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2011/02/25

【歌舞伎】若さで押していく染五郎の「女殺油地獄」 ルテアトル銀座2011年2月

 第二部の「女殺油地獄」の方がよかったです。河内屋与兵衛の染五郎は、「徳庵堤」や「河内屋内」ではなんか小芝居がバタバタしていて、どうしょもない人間である中のかわいらしさや色気が感じられませんでした。しかし「豊嶋屋油店」に入ってからは、若さでストレートに押して行く渾身の演技に徐々に引き込まれていき、壮絶な殺しのシーンは思わず息を飲みました。今回の公演の公式サイトはこちらです。
 染五郎が与兵衛を演じるのは10年ぶり3度目ですが、最初に教わったのは仁左衛門からだそうです。与兵衛はお吉に、まずは普通に金の工面を頼むが断られ、色仕掛けに出、最後は必死の思いで懇願するものの「またいつもの嘘だろう」と言われて、ついに殺害を決意します。そしてお吉を追い回すうちに、だんだん快楽を感じてきます。仁左衛門だと、こうした心理的な段階を、芸の力で細かく演じ分けていきます。例えばお吉が「なるほど金は奥の戸棚に上銀か五百匁あまり」と箪笥を指し示したとき、与兵衛はつられて視線を箪笥に移すだけであり、まだお金を奪おうなどとは露ほども思っていないことがわかります。染五郎は「芸の力」よりも、与兵衛に対する共感をよりどころにして演じているようで、とにかく金を手に入れたい一心から、ギラギラした目で箪笥を見つめておりました。
 「北の新地の場」と「豊嶋屋逮夜の場」は初めて見ました。そういえば、最初の「野崎参り屋形船の場」があって、舞台を回して「徳庵堤」になるというのも、初めての気がします。「北の新地の場」は奪った金で放蕩にふける与兵衛を描いており、染五郎と高麗蔵(小菊)が客席に現れてお客をいじるというサービス付き。しかし、ここでの与兵衛はまるで「つっころばし」で、なよなよとした遊び人風です。歌舞伎ですから人物の性格的な一貫性はなくてもかまわないですが、粗暴な人間が金を手にして粋がっている風や、人を殺して手に入れた金であることを忘れて放埒にふける人間性のなさを、表現して欲しかったです。最後の場は、与兵衛がとうとうお縄にかかる場面。悪人がついに捕まることでカタルシスにはなりますが、確かに蛇足のような感じもし、殺害の場面で終わるやり方も一理あります。「豊嶋屋逮夜」までやるのなら、その前の与兵衛を憎々しげで嫌なやつに演じておく必要があるのかもしれません。
 お縄にかかって花道を引き上げて行く染五郎、なかなか複雑な表情の動きを見せましたが、それだけではぽん太は納得しません。後悔がよぎったのか、捕まったということを単純に悲しんだのか、捕まえてもらってほっとしたのか、強がってみせたのか、与兵衛の心情をふまえてもらいたいです。そしてそれにあわせて、芝居全体の与兵衛の人物像を組み立てて欲しいと思いました。
 亀治郎のお吉は安心して観れました。お吉の世話やきでシャキシャキした感じが、亀治郎に合ってました。与兵衛が全てを打ち明けてお金の工面を頼む場面で、思わず同情して貸しちゃいそうになるあたりが、いまいち表現不足だった気がします。彦三郎と秀太郎の両親の芝居は、さすがに別格。見ていて「お前らが甘やかすからいけないんだろ!」という気にならず、子を思う親御心に深く共感できました。高麗蔵の小菊、とっても可愛いらしかったです。
 第一部の「於染久松色読販」は、亀治郎が七役をつとめました。早変わりなどのケレン味ある楽しいお芝居で、亀治郎の芸達者ぶりが遺憾なく発揮されました。ストーリーはお染久松の物語と御家騒動を組み合わせたもので、鶴屋南北の作なのだそうですが、なんか歌舞伎でよく見るシーンの寄せ集めみたいでした。そういえばお染久松といえば野崎参り。1部と2部は関係してのかしらん。亀治郎の七役のなかでは、気っ風のよいお六が似合ってる感じがしました。お光狂乱の舞踊は哀れさが漂って秀逸、1月に愛之助の代役で奮闘した亀鶴もやわらかく涼やかな踊りでした。


ル テアトル銀座
二月花形歌舞伎
平成23年2月

第一部

猿之助四十八撰の内
於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)
お染の七役

  お染/久松/竹川/小糸/土手のお六/貞昌/お光  市川 亀治郎
                   鬼門の喜兵衛  市川 染五郎
                     髪結亀吉  坂東 亀三郎
                     船頭長吉  中村 亀 鶴
                    油屋多三郎  澤村 宗之助
                   女猿廻しお作  市川 笑 也
                     庵崎久作  市川 門之助
                    油屋太郎七  坂東 秀 調
                   山家屋清兵衛  大谷 友右衛門

第二部

女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)
                   河内屋与兵衛  市川 染五郎
                       お吉  市川 亀治郎
                     芸者小菊  市川 高麗蔵
                     小栗八弥  坂東 亀三郎
                    兄 太兵衛  中村 亀 鶴
                    妹 おかち  澤村 宗之助
                  叔父 森右衛門  松本 錦 吾
                  豊嶋屋七左衛門  市川 門之助
                    父 徳兵衛  坂東 彦三郎
                    母 おさわ  片岡 秀太郎

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