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2011/11/28

【オペラ】無常感あふれる『ルサルカ』新国立劇場オペラ

 ドヴォルザークがオペラを作っていたなんて、ぽん太はちっとも知りませんでした。脚本にアンバランスな部分がありましたが、第3幕では涙が止まりませんでした。こちらが今回の公演の特設サイト、そしてこちらが公式サイトです。
 アントニン・ドヴォルザークは言わずと知れたチェコの作曲家。1841年に生まれ、1904年に62歳で生涯を閉じました。オペラは実は11も作っていて、『ルサルカ』は最後から2番目。1901年にプラハ国民劇場で初演されたそうです。ストーリーは「人魚姫」そのものですが、別にパクったわけではなく、類似したストーリーが各地にあり、スラブ系では「ルサルカ」と呼ばれているのです。Wikipediaをみると、以前の記事で書いた、『ジゼル』のウィリ(ヴィリ、ヴィーレン)とも重なっているようですね。でも考えてみると、日本にはこのような伝説はありませんね。「夕鶴」もちょと似てますが、つうは与ひょうに助けてもらった恩を返しにきたのであって、与ひょうに惚れたわけではありません。また与ひょうもつうの愛を裏切ったのではなく、知りたいという欲望に負け、約束を破っただけです。沖縄では海で泳ぐと足を引っ張られるなどと言いますが、引っ張る存在はキャラクター化されていませんし、物語化もされてません。
 さて冒頭で書いたように、『ルサルカ』は脚本的にはあちこちに破綻があるように思われます。ルサルカが王子を愛するようになった顛末が描かれていないので、ルサルカが声を失ってまで人間になろうとした動機がわかりません。また第二幕では、冒頭の森番と料理人のやり取りのなかで、王子が既に外国の公女に色目を使っていることが明かされてしまいます。第三幕、魔法使いがルサルカに、王子を殺すことによって水の精に戻れると教えます。ルサルカはそれを拒否しますが、その心理が十分に描かれていないように思えます。
 こうしたほころびが、ドヴォルザークの能力不足によるものなのか、チェコが田舎だったからなのか、それともドヴォルザークの才能ゆえの前衛的な表現なのか、ぽん太には判断する力がありません。プログラムの井辻朱美の「歌わない水の女」によれば、当時、水の精を題材にしたオペラはブームだったそうなので、細かい話しは聴衆にとって周知の事実で、繰り返す必要がなかったのかもしれません。
 しかし、それでも第三幕はぽん太の心の琴線に触れ、涙が止まらなくなりました。人間に裏切られ、水底の仲間たちの元に戻ることもできず、宙ぶらりんの状態で、死ぬこともできずに生き続けなければならないルサルカが哀れです。愛する王子に口づけをすると、王子の命を奪ってしまうという点でも宙ぶらりんであり、「愛する王子と一緒になりたい」という純真素朴な気持ちからの行動の結果、おぞましい精霊になってしまったことも哀しいです。アホで移り気な若者だった王子は、自らの非を悟り、浮き世への倦怠を訴えて、ルサルカの口づけによる死を望みます。
 これは、例えば『トリスタンとイゾルデ』のような、愛の絶頂が死につながるという「愛の死」ではなく、苦しくつらい現実世界から解放されることを願うもので、日本の「無常感」や「浄土思想」に近いように思われます。ただ極楽浄土は美しく穏やかな世界であり、水底の冷たく哀しい世界とは異なります。死者の霊が還っていくという、厚い雪に覆われた月山や鳥海山のイメージが、少し近いかもしれません。スラブ人のボヘミアの森や湖に対する感覚は、日本人の自然観と似ているような気もします。
 ルサルカを歌ったオルガ・グリャコヴァは、今年の6月に新国立で蝶々夫人を聴きました。蝶々夫人では柔らかさを欠くように感じた透明な声が、水の精という役柄にはとても会ってました。美人だし。王子のペーター・ベルガーは伸びのあるすばらしい声で、おバカな王子役ではもったいないです。外国の公女のブリギッテ・ピンターは、ルサルカと正反対で、「肉」で王子にせまるという感じのはまり役。ヴォドニクのミッシャ・シェロミアンスキーも、水の精という霊的な存在でありながら一人の父であるという役柄を見事に演じていました。また料理人の少年の加納悦子が、とってもコミカルで不思議な魅力のある演技で、個人的にはまりました。
 ドヴォルザークの音楽も、清澄かつ流麗でした。演出のポール・カランのボヘミアの森や湖の底を表現した透明感あるセットもよかったです。冒頭でベッドをグルグルまわしてましたが、第二幕の長いダイニングテーブルも回り出した時には笑いそうになりました。
 

『ルサルカ』
アントニーン・ドヴォルザーク
Antonín Dvořák : Rusalka
新国立劇場・オペラ劇場
2011年11月23日

【指揮】ヤロスラフ・キズリンク
【演出】ポール・カラン
【美術・衣裳】ケヴィン・ナイト
【照明】デイヴィッド・ジャック

【ルサルカ】オルガ・グリャコヴァ
【イェジババ(魔法使い)】ビルギット・レンメルト
【王子】ペーター・ベルガー
【ヴォドニク(水の精)】ミッシャ・シェロミアンスキー
【外国の公女】ブリギッテ・ピンター
【森番】井ノ上 了吏
【料理人の少年】加納悦子
【第一の森の精】安藤赴美子
【第二の森の精】池田香織
【第三の森の精】清水華澄
【狩人】照屋 睦

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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