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2015/07/05

【オペラ】オペラも「言葉」がだいじなんだね・野田秀樹・井上道義の「フィガロの結婚」

 演出が野田秀樹で、指揮が井上道義の「フィガロ」、と聞いたら行くっきゃない。秋の東京劇場までは待ちきれず、川崎まで観に行ってきました。期待にたがわず、というか期待以上で、楽しくてわかりやすいというだけではなく、芸術的にもすばらしい舞台でした。ミューザ川崎のサイトはこちらです。
 それからこちらに野田秀樹のインタビューがあります(11分ぐらいあって内容充実)。

 今回の会場は川崎。川崎って、ぽん太は初めて訪れたのかもしれません。少なくとも以前に行った記憶がにゃい。すごくでかい街ですね。18:30の開演に向けて行ったので、ちょうと帰りのラッシュアワーにぶつかって、会社帰りのサラリーマンの流れに圧倒されました。
 その流れをかき分けかき分けミユーザ川崎のシンフォニーホールに到着。ここってたしか、東日本大震災の時に、吊るしてあった天井板が落下したところですね。復旧の経過については、こちらの川崎市のサイトが詳しいです。
 このホールももちろんぽん太は初めて。サントリーホールのように、舞台を観客席がぐるっと取り囲むアリーナ形式。観客席が螺旋状に配置されているのがちょっとオシャレです。もともとあまり大きくないホールである上に、今回はオペラ公演ということで舞台の後ろ側の座席は使わず、手前側だけに客を入れてたので、こじんまりとした印象で、舞台がとても近く、臨場感がありました。
 オケも小編成。歌手たちも朗々と歌声を響かせるというよりは、声量は控えめにして演技や表現を重視していたようで、「室内オペラ」という印象でした。
 さらに野田一流の演出が加わり、観客席から笑い声もおこって、とっても楽しい舞台でした。なんか普通はオペラというと、コンサートホールで物音立てないように緊張して、一流歌手のテクニックを鑑賞するという感じですが、モーツァルトの時代のオペラも、きっとこういうふうに楽しくて、堅苦しくなくて、観客も沸いたんだろうな〜。

 舞台に幕はありません。開演時間前から舞台上に植木職人がいて、なにやらパチパチ枝を剪定しているという、演劇ではよくある手法。
 序曲は普通に演奏。続いてフィガロとスザンナのデュエットに入ったのですが、本来ならフィガロが巻き尺で部屋の大きさを測りながら、イタリア語で「5,10,20,30……」と歌うところを、フィガロ役の大山大輔が日本語で「一尺、二尺……」と歌い出したので、いきなり観客が爆笑。
 野田の演出が奇抜すぎて状況が理解できないと困ると思い、あらかじめプログラムの解説をちらっと読んでおいたのですが、江戸時代(?)の日本に、伯爵・伯爵夫人・ケルビーノが黒船に乗ってやってくるという設定だそうで、ですからフィガロやその他の登場人物は全部日本人。フィガロじゃなくて「フィガ郎」という名前です。
 ということで、日本人は基本的に日本語、外人はイタリア語で歌いますが、日本人たちも伯爵たちをお迎えするにあたってイタリア語をマスターしているという設定で、一部イタリア語も使います。
 こうした設定になった事情に関しては、上の動画にも出て来たと思いますが、野田秀樹が、オペラで日本人がカツラかぶって外人のふりをして外国語で歌うということに違和感を持っていて、当初は全員日本人歌手、場所は日本、セリフも歌詞も全部日本語という提案をしたんだそうです。しかし井上道義が、現在の日本で「オペラ」として満足できる舞台を作るためには、外人歌手の声がどうしても必要だと主張したため、このような設定になったんだそうです。
 ですから、場合によっては日本人もイタリア語でアリアを歌ったりもします。

 現代のオペラの演出は、原作に忠実な設定にしたものと、読み替えによってとんでもない設定にするものとがあります。コンヴィチュニーなんかが、後者の代表ですね。
 ただ読み替えといっても、元々の曲や歌詞を勝手に変えてはいけない、というお約束があります。野田秀樹といえども、このルールを破ることは、オペラ公演としては許されません。もっともレチタティーヴォと呼ばれるセリフ風の部分はだいぶいじってましたが、それはぎりぎりオーケーでしょう。
 そこで野田が着目したのが、「翻訳」です。原作のイタリア語を変えることはさっき言ったようにできないのですが、それを日本語にどう翻訳するかは、ある程度の自由があります。野田はこの自由を最大限に活用しました。オペラにつきものの「字幕」ですが、今回の字幕は野田自身が作成したそうです。多芸多才の野田とはいえイタリア語までマスターしているとは思えませんが、数種類の日本語訳を取り寄せて比較検討し、さらに歌手たちの意見を取り入れながら、字幕を作ったんだそうです。
 舞台の中央にかなりでっかい電光掲示板があって、そこに字幕が映し出されました。普通のオペラだと、歌声を聴くことがメインなので、字幕は大意だけを示す感じで、下手すると30秒間くらい同じ訳が電光掲示板に出続けていたりするのですが、今回はかなり細かい訳が表示されてました。意味がよくわかる結果、歌や演技、音楽の細かいニュアンスがとてもよく理解できました。さらに野田独特の言葉遊びもちりばめられていて、字幕を読むこと自体が楽しかったです。なんだか、野田秀樹の脚本をタダで一冊読めて得した感じ。
 オペラでも言葉が大切なんですね。以前に、イタリアの歌劇場で、(イタリア語も含めて)歌詞を電光掲示板に出すことにしたというニュースを聞きましたが、その意味がようやくわかりました。日本の文楽も詞章が映し出されますが、日本人でも言葉を聞き取れないですよね。
  サブタイトルに「庭師は見た!」とあって、「庭師アントニ男から見たフィガロ」みたいなアオリがありましたが、庭師はしょせん狂言回しであって、劇全体が庭師の視点から読み替えられていたりするわけではなく、これはそれほどのものではありませんでした。

 フィガ郎の大山大輔、スザン女の小林沙羅ほか、みんな芸達者で演技力がありました。伯爵夫人のテオドラ・ゲオルギュー、透明でないちょっとざらついた声でしたが、伯爵の愛が自分から離れてしまったことを切々と歌う「愛の神よ救いませ」は胸を打ちました。伯爵のナターレ・デ・カロリス、う〜ん、時間がたちすぎて忘れた。庭師アントニ男の廣川三憲、役者さんだと思いますが、途中で歌手に混じって歌も歌ってました。大したものですね。
 井上道義、スタイリッシュでちょっと観客を意識した音楽作りが、今回の公演にはとってもあってました。今回の席が3階の前方だったので、上から覗き込む感じで、指揮者がよく見えました。指揮者と歌手たちが、特にテンポが変化するところなどで、どうやって息を合わせているかがよく見えて、とても興味深かったです。
 東京交響楽団、序曲はちょっとぎくしゃくしてましたが、だんだんと調子がでてきて、すばらしい演奏でした。

 この企画、各会場で1回ずつ公演しながら、日本各地を回るようですが、ハコもあまり大きくないけど、採算が合うんかいな?合うんだとしたら、企画したプロデューサーの山田正幸氏にブラヴォーを送りたいと思います。どんな人なのかまったく存じ上げませんが……。そしてこの企画、第二弾、第三弾を期待したいと思います。


全国共同制作プロジェクト
モーツァルト/歌劇『フィガロの結婚』 ~庭師は見た!~新演出
(全4幕・字幕付 原語&一部日本語上演)
2015年6月17日 
ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮・総監督:井上道義 演出:野田秀樹

出演
アルマヴィーヴァ伯爵:ナターレ・デ・カロリス
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:テオドラ・ゲオルギュー
スザ女(スザンナ):小林沙羅
フィガ郎(フィガロ):大山大輔
ケルビーノ:マルテン・エンゲルチェズ
マルチェ里奈(マルチェリーナ):森山京子
バルト郎(ドン・バルトロ):森雅史
走り男(バジリオ):牧川修一
狂っちゃ男(クルツィオ):三浦大喜
バルバ里奈(バルバリーナ):コロン・えりか
庭師アントニ男(アントニオ):廣川三憲

合唱:新国立劇場合唱団
声楽アンサンブル:佐藤泰子、宮田早苗、西本会里、増田 弓、新後閑 大介、平本英一、千葉裕一、東 玄彦
演劇アンサンブル:河内大和、川原田樹、菊沢将憲、近藤彩香、佐々木富貴子、下司尚実、永田恵実、野口卓磨
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団

スタッフ
美術:堀尾幸男(HORIO工房)
衣裳:ひびのこづえ
照明:小笠原 純
振付:下司尚実
音響:石丸耕一
プロデューサー:山田正幸

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