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2014/03/10

【演劇】(ネタバレ注意!)同時代的な重いテーマに三谷幸喜一流の笑い「国民の映画」

 チケットの席番号がX列だったので、てっきりアルファベット順で一番後ろの席かと思ってたら、何と最前列。最初にスクリーンにタイトルが映写された時は見にくくて、これが続いたらどうなることかと思いましたが、その後は役者たちの細かい表情までしっかり見え、とても貴重な体験ができました。「国民の映画」の特設サイトはこちら
 一例をあげると、ユダヤ人だとバレてしまったフリッツが、ガス室によるユダヤ人根絶計画についてヒムラーたちが相談しているのを聞いている場面。フリッツ役の小林隆は、舞台中央に立ち、これまでと変わらないベテラン執事らしい無表情のまま、観客席側をじっと見つめています。しかし彼の喉は、生唾を何度も飲み込むかのようにひくつき、けいれんし、次第に顔面には脂汗が浮き出てきました。しばらくして次に彼が台詞を言ったとき、汗がぼたぼたと地面に滴り落ちました。
 「喉で演じる」というのは、以前に歌舞伎の壱太郎でも見たことがありますが、演技の定番なんでしょうか?ぽん太にはよくわかりません。
 「国民の映画」は、2011年に初演されて高い評価を得、数々の賞を受賞し、今回はその再演だそうです。ぽん太は前回は見逃したので、今回が初見でしたが、とても面白かったです。重いテーマを扱いつつ、三谷一流の笑いが随所にちりばめられておりました。ナチス宣伝省のゲッペルス大臣のホームパーティーに集まった映画関係者や政府高官による群像劇ですが、登場人物一人ひとりのキャラが明確で、それぞれのドラマが絡み合って、劇全体としての流れや展開が生じるという構成も見事でした。ピアノの生演奏や、ボードビル風の歌や踊りも楽しかったです。
 ナチスによるユダヤ人迫害というテーマは、外国人に対するヘイトスピーチや、国内でも権力を振りかざして敵味方に分けるような風潮など、「不寛容」が広がる現代日本にぴったりでした。ぽん太は思わず涙がこぼれそうになりましたが、最前列で泣いてるのも恥ずかしいので、我慢しました。
 劇中で「ヒトラー」と言わずに「あのお方」と言ってたり、「ユダヤ人」という言葉も一回しか出なかったのは、演劇の世界の「放送コード」みたいなのがあるんでしょうか。それとも、ここに描かれているのが過去のナチスの問題ではなく、現代のわれわれの問題であることを伝えたかったのか?
 ラストは、フィルムが終わったところで止めてもよかった気がしますが。それもありきたりかしら。長ゼリフが終わったタイミングでちょうどフィルムがなくなるように、うまくできてますね。ベテラン俳優さんには、そのくらいの時間の調整は簡単なのでしょうか。
 役者陣も、上に挙げた小林隆をはじめ、みな素晴らしかったです。ゲッペルスの小日向文世、ナチスの高官でありながら、どことなく自信なさげで、存在感がなかったりします。クラスでちょっと浮いている生徒、みたいな感じで、愛する映画に愛されないという悲哀が漂いました。エミール・ヤニングスの風間杜夫、ゲッペルスにへつらう赤ら顔の情けないおじさんぶりが面白く、演技力を感じました。カッコいい二枚目役しか見たことがないぽん太には衝撃的でした。フォルカー・シュレンドルフの映画「スワンの恋」で赤ら顔のシャルリュス男爵を演じた二枚目俳優アラン・ドロンを思い出しました。
 グスタフ・フレーリヒの平岳大、いかにも軽いノリの昔のスター俳優らしい風貌でした。グスタフ・フレーリッヒって、「メトロポリス」の支配者の息子で、貧しい女性を救った人ですよね。ああ、あの役者がこんなヤツだったとはショック!happy01
 権力におもねない老俳優の小林勝也、大女優のシルビア・グラブもよかったです。ゲッペルスの妻・吉田羊、毎日の生活にうんざりしている妻が、昔の恋人との再会で一気に燃え上がって……という展開をプンプンにおわせておいて、あんな滑稽な結末になるなんて!ケストナーの今井朋彦も屈折感と心のなさが反体制派の作家っぽかったです。段田安則は、「虫にだって命があるんだ」などと意外といい人っぽく見せておいて、後半でユダヤ人絶滅計画を淡々と語るという対比が見事。渡辺徹は巨体の迫力が凄かったですが、ゲーリングの人物像がはっきりしなかったのと(ご本人の人柄がにじみ出て、とってもいい人に見えました)、ちょっと間の取り方が悪かった気がします。エルザ・フェーゼンマイヤーの秋元才加は体当たりの演技。
 「本格演劇風」な重厚な舞台装置もよかったです。ピアノ演奏は荻野清子さん、演技までやってお疲れさまでした。


パルコ劇場40周年記念公演
「国民の映画」
作・演出三谷幸喜
2014年3月6日  パルコ劇場

<登場人物>
■ナチス高官
宣伝大臣 ヨゼフ・ゲッベルズ‥‥小日向文世
親衛隊隊長 ハインリヒ・ヒムラー‥‥段田安則
空軍元帥 ヘルマン・ゲーリング‥‥渡辺徹
ゲッベルスの妻 マグダ・ゲッベルズ‥‥吉田羊 
ゲッベルスの従僕 フリッツ ‥‥小林隆

■映画人たち
ナチスと手を結んだ男 エミール・ヤニングス 映画監督‥‥風間杜夫
ナチスと敵対した男 グスタフ・グリュントゲンス 演出家・俳優‥‥小林勝也
ナチスに恐れられた男 エーリヒ・ケストナー 国民的作家‥‥今井朋彦 
ナチスに嫌われた男  グスタフ・フレーリヒ 二枚目俳優‥‥平岳大   
ナチスに利用された女 ツァラ・レアンダー 大女優‥‥シルビア・グラブ
ナチスに愛された女 レニ・リーフェンシュタール 若き女性監督‥新妻聖子  
ナチスを利用した女  エルザ・フェーゼンマイヤー 新進女優‥‥秋元才加

<スタッフ>
音楽・演奏 荻野清子
美術 堀尾幸男
照明 服部基
音響 井上正弘
衣裳 黒須はな子
ヘアメイク 河村陽子
舞台監督 加藤高

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