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2011/10/07

【歌舞伎】仁左衛門のいがみの権太のバランス感覚 2011年巡業西コース

 ぽん太の棲息する多摩地区で、仁左衛門がいがみの権太を演じるというので、観に行ってまいりました。この日が公演全体の楽日だったようで、筋書きが売り切れてしまって買えなかったのが残念でした。こちらが公式サイトです。
 まずは『雨の五郎』。曽我五郎が、遊女化粧坂の少将に会いに廓に向かう場面を描いた長唄舞踊。愛之助はあいかわらずの美男でしたが、勇ましさが勝って、ちょっと色気や艶っぽさに欠けた気がします。
 さあ、前菜を味わったところで本日のメイン、『義経千本桜』の「すし屋」です。仁左衛門のいがみの権太は、ぽん太は初めてでした。
 実はこの話し、これまでぽん太はなんか違和感を感じてました。というのは、善人に戻った権太の行いが、頼朝の深い思量のもとでは単なる浅知恵として、すべて無駄になってしまうからです。心を入れ替えたことも、愛する妻子を犠牲にしたことも、すべてが無意味となり、おまけに父親の手によって命まで失います。これでは権太があまりにかわいそうです。
 かといっていつぞやの海老蔵の時のように(2009年1月の新橋演舞場)、権太が根っからの悪人で、「お前みたいな悪いやつがにわかに善いことしようとするから、こんな目に会うんだよ」という感じだと、たしかに筋は通りますが、なんだか『義経千本桜』全体の趣旨にあいません。
 今回の仁左衛門の演出を観て、初めて「すし屋」の筋がストンと腑に落ちました。権太はやはり根はいい人で、心を入れ替え妻子を犠牲にして忠義を尽くしたのは賞賛に値します。しかし権太をはじめ「すし屋」の登場人物たちは、平維盛をかくまっている平家方ですから、平家を否、源氏を是とする江戸時代の価値観からすれば、悲劇的結末になるのはやむを得ません。権太の善行が最終的に無駄になることで、勧善懲悪の単純な図式を超えて、善行が必ずしも報われるとは限らないということが示されます。これは『義経千本桜』全体を貫く無常観に合致します。実際にこの世の中は、懸命に努力したからといっていい結果が出るとは限らず、善を積んだからといって報われるとはかぎりません。当時の江戸の庶民も、権太の哀れな最後に我が身を重ね合わせたことでしょう。
 こちらのサイトの仁左衛門のインタビューによれば、今回の「すし屋」は仁左衛門独自の台本だそうで、全体の構成を考えてバランスよく演じる仁左衛門の力量と合わさって、ぽん太の狸脳でも理解できる演出となったのだと思います。
 仁左衛門の権太は根っからの悪人ではなく、子供に対する愛情もまごころがこもっています。母親を騙してお金をせしめるあたりは、本当に可愛らしいです。「もどり」になってから、妻子を犠牲にすることを悲しむ折々のそぶりも、目立ちすぎないけどもしっかりと演じられ、わかりやすかったです。最後の場面も涙が止まりませんでした。
 孝太郎のお里、いつもながらに体の動きによる表現力がすばらしく、「びびびびび〜」のあとの身を翻す時の動きのキレもよかったです。きびきびして積極的なお里でした。秀太郎が小せんと平維盛の二役。いろいろな役を難なくこなして、仁左衛門一座には欠かせない存在ですね。高齢ですが、ぽん太でも難なく二枚目の若者に脳内変換できます。特に弥助が「まず、まず」で維盛に変わるあたりは見事で、映画なら効果音やらカット割やら技法を駆使するところを、芸一つで表現しておりました。高麗蔵が意外と(ごめんなさい)可愛く見えました。竹三郎のお米、彌十郎の弥左衛門も達者。薪車の梶原景時はこの座組では若すぎましたが、若々しく迫力がありました。
 う〜ん、仁左衛門をこれだけ堪能してS席5500円とは、ありがたい限りです。とっても幸せな気分になりました。


巡業・平成23年度
(社)全国公立文化施設協会主催
西コース・松竹大歌舞伎
平成23年9月25日昼の部・アミューたちかわ

一、雨の五郎(あめのごろう)
          曽我五郎時致  片岡 愛之助

二、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)

  下市村茶店の場
  同  釣瓶鮓屋の場

   茶店
          いがみの権太  片岡 仁左衛門
           主馬小金吾  片岡 愛之助
           若葉の内侍  市川 高麗蔵
            弥左衛門  坂東 彌十郎
             小せん  片岡 秀太郎

   すし屋
          いがみの権太  片岡 仁左衛門
              お里  片岡 孝太郎
              お米  坂東 竹三郎
            梶原景時  坂東 薪 車
           若葉の内侍  市川 高麗蔵
            弥左衛門  坂東 彌十郎
     弥助実は平維盛/小せん  片岡 秀太郎

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