろの思惑が交錯し、誤解が誤解を生んで話しが展開して行くのですが、そこは省略。ついに第三幕で、最悪の状況に至ります。この場面の救いのなさ、恥辱、絶望は、計り知れないものがあります。歌舞伎だったら何人か死なないと収まりのつかない状況です。マンドリカがマッテオを殺し、次いでズデンカが自害しながらすべてを告白、それを聞いてマンドリカも自害、といったところでしょうか?
 そして有名な、アラベッラが一杯の水を手に階段を下りてくるシーン。こんなシンプルな場面が深い感動を与えるなんて、本当にリヒャルト・シュトラウスとホフマンスタールの才能はすごいです。
 一般にこの場面、アラベッラばかりに目が向けられているようですが、一度はドアノブに手をかけながら、立ち去らずに戻って来たマンドリカにも、ぽん太は拍手を送りたいと思います。実際アラベッラは、水で喉を潤したら、なにもかも忘れて深い眠りにつくつもりでした。明日になれば、噂の飛び交うウィーンの街で、何事もなかったかのような振りをして、代わり映えのない生活を続けていくことにったはずです。ところがアラベッラは、ロビーにまだマンドリカがいることに気がつきます。彼女は、まだ望みが残っていることを理解し、水の入ったグラスを片手に階段を降りていきます。
 マンドリカがもし男の面子を大事にしたなら、こんな屈辱的な場所からは一刻も早く立ち去って、二度とウィーンには足を踏み入れないことでしょう。事実マンドリカは、アラベッラの「不実」に対して、当てつけがましい乱行で応えたのでした。しかし今回は「このまま立ち去ってはいけない」という微かな声が、彼の心のなかで聞こえたのでしょう。それが「愛」なのか「希望」なのか明確な形をとってはいなかったけれど、とにかくマンドリカはその声に従ったのです。ぽん太はここにマンドリカの正直さ、純粋さを感じます。ぽん太だったらメンツにとらわれ、意地をはって、ウィーンを直ちに立ち去ったと思います。
 登場人物一人ひとりの善意が行き違って、一度はすべてが破綻してしまいました。しかし最後には、微かな希望がつながり合って、幸福な結末を迎えたのです。

 マンドリカを歌ったトーマス・ヨハネス・マイヤーがよかったです。素朴で実直だけど無骨で荒々しく、まるで熊みたいでした。嫉妬の爆発シーンもすごい迫力で、以前のヴォイツエク役の記憶が生々しいので、見ていてなんだか怖かったです。アラベッラを歌ったミヒャエラ・カウネは、美人ですけど意外と額のしわが目立ち地味な印象。でも、前半でのうぶな小娘のかわいらしさから、ラストシーンの神々しいまでの存在感まで見事な表現力で、芸の力を感じました。ズデンカのアグネーテ・ムンク・ラスムッセンはちょっと地味。ヴェルトナー伯爵の妻屋秀和は声量もあり、コミカルな演技もよかったです。フィアッカミッリの天羽明惠の超絶コロラトゥーラも最高。ぽん太は昨年末に「第九」で聴いたことがあるようですが、よく覚えたないのが情けない。舞台美術もブルーが基調のすっきりしたもので、ホテルにクリムト(1862-1918年)の絵が架かっていたので、原作の1960年代という時代設定よりも、少し現代にシフトしているようです。演出・美術・照明のフィリップ・アルローは、「光の魔術師」と呼ばれているそうですが、それほどでもなかった気がしますが、事業仕分けのせいでしょうか。経歴を見ると、精神医学を目指してストラスブール大学医学部に入学し、演出を手がける一方、十年かけて外科医の資格をとったのだそうです。すごいですね。森英恵(会場に観に来てました)の衣裳も悪くなかったです。指揮とオケに関しては、ぽん太はよくわかりません。


「アラベッラ」
[New Production]
Richard Strauss:Arabella
リヒャルト・シュトラウス/全3幕
2010年10月17日 新国立劇場オペラ劇場

【指 揮】ウルフ・シルマー
【演出・美術・照明】フィリップ・アルロー
【衣 裳】森 英恵

【ヴァルトナー伯爵】妻屋秀和
【アデライデ】竹本節子
【アラベッラ】ミヒャエラ・カウネ
【ズデンカ】アグネーテ・ムンク・ラスムッセン
【マンドリカ】トーマス・ヨハネス・マイヤー
【マッテオ】オリヴァー・リンゲルハーン
【エレメル伯爵】望月哲也
【ドミニク伯爵】萩原 潤
【ラモラル伯爵】初鹿野 剛
【フィアッカミッリ】天羽明惠
【カルタ占い】与田朝子

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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