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2013/03/04

【フロイト「不気味なもの」を読む(3)】イェンチュ批判/unheimlichの語義(p4〜16)

 イェンチュの論文を踏まえたうえで、フロイトのテキストに戻りましょう。
 フロイトは、不気味なものの感受性が人によって異なるというイェンチュの指摘を認めています(4ページ:岩波書店版の「フロイト全集17」、以下同様)。
 しかしすぐさま、不気味なものは「旧知のもの、とうの昔から馴染みのものに起因するのだ」(5ページ)と書いて、新規なもの・なじみのないものが不気味さを生み出すというイェンチュの考えを乗り越えてみせます。
 ここでフロイトは、不気味なものの二つの研究方法を提示します。すなわち、
  1:unheimlichという単語そのものを調べる。
  2:不気味なものの感情を呼び起こす事例を集め、共通する性質を推し量る。
 フロイトの研究の過程は、「2→1」という道筋を辿りましたが、本論文の叙述は「1→2」という順序で行うことを宣言します。

 ということで、まず1のunheimlichという単語の分析です。
 イェンチュもそれが、heimlich(わが家の)の反対語(un)であることを指摘し、不気味なものとは新しいもの、なじみのないものと結論し、その本質は知的不確かさであると主張しておりました。Heimが家や家庭を現すというのは、セキスイハイムのハイムさんで有名ですね。しかしフロイトは、イェンチュの説明では十分でないと考えます。
 まずフロイトはドイツ語以外で不気味なものを意味する単語を一瞥しますが、思うような成果は得られなかったようです。ちなみに日本語の「不気味」も「感じが悪い」という意味ですから、unheimlichのニュアンスはありませんね。
 フロイトはドイツ語に話しを戻し、まずダニエル・ザンダースのドイツ語辞典の「heimlich」の記述を長々と引用します。おっと〜ここで誤訳発見!翻訳では「「不気味な」という単語」(7ページ5行目)と訳していますが、ここは「「heimlich」という単語」にしないと意味がつうじません。ドイツ語の原文でもそうなっております(ドイツ語原文へのリンクは、この記事のシリーズの(1)にあります)。っていうか、この翻訳では、ゴシック体の部分のどれがheimlichでどれがunheimlichだかがわからないですネ。あゝ、12ページの終わりから2行目以降の「不気味」と訳しているのがunheimlichなのか……。
 ということでフロイトは、unheimlihではなくheimlichの項を引用します。
 引用の中身は省略しますが、結論を述べると、「heimlichという単語自体が、1:馴染みのもの、居心地がいいもの、2:隠されたもの、秘密にされているもの、という二重の意味を持つ。そしてunheimlichは1の反意語として使われるが、2の反意語として使われることはない」ということになりましょう。
 引用の中でフロイトは、シェリングの『神話の哲学』の「秘密に、隠されたままに……とどまっているべきなのに現れ出てしまったものをすべて、われわれは不気味(unheimlich)と呼ぶ」に注意を促しております。これは……原典に当たらなくてもいいですよね。
 さて、heimlichが二重の意味をもつことはわかりましたが、その前後関係、どちらからどちらの意味が出て来たのかはわかりません。ここで登場するのが、語義の変遷に詳しいグリム兄弟の『ドイツ語辞典』です。グリム兄弟は『グリム童話』で有名ですが、辞書も編纂してたんですね。コトバンクを見ると、全16巻32冊の膨大な辞典で、立案から120年後の1960年に一応の完成を見たんだそうです。
 で、この辞典によって明らかになるのは、heimlichが「家庭の」という意味から「他人の目を逃れた、隠された、秘密の」という意味を持つようになり、ここからunheimlich(不気味な)の意味をも取り込むようになった、ということです。フロイトは自分の「両価性」という用語をあてて、この事実を強調しています。

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