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2015/10/09

【歌舞伎】歌舞伎座半世紀ぶり上演の「競伊勢物語」が泣かせるぜ/2015年9月歌舞伎座昼の部

 だいぶ時間がたってしまいましたが、9月歌舞伎昼の部の感想です。公式サイトはこちら
 歌舞伎座では半世紀ぶりの上演という「競伊勢物語」が見応えありました。解説には「王朝を舞台にし、『伊勢物語』の趣向を取り入れて……」などと書いてあったので、ちゃらい芝居を想像していたのですが、なかなかどうして重厚で本格的でした。
 文楽の床本は、「ようこそ文楽へー鶴澤八介メモリアル「文楽」ホームページ」のなかのこちらにアップされているので読むことができます。ありがたや、ありがたや。
 時は平安、朝廷では文徳帝の跡目争いが起き、惟喬親王と惟仁親王が対立しています。大和国のとある村に小由(こよし)というお母さんが住んでおります。その娘が信夫(しのぶ)で、信夫ちゃんの夫が豆四郎。豆四郎は惟仁親王に恩のある身で、忠義を立てるために、惟喬親王方に奪われた神鏡を奪い返そうとします。信夫は夫のために、ご禁制の池に潜って神鏡を手に入れます。
 小由の家を紀有常(きのありつね)が訪ねてきてからが物語の眼目。実は信夫は有常の娘で、生まれてすぐ小由に預けられていたのです。有常は、信夫を返してくれと言い出します。在原業平とできちゃった井筒姫の身代わりとして、信夫を都に上げると言うのです。小由は再初は断ろうとしますが、ご禁制の池に立ち入った罪で処刑されるよりはと、泣くなく信夫を引き渡すことに同意します。ところが有常は、信夫とその夫豆四郎の首を刎ねます。実は二人は井筒姫と業平のお身代わりだったのです……。
 あらすじはこんな感じです。
 何といっても東蔵が演じた母小由が秀逸。さすが東蔵、憐れな母親を演じさせたら日本一。信夫は罪が母に及ばないように勘当されようとして、わざと母親に憎まれ口をきくのですが、母親は娘の憎まれ口にとまどいながらも、なにかの理由で機嫌が悪いのだろうと、娘をなだめようとします。この姿が、日本人の心のDNAに刻み込まれた「良い母親」そのもので、既に胸がキュンとなります。
 そして、貴族の装束を着て見違えるような美しさの信夫を見てよろこぶ小由。お身代わりに殺されるとも知らないで、別れを惜しんで、信夫の琴にあわせて小由が砧を打つに至っては、客席のあちこちからすすり泣きが聞こえてきます。ぽん太は「にゃ〜んだおまいらこんなんで泣きおって」と心の中で笑ってたのですが、まわりのすすり泣きを聞いてるうちに、だんだんウルウルしてきました。
 手法としては、「野崎村」で髪を切って出家姿になった娘おみつを、盲目の母親が、白無垢に綿帽子の花嫁衣装だと思って褒めそやす場面に似ておりますが、なかなかの感動シーンでした。
 ちょっと童顔の東蔵が、あんぐりと口を開けて嘆く表情に、ぽん太は山海塾を連想しました。
 このような感動シーンもしっかりある上に、「実ハ」の意外なストーリー展開もあって、さらに歌舞伎らしい荒唐無稽さも兼ね備えております。なんとこの小由が、福島県にある歌枕の「信夫摺り」(しのぶもじずり)の由来となった人で、台所においてある石が「もじずり石」とのこと!それから、お公家様の有常は以前東北で小由の隣りに住んでたという設定で、小由が有常に「ああ、あの太郎助か」と言った時、ぽん太は思わず目が点になってしまいました。
 吉右衛門の紀有常は、小由との昔話の間にも雅やかさを失わず、最後に信夫と豆四郎の首を刎ねる時には、武将のような厳しさが感じられました。このような素晴らしい芝居を復活したことに、拍手を送りたいです。
 菊之助の信夫が美しく、母小由に感動されようとして見え透いた悪態をつくあたりは可愛らしく、そうして最後の琴の場面は泪を誘いました。銅羅の鐃八の又五郎はいつもながらいい仕事。大谷桂三の息子井上公春くんが初初お目見得。
 「初代そっくり」とか声をかけたおじさんがいて、「昭和10年の舞台を観てんのかよ」と思ったら(参考)、今度は同じ人が「いい供養になった」って、感想かよ!変なタイミングで声をかけまくってる女性もいました。地方公演ならいざ知らず、歌舞伎座ではやめてちょーだいと思いましたが、そんだけ皆が興奮する舞台だったと言えるでしょう。
 「伊勢物語」や能の「井筒」を取り入れている部分、きっといろいろあるのでしょうけど、今回はみちくさはやめておきます。

 最初の演目は「双蝶々曲輪日記」から「新清水浮無瀬の場」。「双蝶々曲輪日記」というと、「角力場」や「引窓」が単独で上演される場合が多いですが、「新清水浮無瀬の場」を観ても全体像が見えて来ないというか、かえって分かりにくくなるということは、以前の記事で書きました。芝居としても、この場だけではあまりストーリーが面白くないのでは?手代権九郎が指を切らされた上に、犯人と間違えられて捕まってしまうのも、ちょっとかわいそうですネ。
 でも、梅玉の南与兵衛と魁春の藤屋都の演技は見事で、錦之助の演じる山崎屋与五郎も色男っぽくてよかったです。

 「紅葉狩」。染五郎は、棒立ちの姿勢といい、発声といい、お姫様には見えませんでした。さすがに鬼女になってからは迫力ありましたが。竹本、常磐津、長唄の掛け合いで、派手はでしい舞台でしたが、なんか幽玄さに欠けました。金太郎君が山神。おっきくなりましたね〜。

歌舞伎座
秀山祭九月大歌舞伎
平成27年9月23日

昼の部

一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
  新清水浮無瀬の場
    南与兵衛 梅 玉
    藤屋吾妻 芝 雀
    平岡郷左衛門 松 江
    太鼓持佐渡七 宗之助
    堤藤内 隼 人
    井筒屋お松 歌女之丞
    手代権九郎 松之助
    三原有右衛門 錦 弥
    山崎屋与五郎 錦之助
    藤屋都 魁 春

二、新歌舞伎十八番の内 紅葉狩(もみじがり)
    更科姫実は戸隠山の鬼女 染五郎
    局田毎 高麗蔵
    侍女野菊 米 吉
    山神 金太郎
    腰元岩橋 吉之助
    従者左源太 廣太郎
    従者右源太 亀 寿
    平維茂 松 緑

  紀有常生誕一二〇〇年
三、競伊勢物語(だてくらべいせものがたり)
  序幕 奈良街道茶店の場
     同  玉水渕の場
  大詰 春日野小由住居の場
     同  奥座敷の場

    紀有常 吉右衛門
    絹売豆四郎/在原業平 染五郎
    娘信夫/井筒姫 菊之助
    絹売お崎 米 吉
    同 お谷 児太郎
    旅人倅春太郎 初お目見得 井上公春(桂三長男)
    およね 歌女之丞
    川島典膳 橘三郎
    茶亭五作 桂 三
    銅羅の鐃八 又五郎
    母小由 東 蔵

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