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2010/12/02

【拾い読み】とりあえずベジャール入門『モーリス・ベジャール回想録―誰の人生か? 自伝2』

 こことのところベジャールが振付けたバレエを立て続けに見たのですが、よく考えてみるとベジャールのことはほとんど知らないことに気がつき、この本を読んでみました(モーリス・ベジャール『モーリス・ベジャール回想録―誰の人生か? 自伝2』 前田允訳、劇書房、1999年)。
 本書の「誰の人生か?」(La vie de qui?)というタイトルが示すとおり、ベジャールがいかに多くのダンサーやその他の人々、あるいは音楽、書物、映画などに接し、関わり、それらに触発されて生きてきたかがよくわかりました。ベジャールは「主体の複数性」といったポスト・モダンの概念をもてあそんでいるわけではなく、実際に世界中を飛び回り、さまざまな人々との出会いの中で振付けをし、そして生きてきたわけです。先日観た「80分間世界一周」は、単なる世界の音楽とダンスを巡るショーではなくて、まさにベジャールの人生そのものだったんですね。で、あとはいつものように拾い読み。

 私のものというよりは、ドンのバレエであるもののうちでも、『アダージェト』は特別だ。それは、ドン自身がジル・ロマンに伝授したのだ。日本ツアー中にドンが私に言った。「ジルに踊らせてみてくれ。彼ならうまくいくよ」(35ページ)
 2008年6月10日、ベジャール亡き後初めてのベジャール・バレエ団来日公演の初日、ジル・ロマンがプログラムになかった『アダージェット』を踊るというサプライズがありました。残念ながらぽん太はこの日は観に行ってなかったんだけど……。引用にあるように、『アダージェット』はベジャールにとっては、ジョルジュ・ドンのために振り付けたものであり、彼以外が踊るということは考えていませんでした。しかしドン自身が、ジル・ロマンが踊ることを提案したわけです、しかも日本公演の最中に!ベジャール亡き後、ベジャールの遺産を引き継いでく立場となったロマンが、日本公演で『アダージェット』を踊ったのには、深い思いがあったのかもしれません。
 次の質問。「不眠症対策に薬を飲んでますか」
 フェリーには、私もそう言っただろうと同じことを答えている。「ありとあらゆるものを試してみました。あらゆる睡眠薬、ハーブ、催眠術。精神安定剤の科学的な講演ができるくらい」
 私が人生でやりそびれたことは、フェリーニと一緒に薬局に行くことである!(65ページ)
 ベジャールは不眠症で睡眠薬を常用していたのか。フェリーニも……。ただそれだけですけど。
 マニュエル・ルグリをパリ・オペラ座のエトワールに指名する件で、この劇場で『アレポ』の初演を行っていたベジャールと、当時の舞踊監督だったヌレエフとの間にいざこざがあったことも、初めてしりました。エトワールの指名は上演後の舞台で行われるそうで、誰かの悪意に基づく情報からヌレエフの許可がおりていると思い込んだベジャールが、『アレポ』上演後にルグリとエリック・ブ=アンをエトワールに指名したところ、ヌレエフの逆鱗にふれ、激しい言葉で罵倒されたそうです。本には1986年の2月にあったと書かれていますが、ルグリのエトワール昇進は、1986年7月のニューヨーク公演で 『ライモンダ』を踊ったあと、ヌレエフによって行われたそうですから、ベジャールによる指名は取り消されてしまったのでしょうか。
 フリッツ・ラングの映画『M』に触れているところがありました。もうすぐベジャールが三島由紀夫を題材にして振り付けたバレエ『M』の公演があり、ぽん太も観に行く予定ですが、そう言われてみれば『M』といえばフリッツ・ラングでした。関係があるのでしょうか。公演前に映画を見直しておいた方がいいかな?
 ベジャールは別のところで、小林十市のことを「彼はパリ・オペラ座ではあまり見られないようなすばらしいテクニックの持ち主で、輝きとユーモアに恵まれている。これまでで最も良かった役柄は『M』(三島のM)の中で演じたものであり、その役は「死」だった」(154ページ)と書いている。12月の東京バレ団の公演では、持病でダンサーを引退してた小林十市が今回だけ舞台に復帰して、この「死」を踊るそうで、大変楽しみです。
 さて、いつぞやのブログでも触れた、ベジャールの祖先に黒人がいる問題。書いてありました。ベジャールの父の祖母であるファトゥ・ディアニュがセネガルのゴレ島の黒人女性だと書いてありました(266ページ)。ベジャールの父方の曾祖母が黒人ということで間違いなさそうです。ということは、曾祖父と書いてるNBSの公式サイトの方が間違っているということか……。さらに同書に収録されている写真を見ると、父方の祖父(エチエンヌ・ベルジェ)には黒人の血が入っており、父方の祖母に(アメリー)は白人のように見えますので、父の父の母が黒人だと思われます。
 東京にて、1996年2月4日
 1880年に出来た、ちょっとモーパッサン風のメロドラマ調歌舞伎に出演中の玉三郎に会いにいく。(303ページ)
 いったい何の演目でしょう。こちらの玉三郎の公式サイトを見ると、1996年2月は新橋演舞場で『一本刀土俵入』と『新書太閤記』に出たと書いてありますが、どちらも「モーパッサン風のメロドラマ」ではないし、1880年の作でもありません。1月の「女人哀詞」は唐人お吉の話しだからそれっぽいけど、場所は大阪梅田のドラマシティだし。3月歌舞伎座の「梅ごよみ」かもしれないけど、1880年って……。意外と本書に書かれている内容の細部はいいかげんなのかも。ベジャールは玉三郎を絶賛しております。歌舞伎もバレエも初心者のぽん太には、二人一緒の舞台を観る機会がなかったのが残念です。

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