« 【信仰】必見!立山博物館・芦峅寺(あしくらじ)・岩峅寺(いわくらじ) | トップページ | 【読売新道あ〜しんど(1)】日程と、高瀬ダム〜烏帽子小屋〜水晶小屋 »

2012/09/30

【拾い読み】江戸を見る新たな視点/中野三敏『江戸文化再考』

 ぽん太が江戸時代に興味を持つようになったのは、歌舞伎を通してなのですが、これまでどうしても納得できないことがありました。当時歌舞伎を観て楽しんでいたのは、町人や職人といった庶民たちだったわけですが、歌舞伎では武士たちの英雄的な行為が賞賛の対象として描かれています。でも、江戸時代は身分制度が厳しく、庶民は武士に虐げられていたはず。庶民は武士の生き方に憧れていたように思われます。長い間わからなかった疑問が、この本を読んで解決しました。
 本書の著者も、昔は「封建制はけしからん」と思い込んでいたそうです。ところが外国旅行をして、ロシアやオーストリアやフランスの封建領主が金銀財宝を溜め込んでいるのをみて、「まてよ、日本の将軍や大名にはそんな人はいないぞ」と気がついたそうです。著者によれば、封建主義という西洋史の概念を、日本の江戸時代に当てはめるのが間違っているのだといいます。江戸時代は、治める側に「自己犠牲の精神」を強い、治められる側の人間も、武士に対して絶対の信頼を持っていたそうです。著者の主張が正しいかどうかはぽん太はわかりませんが、ぽん太がこれまで歌舞伎に対して感じていた疑問が、ようやく解決したのは確かです。
 これは一つの例ですが、著者はこれまでの江戸時代理解が、近代的な価値観からの評価に偏りすぎていたと批判し、江戸に即した見地から江戸を評価する必要性を強調します。著者は、近代の視点から江戸時代を切って捨てるのでもなく、また古き良きに日本として江戸時代を賛美するのでもなく、中庸の立場から素直に江戸時代を見ているように思えます。
 例によって、興味ある方は本書を読んでいただくとして、あとはぽん太の興味深かったところの抜き書きです。
 江戸時代には、元禄時代と文化文政期という二つのピークがあったというのが一般的な見方ですが、著者はその間の18世紀にこそ江戸時代の文化のピークがあったといいます。著者は雅(が)と俗という対立概念を重視し、江戸時代前期には雅が優位だったが、後記には俗が優位となった。雅と俗がバランスをとっていた江戸中期こそが、江戸文化の最盛期だったのだと言います。
 江戸時代の庶民は、「虐げられた非支配階級」ではなく、かなりの自由を楽しんでおり、男女も平等に近かったそうです。それに反して武士階級では、自己犠牲の倫理が強いられ、女性の地位が低かったそうです。
 新渡戸稲造の描いた武士道が、ホントの実体なのか、それとも明治時代の懐古趣味の理想化なのか、という話しがありますが、著者は新渡戸は江戸時代の侍の倫理観を正確に述べていると考えているようです。ただ、あくまでもこれは倫理ですから、実際の武士がそれを実現できたいたかどうかという問題はありますが、それでもこれが当時の理想であったことは間違いないと言います。
 平田篤胤の『霊の真柱』(文化10年、1813年刊)という本があり、西洋から伝わった地動説は既に『古事記』に書かれていることであり、日本こそが世界で最も優れた国であるということを主張して、幕末から明治のイデオロギーとしてもてはやされたそうです。しかし、身分の低い御家人の片山松斎(しょうさい)という人が19世紀初頭に書いた『国学正義編』という本があり、地球などというのは土と水でできた丸い玉にすぎず、その上に様々な国があってそれぞれに支配者がいるのであり、日本の天皇が優れているなどとは言えない、西洋から地動説が入ってきて、それから皆がいろいろ考えるようになったのに、地動説が『古事記』に書かれているなどと主張するのは馬鹿げている、などの、今から見ても極めてまっとうな意見が述べられているのだそうです。たしかに現代でも、ベストセラーとなっている本は、一般的な見方からするとエキセントリックな主張をしているものが多いですが、江戸時代もそうだったのかもしれません。
 江戸時代には「狂者」や「畸人」という考え方があったそうです。孔子や孟子は、人間を「中行」(ちゅうこう)、「狂」(今日)、「狷」(けん)に分けたそうで、「中行」はいわゆる中庸の人で、人間としては最上級だけど、なかなかそういう人はいない。次は「狂」で、志は高いけどバランスがとれず、度外れなところがあるんだそうです。平賀源内や上田秋成、石田梅巌や安藤昌益、若冲や蕭白がこれにあたるといいます。「畸」といのは老荘思想の概念だそうで、天に最も近いんだけど、人間世界では変な人と思われてしまうんだそうです。いい概念ですね。
 江戸時代には非常に多くの本が作られました、そのうち現在に活字化されているのはごくわずかだそうです。著者は、変体仮名を読めるようになって、ぜひ和本を古本屋で買って読んで欲しいと言います。ぽん太も時間の余裕ができたら、ぜひそうしてみたいと思います。
(中野三敏『江戸文化再考 これからの近代を創るために』笠間書院、2012年、1700円。)

|

« 【信仰】必見!立山博物館・芦峅寺(あしくらじ)・岩峅寺(いわくらじ) | トップページ | 【読売新道あ〜しんど(1)】日程と、高瀬ダム〜烏帽子小屋〜水晶小屋 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74997/55758415

この記事へのトラックバック一覧です: 【拾い読み】江戸を見る新たな視点/中野三敏『江戸文化再考』:

« 【信仰】必見!立山博物館・芦峅寺(あしくらじ)・岩峅寺(いわくらじ) | トップページ | 【読売新道あ〜しんど(1)】日程と、高瀬ダム〜烏帽子小屋〜水晶小屋 »