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2014/03/20

【オペラ】震災後の喪失感を癒してくれる「死の都」新国立劇場オペラ

 夜の7時に開演して、上演時間が3時間20分の長丁場。カーテンコールも含めて終わったのが10時半でしたが、見た甲斐がありました。特設サイトはこちらです。
 ぽん太は「死の都」というオペラどころか、作曲者コルンゴルトの名前さえ初耳。とうことで、まずWikipediaでお勉強。
 エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold)はオーストリアとアメリカで活躍したユダヤ人作曲家で、1897年に現在のチェコのモラヴィアで生まれ、1957年にアメリカはハリウッドで死去。幼い頃から神童ぶりを発揮して「モーツァルトの再来」と呼ばれ、1920年、23歳でオペラ『死の都』(Die tote Stadt)を作曲して名声を得ました。その後、ハリウッドの映画音楽に関わるようになり、1938年にナチスの台頭に伴ってアメリカへ亡命してからは、映画音楽が活動の中心となりました。その分野では高い評価を受け、2度のアカデミー賞にも輝きましたが、クラシック音楽の作曲家としての評価には陰りが生じました。戦後オーストリアに戻ってクラシックの作曲家としての再起を図りましたがかつての名声は得られず、ハリウッドに戻って失意のうちに死去しました。しかし1970年代から再評価が行われるようになったそうです。
 実際に聞いてみると、後期ロマン派風の響きですが、不協和音も目立たず難解さもありません。かといって映画音楽的な俗っぽさもなし(映画音楽に関わるのはもっと後だから当たり前ですが)。透明感があって、春の夜明けのように甘美です。重低音のパンチも利いていて、ちょっと東欧風でヤナーチェクを思わせるところもあり(そういえば彼もモラヴィア生まれですね。ちなみに精神分析のフロイトもモラヴィア生まれです)、なかなか質が高いと思いました。
 「死の都」のストーリーは、死んだ妻の遺品を集めた部屋に閉じこもっている男が、妻とそっくりの若い女性に出くわして、倫理と欲望のはざまで引き裂かれて幻覚に陥る……というおどろおどろしいものですが、コルンゴルトの音楽は、倒錯的でグロテスクなものでも、退廃的な耽美主義でもありません。死の喪失感に捕われた主人公を癒し、死者からの惜別と新たな旅たちを励まし、祝福します。作曲されたのが第一次世界大戦の直後だったという時代背景と関係しているのだと思いますが、東北大震災の復興がままならない我々にとっても、こころから共感できるものでした。
 今回の公演は新国立オペラとしては新制作ですが、フィンランド国立歌劇場のレンタル・プロダクションだそうで、演出はカスパー・ホルテン。音楽をとても大切にする演出家のようで、曲調の変化にあわせて状況が変化したり、ちょっとした動作が音楽に呼応しておりました。マリーの黙役を使ったのも効果的で、幕が開いて少しやり取りがあったあとで、ベッドのシーツをめくったら亡き妻が横たわっていた時は、ちょっとびっくりしました。
 セットも美しく、遠近感が強調された左右の遺品が並んだ白い棚や、街並を斜め上から見たような背景など、舞台空間が射影幾何学的に歪んでいて、現代的に洗練されている一方、ドイツ表現主義映画のような不安感を引き出してました。舞台が暗くなってライトが灯ると、置かれていた遺品がブルージュの夜景になるのも面白かったです。
 パウル役のトルステン・ケールは、世界最高のヘルデン・テノールという前評判に漏れず、力強い歌声でした。出だしの高音がちょっと平板に感じたのと、最後の最後で声がよれたのが残念でした。ミーガン・ミラーの、若くて奔放なマリエッタと、死者マリーの声の歌い分けも見事でした。フランク/フリッツ役はアントン・ケレミチェフ。本来はトーマス・ヨハネス・マイヤーが歌う予定でしたが、代役となりました。公式サイトによると「本人の芸術上の理由により」となってますが、いったい何でしょうか?演出が気に入らないとか?ガストン役のダンサーは白鬚真二という人らしいです(公式サイト)。
 例によってヤロスラフ・キズリンクの指揮の良し悪しはわからず。東京交響楽団の演奏はダイナミックでキレがありました。
 余談ですが、コルンゴルトの後期ロマン派風の響き、シンフォニックな映画音楽といったところは、偶然でしょうが、話題の佐村河内とシンクロしてるみたいですね。
 

新国立劇場オペラ「死の都」

台本 :パウル・ショット(ユリウス・コルンゴルト)
    エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト
作曲 :エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト

3月12日(水)新国立劇場オペラパレス

芸術監督:尾高忠明
指揮:ヤロスラフ・キズリンク
演出:カスパー・ホルテン
美術:エス・デヴリン
衣装:カトリーナ・リンゼイ
照明:ヴォルフガング・ゲッベル
再演演出:アンナ・ケロ
舞台監督:斉藤美穂

【パウル】トルステン・ケール
【マリエッタ/マリー(声)】ミーガン・ミラー
【フランク/フリッツ】アントン・ケレミチェフ
【ブリギッタ】山下牧子
【ガストン/ヴィクトリン】小原啓楼
【ユリエッテ】平井香織
【アルバート伯爵】糸賀修平
【リュシエンヌ】小野美咲
【マリー(黙役)】エマ・ハワード
【ガストン(ダンサー)】白鬚真二
合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団

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