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2014/08/22

【歌舞伎】萬次郎大活躍、笑いが板に付いてきた勘九郎/2014年8月歌舞伎座第一部・第二部

 八月納涼歌舞伎はいつもながらの三部制。本日は猛暑のなか、第一部・第二部を続けて観劇しました。全体として、第一部はなんかいまいちでしたが、第二部はなかなか面白かったです。公式サイトはこちら
 第一部の幕開きは「恐怖時代」。谷崎潤一郎の作で、初めて観る演目だったので、楽しみにしていたのですが、ちと期待はずれでした。これは脚本が悪いのか、演出がわるいのか、どちらかでしょう。
 前半は、お家騒動と愛欲とが絡み合う歌舞伎らしい展開で、ぽん太も引き込まれて見てました。お由良が蚊帳のなかで斬り殺されて血しぶきが飛ぶあたりは、ちょっと生々しいけど「納涼」だからこんなもんかな?という感じ。ところが磯貝伊織之介が武士たちを斬り殺したあたりから雲行きが怪しくなり、春藤釆女正が死にかけた武士たちを見ながら酒を飲み始めたりします。お小姓の伊織之介が春藤靱負の生首をぶら下げて戻ってくるあたりは、先頃ニュースになっていた、シリアで7歳の子供が敵兵の生首を持っている写真が思い出され、ちょっと嫌な気分になりました。さらに伊織之介は、許嫁の梅野や、あろうことか主君の春藤釆女正も斬り殺し、さらに家来たちも全員殺した上で、最後にお銀の方と刺し違えて死んでしまいます。登場人物がことごとく死んで、舞台上が死体で埋め尽くされて幕となると、この劇がいったい何をやろうとしてるのか、全く理解できなくなりました。
 登場人物が全員死んで終わりというのだったら、前半の人物描写や話しの筋が、まったく無意味になってしまいます。伊織之介が若く美しいがサイコパス的な性格であることが主題なら、もっと他に話しも持って行きようがあるはず。時代物のように始めて、様々な伏線の絡み合いが最後には解決するかと思わせておいて、いきなり皆殺しでおわることで、観客の期待を裏切るという作戦か?まさかね。耽美的・猟奇的な美しさを狙うのなら、もっと舞台を暗くするなどして、全体を妖しげな雰囲気にする必要があるし、「笑い」を少なくして、茶道珍斎ももっとグロテスクに演ずるべきでしょう。
 こんど原作を読んでみたいと思います。
 演技の方は、それぞれ良かったです。茶道珍斎の勘九郎、これまでは勘三郎を真似て、「真面目な勘九郎が一生懸命笑わせてます」という感じでしたが、笑わせ方が板に付いて来て、ホントにおかしくなってきました。最後に一人生き残り、ひょっこりと顔をあげるあたりも上手でした。第二部の「たぬき」の太鼓持蝶作と共に、なかなかの演技でした。
 それから萬次郎も、この芝居の梅野のほか、第二部の「信州川中島合戦」のお勝、「たぬき」の「お駒」と、それぞれ違う役をどれも見事に演じてました。これまで「うまい役者だな〜」と思ってましたが、「信州川中島合戦」などはすっかり魅了され、とっても感動しました。
 扇雀も、権力欲と愛欲に捉われて策略をめぐらすお銀の方を好演。女形は扇雀、男役は翫雀と、二人併せて藤十郎の芸を見事に受け継いだ気がします。
 橋之助は持ち前の明るさのせいか、最初に出来て来たとき豪放快活に見えてしまい、春藤釆女正の癇が強いエキセントリックな性格が感じられませんでした。その他の人たちもそれぞれ健闘。

 「龍虎」は、龍と虎が髪を振り立てて戦い合うという舞踊作品。前シテ/後シテという二部構成ではなく、静・動・静という三部構成になっているあたりが現代風で、振付けも新しい(三津五郎の振付けですね)。獅童と巳之助の若さとパワーは大迫力でしたが、感動はしませんでした。

 第二部に入り、「信州川中島合戦」は初めて観る演目。近松門左衛門の作で、さすがに第一部の「恐怖時代」だの何だのとはレベルが数段違います。吃りのお勝が琴を弾いて輝虎を止めようとするアイディアも面白く、琴を挟んでの見得は錦絵のごとしでした。
 上にも書きましたが越路の萬次郎が素晴らしかったです。脇役では何度も観て、うまい役者だと思っておりましたが、今回は丸本物の主役。武将の母親としての格式と貫禄が感じられ、輝虎の籠絡に乗るまいと、貢ぎ物を拒絶したり、輝虎自ら運んで来た料理を足蹴にしたりしますが(これも実際に蹴ったりせず、象徴的に表現されているあたりが、また良いのですが)、それが意地悪っぽくならないところはこの人の持ち味か。橋之助も、この輝虎の役だと大きさと力強さが生きて来ます。怒ってからのパワーもすごかったです。児太郎も、最近よく見かけるようになったと思っていたら、いつの間にかこんな立派な役を。福助がやる予定だったのかしら?

 「たぬき」は、大佛次郎作の新作歌舞伎。笑いとペーソスのある脚本もまずまずだし、役者の演技も素晴らしく、なかなか楽しめました。
 柏屋金兵衛が生き返って棺桶から出て来たときは、隠亡多吉はもっと驚いてもいいような気がするし、そのあとのやり取りも「あんたは幸運だ」見たいなことばかり繰り返して冗長な感じがしましたが、お染の家に場面が写って以後はテンポが出て来ました。
 三津五郎の柏屋金兵衛が、品格とユーモアを兼ね備えて秀逸。お染の背後を、驚かしてやろうとイソイソと歩く姿など、あちこちで大笑いしていしまいました。一方で、生きることは辛いことだが、それでも生きていることは素晴らしいことであり、生きることの苦難を引き受けて行かなければならない、というメッセージは、死から生き返った金兵衛と、膵臓がんの手術から復帰した三津五郎とがぽん太の心の中で交錯して、思わずぐっと来ました。
 また、隠亡多吉の山左衛門にも感心しました。下層階級の人の良い老人を演じて味わい深く、十両を手にして驚き喜んでいる様子など、生活感と人間味が自然ににじみ出て来て、まるでロシア演劇の登場人物を見ているかのようでした。
 太鼓持ちの勘九郎は、ここでもおかしい。七緒八君かわいい。七之助、巳之助、萬次郎、その他好演。
チケットぴあ

歌舞伎座
八月納涼歌舞伎
平成26年8月20日

第一部

一、恐怖時代(きょうふじだい)  
 お銀の方 扇 雀
 磯貝伊織之介 七之助
 茶道珍斎 勘九郎
 細井玄沢 亀 蔵
 お由良 芝のぶ
 氏家左衛門 橘太郎
 梅野 萬次郎
 春藤靱負 彌十郎
 春藤釆女正 橋之助

二、龍虎(りゅうこ) 
 龍 獅 童
 虎 巳之助

第二部

一、信州川中島合戦(しんしゅうかわなかじまがっせん)
  輝虎配膳  
 長尾輝虎 橋之助
 直江山城守 彌十郎
 唐衣 児太郎
 越路 萬次郎
 お勝 扇 雀

二、たぬき  
 柏屋金兵衛 三津五郎
 太鼓持蝶作 勘九郎
 妾お染 七之助
 門木屋新三郎 秀 調
 松村屋才助 市 蔵
 倅梅吉 波野七緒八
 隠亡平助 巳之助
 芸者お駒 萬次郎
 狭山三五郎 獅 童
 備後屋宗右衛門 彌十郎
 女房おせき 扇 雀

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