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2015/03/08

【文楽】「源平布引滝」はちとグロいけど感動。2015年2月国立劇場第一部

 二月は短いのでなかなか日にちが取れず、国立劇場の文楽は第一部のみ観に行って来ました。
公式サイトはこちらです。

 最初の「二人禿」は、遊郭を舞台に二人の禿が羽根つきや鞠つきで戯れる様子を描いた、華やかで可愛らしい舞踊。歌舞伎に慣れていると、睦大夫ほか大夫さんたちの歌声が、「美声」とは言えないところがちと残念。歌舞伎だと清元や常磐津といった歌専門要員がおりますが、文楽では「語り」が専門の太夫さんが歌うのですから、仕方ないのかも。人形の方は、しっかり踊りになっていて感心しました。

 ところで幕間に定式幕をぼ〜と眺めていたら、歌舞伎座と同じ黒・茶・緑(正確には黒・柿色・萌葱)の三色だけど、並び順が逆なことに気がつきました。つまり、歌舞伎座だと左から黒・茶・緑だけど、今回は右から黒・茶・緑になってました。幕も歌舞伎は向かって左から右に開くけど、今回は右から左に開くし、歌舞伎と文楽は違うのかな〜などと思ったのですが、帰ってからぐぐってみると(定式幕 - Wikipedia)、歌舞伎座や京都南座は左から黒・茶・緑、国立劇場や大阪新歌舞伎座は右から黒・茶・緑とのこと。そして前者は江戸森田座や守田座と同じで、後者は江戸市村座と同じなんだそうな。そうか、歌舞伎と文楽の違いではなく、劇場によって違うのか……。またひとつ賢くなった。

 続いて「源平布引滝」。元々は全五段からなりますが、全体の詳しいあらすじは、こちらの「百舌鳥迺舍(もずのや)別館」というサイトで読むことができます。ありがとうございます。
 それによると、二段目が歌舞伎では身体パフォーマンスで有名な「義賢最後」。三段目は最初が「道行」で、次の三段目の口が「矢橋」と「竹生島遊覧」、三段目の切が「九郎助内」すなわち歌舞伎の「実盛物語」のようです。
 「矢橋」と「竹生島遊覧」を観るのは久々のような気がしますが、ぐぐってみると2008年9月新橋演舞場の歌舞伎公演で、海老蔵の義賢/実盛で観ているようです。
 『平家物語』には、加賀の篠原の戦いで、老兵と侮られぬよう髪を黒く染めて戦にのぞんだ斎藤実盛が、手塚太郎光盛に討ち取られる話しが出てきます。その部分の現代語訳は例えばこちらのサイトにあり、原文はこちらで読むことができます。浄瑠璃は、この有名な実盛の物語の、前日譚になっているわけですね。
 ちなみに後日譚として、漫画家の手塚治虫が自分は手塚光盛の子孫だと主張してるという話しがあります(たとえばこちら)。
 「矢立」「竹生島遊覧」で小まんが琵琶湖を泳ぐところで、首を水面に出して泳ぐのかと思ったら、人形であることを生かしてか、身体を水平にしてぐいぐい泳いでいったのにはびっくりしました。
 「実盛物語」は、歌舞伎だと細かいセリフがよくわからず、ついつい眠くなることが多いのですが、今回は字幕を見ながらだったので分かりやすく、とても感動いたしました。
 それから文楽では、最後に馬上の実盛が仁忽太を鉤縄で捉えて首をかっ斬る場面があるんですね。瀬尾が自らの首を斬り落とす場面もあるし、なんだかイスラム国の事件を思い出して暗くなりました。

 で、ぽん太が気になったのは、人が腕を産むはずがないといぶかる瀬尾に対して、実盛が中国で鉄の玉を産んだ話しがあると諭すところ。『日本古典文学大系〈第52〉浄瑠璃集 下』(岩波書店、1959年)を見てみると、次のようになってます。
 「唐士(もろこし)楚國の后(きさき)桃容夫人(とうようぶにん)。常にあつきを苦しんで鉄(くろがね)の柱をいだく。其精㚑(せいれい)宿て鉄丸(てつがん)を産。陰陽師(おんようじ)占て釼(や)に打す。干将莫耶(かんしょうばくや)が釼是なり。」
 ぐぐってみると、Wikipediaに干将・莫耶という項目があります(こちら)。中国における名剣にまつわる有名な話しのようで、もともとの中国の話しでは、鉄の玉を産むという下りはなかったようですが、日本の『今昔物語』に収録されたバージョンでは、国王夫人が鉄の玉を産み、それをもとに作ったとされているようです。また『太平記』でもこの話しが取り上げられているそうです。それらにあたってみるのは……面倒だからやめます。上記の『日本古典文学大系』の註には、『太平記』を元にした浄瑠璃「眉間尺象貢」が享保14年(1729年)8月に竹本座で上演されたと書かれています。ちなみに「源平布引滝」の初演は寛延2年(1749年)です。
 ついでにもう一つ。実盛が小まんの腕を亡がらにつなぎ合わせてみようと提案する時に、むかし首が煮られながらも恨みを果たしたとかなんとかいう例があるという部分。再び『大系』から引用すると、
 「誠に彼(かの)眉間尺(みけんじゃく)が首。三日三夜煮られても凝(こっ)たる一念。恨を報ぜし例も有。」
 眉間尺は、干将と莫耶の子供ですから、前のと同じ話しですね。元々の物語に時代とともに後日談が加わったようで、それによれば国王は干将を殺してしまい、子の眉間尺が敵討ちを企てます。眉間尺は自分の首を他人に委ねて王に献上し、王はこの首を煮込みましたがいくら煮込んでも溶けず、しまいに王の首も煮え湯の中に落ちて溶けてしまったという話しのようです。これも様々なバージョンがあるようです。
 『今昔物語』や『太平記』に書かれているということで、当時は有名な話しだったんでしょうか。あるいは「眉間尺象貢」で取り上げているから、文楽ファンはすでに予習済みという扱いだったんでしょうか。
 

2月文楽公演
2015年2月25日
国立劇場

【第1部】
「二人禿(ににんかむろ)」
  睦大夫  團吾
  芳穂大夫 清丈
  小住大夫 燕二郎
  亘大夫  清充
  [人形配役]
  禿・紋臣
  禿・簑紫郎

「源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)」
 矢橋の段
      咲寿太夫  龍爾
 竹生島遊覧の段
  実盛  津國大夫  清馗
  小まん 南都大夫
  左衛門 文字栄大夫
  忠太  亘大夫
  宗盛  始大夫
 九郎助内の段
  中   靖大夫   清丈
  次   松香大夫  清友
  切   咲大夫   燕三
  後   文字久大夫 藤蔵    
  [人形配役]
  娘小まん・紋壽
  塩見忠太・玉誉
  宗盛公・紋秀
  飛騨左衛門・文哉
  斎藤実盛・勘十郎
  船頭・玉彦
  九郎助女房・文昇
  矢橋仁忽太・玉勢
  葵御前・簑二郎
  倅太郎吉・玉翔
  百姓九郎助・文司
  瀬尾十郎・玉也
  庄屋・勘介/玉路
  郎党・大ぜい
  近習・大ぜい
  漁師・大ぜい
  実盛の家来・大ぜい

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