« 【文楽】かわいそうなお三輪ちゃん「妹背山婦女庭訓」/2015年9月国立劇場第二部 | トップページ | 【文楽】歌舞伎でもこのくらい斬って欲しい「伊勢音頭恋寝刃」2015年9月国立劇場第一部 »

2015/09/24

【オペラ】素晴らしい歌手と演出に(結末を除けば)大感動!「ドン・ジョヴァンニ」英国ロイヤル・オペラ

 英国ロイヤル・オペラの2015年来日公演は、日程の都合で「ドン・ジョヴァンニ」のみ鑑賞。とっても素晴らしい演奏でしたが、ラストはちょっと?でした。公式サイトはこちら、「ドン・ジョヴァンニ」の対訳はこちらの「オペラ対訳ブロジェクト」で、総譜はこちらの「新モーツァルト全集・デジタル版」で見ることができます。
 会場はバカでかいNHKホールですが、こんかいの座席はなんとS席なのだ、はっはっは。とはいっても、木の葉をお札に変える力に限界があるタヌキのぽん太。当初はB席を買っていたのですが、その座席が会場の設営の関係で座ることができなくなたため、NBSさんがS席に交換してくれたのです。しかもプログラムまでもらっちゃたheart04。長生きするといいことがあるもんですね〜。
 演出はカスパー・ホルテン。昨年春に、新国立劇場オペラで「死の都」を観ました。音楽のニュアンスをとても大切にする演出で、射影幾何学的に歪んだ舞台美術も印象的でした。
 今回のセットは、中央に白い石造りの二階建ての建物があり、回り舞台によって時々向きを変えます。そしてこの建物にプロジェクション・マッピングが行われます。
 プロジェクション・マッピングと聞いて、よくイベントなどで行われる派手派手しく俗っぽいものを想像していたのですが、安易な説明ではない抽象的な模様が多く、節度と品がありました。
 で、彼の演出はやはり音楽のニュアンスを大切にしていて、シェイクスピアの国イギリスのオペラだからなのかもしれませんが、とても演劇的で、歌がまるでセリフのようでした。タヌキごときにはうまく説明できないのですが、一例をあげれば、「ぶってよマゼット」の最後のあたりで、sì sì sì sì sì sì, notte e dì vogliam passar.(そうよ、夜も昼も私と過ごしましょう)が2度繰り返されるところがあります。音楽的には単なるリフレインで、あっさり歌ってもいいところですが、ホルテンの演出では、ツェルリーナがマゼットの手をにぎりながら「そうよ、夜も昼も私と過ごしましょう」と歌います。しかしマゼットは「そんなことを言われても」といった感じでそっぽを向こうとします。あわててツェルリーナがまゼットの手を強く引っ張って振り向かせ、「そうよ、夜も昼も私と過ごしましょう」と畳み掛けるのです。このように、歌と、心の動きと、演技が、非常にうまく噛み合ってました。
 ところで、「ドン・ジョヴァンニ」の演出上の解釈が分かれるところとして、冒頭でドン・ジョヴァンニとドンナ・アンナは関係を持ったのかどうか、そしてアンナはジョヴァンニに好意を抱いているのかどうか、というところがあります。今回の演出では、アンナは恍惚とした笑みをたたえながらジョヴァンニと一緒に舞台に現れますから、二人は関係を持ち、そしてアンナはジョヴァンニに惚れてしまったという設定でしょう。そうするとアンナがジョヴァンニを憎むのは、犯されたからではなく、父を殺されたからということになり、アンナにとってジョヴァンニは、恋しい人であると同時に父を殺した憎い男ということになります。ということは、アンナがアリア「ドン・オッターヴィオ、私、死んでしまう」で、「手込めにされそうになったけど、振りほどいて逃げ出した」と歌っているのは嘘っぱちということになりますね。ああ、女は怖い。そしてオッターヴィオはアンナを愛する素朴で誠実な男性ではなくなり、ホントの愛の機微もわからずに、自分勝手な愛を押し付ける、青臭いお坊ちゃんになります。続く「彼女の心のやすらぎころ私の願い」だったか忘れてしまいましたが、オッターヴィオが切々と歌っているときに、アンナとジョヴァンニが二人きりで部屋に入って行く、というシーンもありました。
 それからもう一つ目に付いたのは、ドン・ジョヴァンニが、時おり深い苦悩の表情を見せることです。次々と女に手を出していきながら、それがジョヴァンニには喜びをもたらさず、かえって彼の苦悩は深まっていくようでした。「シャンパンの歌」も、普通は笑顔を浮かべながら快活に意気揚々と歌いますが、今回は何かの衝動に突き動かされている感じで、苦しそうにさえ見えました。
 さあ、ここまで伏線が張り巡らされたところで、あとは最後にどうまとめるのか、お手並み拝見です。期待しながら観ていたのですが、あれれ、晩餐といいながら、ジョヴァンニは階段に座って、一枚の皿に乗ったチキンか何かにむしゃぶりついているだけです。レポレッロの歌声も心がこもらず平板で、気がつくと顔が白っぽく化粧されてます。楽隊もなんだか亡霊みたいな動きです。フィナーレの六重唱も、舞台の手前の両袖の部分に三人ずつ歌手が並び、淡々と歌って終了。最後舞台上にはジョヴァンニがただ一人取り残され、身を屈めます。
 なんじゃこりゃ?わけかわらんぞ。そういえばレポレッロが、「みんな死んでしまいました」とか聞き覚えのないセリフを言ってたぞ。まわりが全部死んで、自分だけが生き残るのが「地獄」だという設定?う〜ん、こりゃ、ちょっとブーイングがあってもいいくらいじゃないのかしら……。
 そうだ、今回はNBSさんにもらったプログラムがあるのだ。読んでみよ……ということで帰りの電車の中で読んでみたところ、ドン・ジョヴァンニを、孤独からセックス依存症になった現代的な人間として捉えたようです。舞台は彼の意識を反映していて、彼が次第に精神に異常を来すにつれて、彼が殺した騎士長や、手込めにしてきた女性の亡霊が徘徊し始めます。最後は全ての人たちが彼から
離れて行き、幻想さえ消え去って、ジョヴァンニは現実の孤独に向き合うという罰を受けるのだそうです。
 う〜ん、なんか精神科医のぽん太には、ちょっと理屈っぽすぎてやだな。
 ちなみにレポレッロの「みんな死んでしまいました」というセリフは、Ah padron! Siam tutti morti.で、普通は「旦那、我々二人とも死んでしまいます」などと訳すもののようです。
 ということで、最後はなんだか尻つぼみでしたが、登場人物それぞれの人物像や感情の動きが面白く、とても面白く感じました。

 歌手のレベルがとっても高かったように思います。タイトルロールのイルデブランド・ダルカンジェロは、今回の歌手陣のなかでぽん太が唯一聴いたことがある人です。2008年にウィーン国立歌劇場の「コシ・ファン・トゥッテ」でグリエルモを歌っていたようですが、よく覚えてません。いつものジョヴァンニとは違う鬼気迫る雰囲気をよく出してました。レポレッロのアレックス・エスポージトは芸達者。アルビナ・シャギムラトヴァは肉感的なドンナ・アンナ。「むごい女ですって!」は感動しました。今回の演出では難しい役柄のドン・オッターヴィオをローランド・ヴィラゾンが好演。ドンナ・エルヴィーラのジョイス・ディドナートは美人。ユリア・レージネヴァは、背が低くてお茶目な声で、ツェルリーナははまり役。それでいて歌もうまかったです。騎士長のライモンド・アチェトの声が、やや凄みに欠けたのが残念。
 指揮はアントニオ・パッパーノ。フォルテピアノも弾いてたことは、あとでキャスト表を見て初めて知りました。

英国ロイヤル・オペラ2015年日本公演

W.A.モーツァルト作曲
Wolfgang A. Mozart

「ドン・ジョヴァンニ」
Don Giovanni

全2幕 
台本: ロレンツォ・ダ・ポンテ
Opera Buffa in Two Acts
Libretto: Lorenzo Da Ponte
2015年9月13日 NHKホール

指揮 アントニオ・パッパーノ
Conductor Antonio Pappano
演出 カスパー・ホルテン
Director Kasper Holten
演出助手 エイミー・レーン
Assistant Director Amy Lane

装置 エス・デヴリン
Set designs Es Devlin
ビデオ・デザイン ルーク・ホールズ
Video designs Luke Halls
衣裳 アニャ・ヴァン・クラフ
Costume designs Anja Vang Kragh
照明 ブルーノ・ポエト
Lighting design Bruno Poet
振付 シーニュ・ファブリチウス
Choreographer Signe Fabricius
殺陣 ケイト・ウォーターズ
Fight Director Kate Waters
合唱監督 レナート・バルサドンナ
Chorus Director Renato Balsadonna
コンサートマスター ヴァスコ・ヴァシレフ
Concert Master Vasko Vassilev

レポレロ アレックス・エスポージト
Leporello Alex Esposito
ドンナ・アンナ アルビナ・シャギムラトヴァ
Donna Anna Albina Shagimuratova
ドン・ジョヴァンニ イルデブランド・ダルカンジェロ
Don Giovanni Ildebrando D'Arcangelo
騎士長(ドンナ・アンナの父) ライモンド・アチェト
The Commendatore (Donna Anna's father) Raymond Aceto
ドン・オッターヴィオ(ドンナ・アンナの婚約者) ローランド・ヴィラゾン
Don Ottavio (Donna Anna's fiancé) Rolando Villazón
ドンナ・エルヴィーラ ジョイス・ディドナート
Donna Elvira Joyce DiDonato
ツェルリーナ ユリア・レージネヴァ
Zerlina Julia Lezhneva
マゼット(ツェルリーナの夫) マシュー・ローズ
Masetto (Zerlina's Husband) Matthew Rose
ドンナ・エルヴィーラの侍女 チャーリー・ブラックウッド
Donna Elvira's maid Charlie Blackwood

フォルテピアノ アントニオ・パッパーノ
Fortepiano continuo Antonio Pappano

ロイヤル・オペラ合唱団 / ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
Royal Opera Chorus (Wedding guests, Party guests, Musicians) / Orchestra of the Royal Opera House

|

« 【文楽】かわいそうなお三輪ちゃん「妹背山婦女庭訓」/2015年9月国立劇場第二部 | トップページ | 【文楽】歌舞伎でもこのくらい斬って欲しい「伊勢音頭恋寝刃」2015年9月国立劇場第一部 »

芸能・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74997/62291641

この記事へのトラックバック一覧です: 【オペラ】素晴らしい歌手と演出に(結末を除けば)大感動!「ドン・ジョヴァンニ」英国ロイヤル・オペラ:

« 【文楽】かわいそうなお三輪ちゃん「妹背山婦女庭訓」/2015年9月国立劇場第二部 | トップページ | 【文楽】歌舞伎でもこのくらい斬って欲しい「伊勢音頭恋寝刃」2015年9月国立劇場第一部 »