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2012/11/04

【バレエ】大人のオシャレなドラマ/新国立劇場「シルヴィア」

 昨日観たKバレエの「ドンキ」も良かったですが、今日のビントレー版「シルヴィア」もすばらしかったです。二日続けて面白いバレエを観れるとは、あゝ、ありがたや、ありがたや。こちらが公式サイト特設サイトです。
 ぽん太はこれまで「シルヴィア」は、アシュトンの振り付けしか観たことがありません。今回の版はビントレーが1993年に英国バーミンガム・ロイヤル・バレエのために振り付けしたものだそうです。アシュトン版のあらすじは、例えばこちらをどうぞ。また、「シルヴィア」の原作であるトルクァート・タッソの『アミンタ』のあらすじは、以前の記事に書いたことがあります。
 プロローグとエピローグがついて劇が額縁状になっているところは、『アミンタ』からアイディアを借りたのかもしれません。『アミンタ』では、まず愛神アモーレ(=エロス)が舞台に現れ、これまで母親の美神ヴェーネレ(=ヴィーナス)の命令によって高貴な人たちにばかり愛を芽生えさせてきたけど、これからは一般の民衆に愛をもたらしたい、と言って、シルヴィアの心を射抜きに向かうことで劇が始まります。最後にはヴェーネレがアモーレを探しに来ますが、ここには居そうもないので他のところを探そう、と立ち去ります。なんてことのない演出に思えますが、この劇が作られた16世紀イタリアでは、宮廷文化が次第に力を失い、代わりにメディチ家などが力を持つようになって来た時代であり、「愛はもはや宮廷にはなく、民衆のなかにある」というのは、当時としては生々しい現実の問題であり、極めてショッキングな演出だったのです。ビントレーが、愛の覚めた伯爵夫妻と、愛を信じられない若い男女という現代的なシチュエーションを持ってきたのは、単なる思いつきではなく、『アミンタ』を踏襲しているようにぽん太には思われます。
 本編の方もアシュトン版とはだいぶ変わっていて、アシュトン版のシルヴィアの「男に興味を持たず、狩りをする勇ましい女」という性格は、新たな登場人物ダイアナに移し替えられ、シルヴィアは心優しく美しいニンフという役割になります。ダイアナは狩りの神ですから、これはぴったりとあてはまっているように思えます。そしてアミンタは、ダイアナやニンフたちの水浴を見た罰として視力を失いますが、エロスに導かれてシルヴィアを追って行きます。シルヴィアが、自分をさらったオラリオンを酔わせて逃げ出すという下りは同じですが、最終幕では、海賊が連れて来た女奴隷の一人がシルヴィアであり、エロスの力で視力を回復したアミンタとついに対面しますが、貞操の誓いを破ったことを怒るディアナに殺されそうになります。
 ここでエロスの力によって皆は現代へと戻り、伯爵夫妻、若い二人が、愛を取り戻してめでたしめでたし……ですが、あらすじだけ読んでもわかりませんよね。
 ということで、あくまでも神話の世界の話しだったアシュトン版に比べ、ビントレー版は現代的な男女関係が描かれています。セットや美術も洗練されており、とってもオシャレな大人のバレエに仕上がっておりました。
 
 アミンタ役のツァオ・チーは中国出身で、現在はバーミンガム・ロイヤル・バレエ団に所属しているとのこと。動きが柔らかく、回転がとても安定しており、表現力がとても豊かでした。ジャンプ力や体の柔軟性は普通のようでした。シルヴィアを踊った佐久間奈緒も、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団所属。彼女も動きがとても柔らかく、細かいところまで神経が行き届いていて一つひとつの動作が美しく、演技力もすばらしかったです。あまり見慣れないリフトがたくさん組み込まれていましたが、見事にこなしておりました。それもそのはず。今回の振り付けは、この二人のためにビントレーが2009年に再振り付けをしたものなんだそうです。
 本島美和は、長い手足をつかっ大きくキリッとした勢いのよい踊りで、勇ましくも、神々しさがありました。厚地康雄も、ダイナミックで荒々しいオライオンと、人生に倦怠感を感じている伯爵を見事に踊り分けておりました。エロスは狂言回しでもあり、「コッペリア」のコッペリウスや「こうもり」のウルリックなどローラン・プティに出て来るような哀愁ある老人のようでもあります。演技力が必要とされる役柄を、福田圭吾がこなしておりました。とくに片足が義足の海賊の踊りでは、不自由な衣裳で見事なピルエットを決め、大きな拍手をもらっておりました。
 ゴグ・マゴグ(と現代の二人のおかま)を踊った野崎哲也と江本拓も怪演。どちらがどちらだったんでしょう。妻のにゃん子は、向かって左のおかまを気に入ったようです。群舞も悪くなく、ワルキューレみたいな曲にのせたニンフの群舞も勇ましかったです。
 美術も豪華。バーミンガムの首席指揮者のマーフィーの指揮による東京フィルの音楽もよかったです。
 しかし、新国立のダンサーって、本当に演技力がつきましたよね。一つひとつの動作が言葉のように感じられるようになってきました。きっとビントレーのおかげでしょう。しかしそのビントレーも一期で芸術監督を退任し、平成26年(2014年)秋からは大原永子が引き継ぐ予定とのこと。もう少しやって欲しかった気がします。


「シルヴィア」Sylvia

【音 楽】レオ・ドリーブ
【振 付】デヴィッド・ビントレー
【美 術】スー・ブレイン
【照 明】マーク・ジョナサン
【指 揮】ポール・マーフィー
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

家庭教師/シルヴィア:佐久間奈緒
召使い/アミンタ:ツァオ・チー
庭師/エロス:福田圭吾
伯爵夫人/ダイアナ:本島美和
伯爵/オライオン:厚地康雄
ゴグ:野崎哲也
マゴグ:江本拓
ネプチューン:加藤朋子
マーズ:竹田仁美
アポロ:井倉真未
ジュピター:大和雅美

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