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2012/10/16

【オペラ】シェイクスピアの国ならではの演劇性「ピーター・グライムス」新国立劇場

 新国立劇場オペラ「ピーター・グライムズ」を観てきました。劇的で、重いテーマを扱いながら、芸術的な美しさがあり、とても感動いたしました。!こちらが公式サイト特設サイトです。
 このオペラを観るのはぽん太は初めてでしたが、ここのところ忙しかったこともあって下調べも全くしておらず、当日の朝になってようやくブリテンの作曲であることや、あらすじを知りました。
 ブリテンといえば、無学なぽん太は長らく、中学校で習った「青少年のための管弦楽入門」しか知りませんでしたが、昨年11月に新国立バレエの「パゴダの王子」を観て、ガムランを取り入れた新鮮な音色に心を奪われました。
 なんでも児童虐待の漁師ピーター・グライムズが、村人から排斥される話しとのこと。しかし実際に観てみるとピーターは、たしかに徒弟の子供を多少乱暴に扱ってはいますが、「虐待」というほどではなく、ましてやわざと殺したわけでもありませんでした(無学なぽん太には、それが原作どおりなのか、今回の演出だけなのか、判断がつきません…)。キレやすくて暴力的なところもありますが、エレンとの安からな家庭を夢見るなど、単純素朴で不器用な人間に見えました。しかしそれでも、二人の幼い徒弟を続けて死なせてしまうという事実を引き起こしてしまうと、もはや言い逃れはできません。二人目の徒弟が「偶然」崖から落ちることがなければ、彼の人生は変わっていたかもしれません。実際にサイコロの目が出てしまうと、その目をもとに現実は動き出し、彼は自分の「不運」を引き受けなければなりません。このあたりに、シェークスピアのような「悲劇性」を感じます。
 村人たちも、決して良識を代表するものではなく、むしろ偏狭な共同体意識に基づいて異質なものを排除しようとする、「世間」として描かれています。ピーター・グライムズも、村人たちも、ともに正当性と有罪性を備えており、単純な善悪の対立になっていないところが、このオペラの魅力であるとぽん太は思います。
 ブリテンは同性愛者であり、彼の生きた時代には強い偏見がありました。そのことが、このオペラに強い影響を与えているそうです。そういえば、「パゴダの王子」でも主人公は、サラマンダーという醜い姿に変えられ、人々から忌み嫌われていました。また、この作品が初演されたのは1945年とのことですから、第二次世界大戦の影響もあるのかもしれません。
 正も邪もすべてを包み込んでいく海。このような自然観は日本独特のもので、西洋とは相容れないと思っていたぽん太には、とっても驚きでした。また、村人たちの島国根性など、なんだか日本とイギリスが似ているような気がしてきました。
 最後にピーターは錯乱するようなのですが、精神科医のぽん太には錯乱している様子がよくわかりませんでした。また、「諦めずに彼を助けよう」と言っていた船長が、ピーターが錯乱したからといって、一転して「沖に出て船を沈めろ」と言うのも納得がいきませんでした。
 ブリテンの音楽は、ドイツ現代音楽のような晦渋さがなく、かといって通俗的になりすぎず、とてもすばらしかったです。ガムランを取り入れた音楽は、時にヤナーチェクのような透明な音色となり、また反復がミニマル・ミュージックのように聞こえたりしました。打ち寄せる波のような表現も印象的でした。
 タイトル・ロールのスチュアート・スケルトン、純情で素朴で不器用な人物を見事に歌い上げました。崖から落ちて死んだ2番目の徒弟をベッドに横たえ、思わず天を仰いで泣き出す演技が目に焼き付いています。エレン・オーフォードが歌った未亡人の女教師スーザン・グリットンは、ピーターを救おうとする別の意味で「世間から外れた人」を巧みに表現しておりました。ジョナサン・サマーズのバルストロード船長も貫禄あり。日本人歌手は、4階から観ていたので、誰がだれやらよくわかりませんでした。
 リチャード・アームストロング指揮の東京フィルも、迫力ある演奏でした。字幕が言葉が固く、誤訳ではないかと思う意味不明の部分も多く、わかりにくかったです。演出も悪くありませんでしたが、最後にエレンが村人たちと同じ行動をとろうとするオチは、取って付けた感がありました。シンプルな美術も、イギリスの海岸沿いの村を象徴的によく描いていました。今回のプロダクションは王立モネ劇場のレンタルとのことですが、この劇場は、かつてモーリス・ベジャールの「20世紀バレエ団」が所属し、「春の祭典」を初演したところですね。


「ピーター・グライムズ」
ベンジャミン・ブリテン
新国立劇場オペラ劇場
2012年10月14日

【指揮】リチャード・アームストロング
【演出】ウィリー・デッカー
【美術・衣裳】ジョン・マクファーレン

【ピータ・グライムズ】スチュアート・スケルトン
【エレン・オーフォード】スーザン・グリットン
【バルストロード船長】ジョナサン・サマーズ
【アーンティ】キャサリン・ウィン=ロジャース
【姪1】鵜木絵里
【姪2】平井香織
【ボブ・ボウルズ】糸賀修平
【スワロー】久保和範
【セドリー夫人】加納悦子
【ホレース・アダムス】望月哲也
【ネッド・キーン】吉川健一
【ホブソン】大澤 建

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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