【歌舞伎】41年振り再演の「心謎解色糸」は意外に薄味/2014年2月歌舞伎座昼の部
2月の歌舞伎座、菊之助と松緑の「白浪五人男」はちと飽きた感じがあるので、昼の部だけの観劇としました。公式サイトはこちらです。
『心謎解色糸』は、なんと41年ぶりの再演で、しかも歌舞伎座ではお初なんだそうです。四世鶴屋南北の作だけあって、さすがに脚本は良く出来てます。三組の男女の恋愛模様が複雑に絡み合って展開する物語、お家の重宝に愛想尽かし、ゆすりたかりに切腹、「実ハ」の展開に早変わりと、歌舞伎の定番も満載です。南北お得意の棺桶付き。役者たちも張り切って演じていて、一つひとつの場面は悪くなかったんですけど、なんだか全体が平板というか、意外に薄味というか、盛り上がりに欠けるような気がしました。南北らしい心の闇をえぐり出すようなおどろおどろしさもなく、ぐっと引きつけるような場面もありませんでした。
ちょっと体調が悪かったせいもあるのですが、何度も睡魔に襲われました。おそらくは演出の問題なんだと思いますが、狸のぽん太には具体的にはよくわかりません。
役者はそれぞれ健闘。松也の山住五平太の「悪役」ぶりが、ちと目を引きました。「いかにも憎々しげ」という感じではなくって一見いい男ですが、癇が強そうです。お墓の下りは笑いましたが、ここは亀蔵の死体役で見たかったです。
ところでこの芝居の舞台は深川です。ということは、小糸は辰巳芸者ですから、もっとシャキシャキしててもいいのでは。
序幕の舞台の深川八幡は、現在の富岡八幡宮ですね。八幡宮の境内には二軒の茶屋があり、「二軒茶屋」と呼ばれておりました。今回の舞台となった「松本」は、現在の数矢小学校のあたりだそうです。もう一軒は「伊勢屋」で、「盟三五大切」の愛想尽かしの舞台ですね。ここをぽん太が訪れた時の記事はこちらです。
「本町」というのは深川にあるのでしょうか、古地図をしばし睨んでみましたが、発見できませんでした。三幕目の「大通寺」も不明。
「深川相川町」は、永大橋のやや南側にあります。それから、熊井町を挟んで南東の堀沿いにも、「相川丁」という町名があります。よろしければこちらの「goo古地図」でご覧下さい。
「州崎弁天」は現在の州崎神社ですね。東京の寺社に詳しい「猫の足あと」さんのページはこちら。それによると、現在は町中にありますが、元禄13年(1700年)の創建当時は、海に浮かぶ島だったそうです。幕末に作られた切絵図を元にした「goo古地図」では、州崎弁天は海岸沿いにありますが、すでに島ではなくなっており、近くに「江島ハシ」という橋が架けられています。
小石川の伝通院の公式サイトはこちら。もともとは応永22年(1415年)に開山された浄土宗のお寺でしたが、江戸時代には徳川家の菩提寺となり、3代将軍家光の次男亀松君や、2大将軍秀忠の娘で豊臣秀頼に嫁いだ千姫(大阪夏の陣を舞台にした坪内逍遥作の歌舞伎「沓手鳥孤城落月」〈ほととぎすこじょうのらくげつ〉で、砲弾が撃ち込まれるなか救い出されるお姫様ですね)の墓があるそうです。また、僧の学問所としても栄えたようです。
文化デジタルライブラリーの中に、「心謎解色糸」の解説がありました(→こちら)。
それによるとこの作品は、「本町糸屋娘」(ほんちょういとやのむすめ)という作品の書換え狂言だそうです。さらにその元になったのが『松の落葉』という本にある「糸屋むすめ」という小唄で、本町二丁目の糸屋の21歳と20歳のふたりの娘を歌ったものだそうです。
これって、ひょっとして、起承転結の例としてよくあげられる「糸屋の娘は目で殺す」ってヤツ?ぐぐってみると、細かいところは様々な相違があるようですが、確かに「大坂本町の糸屋の娘」というヴァージョンもあるようです。なるほど、「本町」っていうのは「大阪本町」だったのか。道理で深川に「本町」が見つからないわけです。ということは、「大通寺」も大阪の大通寺ですね(→公式サイト)。これですべて明らかになりました。
さらに文化デジタルライブラリーによれば、「心謎解色糸」の初演の前年に起きた、山の手に住む旗本の次男坊が墓を掘り起こして、女性の死体を犯したという猟奇的な事件が、「お房・綱五郎」の元になっているそうです。
「鶴屋南北全集」第3巻に原作が入っているようなので、そのうちみちくさしてみます。
歌舞伎座
歌舞伎座新開場柿葺落
二月花形歌舞伎
平成26年2月5日
昼の部
通し狂言 心謎解色糸(こころのなぞとけたいろいと)
小糸左七
お房綱五郎
序 幕 深川八幡の場
二軒茶屋松本の場
雪の笹藪の場
二幕目 本町糸屋横手の場
同 奥座敷の場
元の糸屋横手の場
三幕目 大通寺墓所の場
四幕目 深川相川町安野屋の場
同 洲崎弁天橋袂の場
大 詰 小石川本庄綱五郎浪宅の場
同 伝通院門前の場
お祭左七/半時九郎兵衛 染五郎
本庄綱五郎 松 緑
芸者小糸 菊之助
糸屋の娘お房/九郎兵衛女房お時 七之助
神原屋左五郎 松 江
山住五平太 松 也
赤城左京之助 歌 昇
廻し男儀助 萬太郎
芸者小せん 米 吉
芸者お琴 廣 松
丁稚與茂吉 玉太郎
番頭佐五兵衛 松之助
中老竹浦 宗之助
石塚彌三兵衛 錦 吾
鳶頭風神喜左衛門 男女蔵
松本女房お蔦 高麗蔵
安野屋十兵衛 歌 六
女房おらい 秀太郎
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コメント
薄味な人の舞台は、薄味になる。
投稿: 通りすがり | 2017/09/05 04:28