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2011/03/10

【歌舞伎】幸四郎の悲哀感あふれる「筆屋幸兵衛」 新橋演舞場2011年3月夜の部

 新橋演舞場夜の部。公式サイトはこちら

 「浮舟」は初めて見る演目。てっきり『源氏物語』の雅やかな世界が展開するのかと思っていたら、精神と肉体の葛藤に引き裂かれる自我、みたいな話しで、いまいちぽん太の好みではありませんでした。この作品は北條秀司が、『源氏物語』の「宇治十帖」を下敷きにして創作し、明治28年(1953年)に初演されたものとのこと。近代自我の問題を上乗せしたのが北條秀司の工夫だったのでしょうけれど、ぽん太にはかえって古くさくありきたりに感じられました。
 薫大将は観念的な若者で、精神的な愛を追い求め、結婚まで契りを結ぼうとしません。いっぽう匂宮は、心の趣くままに女性を追い求めます。浮舟は、心では薫を愛しながらも肉体は匂宮を求め、その葛藤に引き裂かれます。さらに浮舟が匂宮に引かれるのは、母親から受け継いだ多情な血のなせるわざ、という話しになってくると、なんだかドロドロで、「横溝正史かい!」とツッコミたくなります。終幕で、「なぜ匂宮の要求を死をもって拒まなかったのか」と浮舟を責める薫に、弁の尼が、薫にも「責任」の一端があると言うやりとりなども、近代的な責任論であって、『源氏物語』の感性とはまったく異なるように思えます。
 染五郎の薫大将は、精神的に未熟な観念的青年という感じ。紫式部の『源氏物語』では、薫大将も色気がある雅やかな美男子だと思うのですが、北條秀司の脚本がそうなっているのか、染五郎の演技によるのか、ぽん太にはわかりません。また演技が現代劇っぽいのが気になりました。菊之助の浮舟は、第一幕では若さを強調するためか、高い声を張りあげすぎてキンキンして聞きづらかったですが、後半になるにつれて演技に引き込まれました。吉右衛門の匂宮はさすがに上手で、色気や雅やかさがありました。浮舟に恋いこがれて我を忘れる様子が、生々しくならずに軽妙に演じておりました。吉右衛門と菊五郎が出て来ると舞台が引き締まります。なにげないセリフ回しや身のこなしなど、やはり染五郎・菊之助と一段レベルが違うな〜と思いました。魁春の中将は腹黒さがあっていいが、多情な血を持つという色っぽさに欠けるのは仕方がないか。福助の方があってたかも。で、薫大将が梅玉なら、だいぶ印象が違ったかな〜などとも思いました。
 紫式部の原作では、匂宮は薫大将よりも2、3歳年下だったと思うのですが、今回の配役では、薫大将は世間知らずの若者で、匂宮は恋の手練手管を知りつくした経験豊かな男性という印象。これも北條秀司の考えだったのか、たまたま今回の配役だったのか、ぽん太にはわかりません。

 幸四郎の「筆屋幸兵衛」は、2006年3月に歌舞伎座で観ました。そのときは滑稽さが印象に残ったのですが、今回は深い悲哀が感じられました。幸四郎の演技が変わったのか、ぽん太の感じ方が変わったのか、わからないところが素人の悲しいところ。落ちぶれたとはいえ元武士らしい厳しさのある表情もいいし、かどかどでのキマリも美しかったです。ただこれも、特に「身投げの場」など黙阿弥流の古風なセリフのやり取りが削られ、水天宮のご利益でお雪の目が見えるようになるとか(原作は目薬のおかげ)、「士農工商の身分がなくなった平等の世の中で助け合って生きて行こう」とか、オチをつけて近代的にまとめてあるところが残念です。

 最後は『吉原雀』。梅玉と福助の華やかな踊りで幕となりました。


新橋演舞場
三月大歌舞伎
平成23年3月

夜の部

  源氏物語
一、浮舟(うきふね)
   第一幕 二条院の庭苑
   第二幕 宇治の山荘
   第三幕 二条院の庭苑
   第四幕 宇治の山荘
       浮舟の寝所
   第五幕 宇治の山荘
       宇治川のほとり
                  匂宮    吉右衛門
                 薫大将    染五郎
                  浮舟    菊之助
                  侍従  尾上右 近
                  右近    萬次郎
                 中の君    芝 雀
                 弁の尼    東 蔵
                  中将    魁 春
                  時方    菊五郎

二、水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)
  筆屋幸兵衛

  浄瑠璃「風狂川辺の芽柳」
               船津幸兵衛    幸四郎
              萩原妻おむら    魁 春
               車夫三五郎    松 緑
              差配人与兵衛    錦 吾
             代言人茂栗安蔵    権十郎
              巡査民尾保守    友右衛門
             金貸因業金兵衛    彦三郎

  六世中村歌右衛門十年祭追善狂言
三、吉原雀(よしわらすずめ)
               鳥売りの男    梅 玉
               鳥売りの女    福 助

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