【バレエ】彼女の踊りを目に焼き付ける。シルヴィ・ギエム〈ライフ・イン・プログレス〉
あゝ哀しい哉、ギエムの引退公演。彼女の踊る姿を、衰えたぽん太の脳に焼き付けなくては……。
にわかバレエファンのぽん太は、ギエムとの付き合いは長くはなかったけど、大好きなダンサーの一人でした。にゃん子もギエムの鍛え抜かれた肉体が大好きでした。残念ながら古典の全幕を観る機会はありませんでしたが、「シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2007」で観た「白鳥の湖」の第2幕(アダージョとコーダだっけかな?)は素晴らしかったです。また何回か観た定番のボレロ。特に、一度封印したあとに、東日本大震災のチャリティのための「HOPE JAPA」(2011年)で踊ったボレロは、観客を鼓舞するかのようでした。そして様々なコンテンポラリーや、バレエの枠組みを超えて別のジャンルの舞踏とコラボした演目も印象的でした。
こんかい、東京文化会館のホワイエにブースが作られていて、ギエム対するにビデオ・メッセージを録画することができるようになってました。はじっこだから気がつかなかった人も多かったのでは?ぽん太もメッセージを録画しておきました。
さて、感想に戻り、最初はの演目は東京バレエ団による「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド」。う〜ん、振付け通りに動いてるけど、まだ踊りになってない感じ。
次のキリアンの「ドリーム・タイム」は初見でしたが、さすが木村兄いや吉岡さんなどベテランだけあって動きが面白く、テクニカルなリフトもいっぱいあって、なかなか良かったです。武満徹の音楽を久々に聞いて、ずいぶんロマンチックだな〜と思う。
さて、休憩を挟んでいよいよギエムの登場。アクラム・カーン振付けの「テクネ」です。なんか昆虫っぽい動きでしたが、ギエムの身体能力を堪能させてくれました。冒頭、這いつくばったり、座った姿勢でちょこちょこ歩いたりするだけでも、その動きが見ていて面白い。(比べて申し訳ないけど)東京バレエ団の動きとどこが違うのか、素人のぽん太にはわかりませんが、まったく違うことだけはわかります。舞台上の三人のミュージシャンが奏でるちょっと東洋風な音楽に合わせて踊りました。かなり複雑で即興的な音楽でしたが、ギエムの動きがそれにぴったり合っていたので、彼女は音楽を完全に覚えているのでしょう。すごいですね。ラストで光り輝く樹を不思議そうに眺める姿は、別世界に迷い込んだ幼子のようでもありました。
次は男性二人による「デュオ2015」。これも面白かったですね〜。前半は音楽がなく、後半で耳鳴りのような音が入るだけ。二人のダンサーが、まさに息を合わせて踊ります。二人の動きは別々ですが、二人で一つのフォルムを生み出します。そのなかに、競い合ったり、ふざけあったり、ふっと気を抜いて素にもどったり、また真剣になったりといった、感情のドラマも組み込まれています。ジョカとワッツの、バレエとは全く違う身体の動きが素晴らしかったです。二人ともフォーサイス・カンパニーの出身のようですね。
そして次は女性二人の踊り。暗い舞台の上に電球色の照明で浮かび上がったギエムとモンタナーリが、こんどはゆっくりした動きで踊ります。こちら身体的な接触があり、手をつないで引っ張り合ったりする動きがあるので、「デュオ2015」とは違って触覚も加わってきます。
ここまでの三つの作品、バレエというより日本の「舞踏」みたいでした。
最後は、マッツ・エック振付けの「バイ」。「シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2011」ではフランス語の「アジュー」というタイトルで上演しましたが、とても楽しかった記憶があります。物語性があって、光や映像を使った面白い演出が組み込まれています。そして音楽が、ポゴレリチ演奏のベートヴェンのピアノソナタ第32番(第二楽章)。音楽を聴いているだけでうっとり。そこにギエムの完璧なダンスが加わるのですから、その感動たるや推して知るべし。
先日はロパートキナで、現代のクラシック・バレエにおけるひとつの最高到達点を見せてもらいました。本日の公演では、現代のダンス芸術におけるもうひとつの最高到達点を見ることができたと思います。
拍手に応えるギエムは、いつもながら素敵な笑顔。客席も全員スタンディング・オベーションで、ギエムに感謝と別れの拍手を送り続けました。
シルヴィ・ギエム〈ライフ・イン・プログレス〉
2015年12月17日
東京文化会館
- 東京バレエ団初演 -
イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド
振付:ウィリアム・フォーサイス 音楽:トム・ウィレムス(レスリー・スタックとの共同制作)
演出・照明・衣裳:ウィリアム・フォーサイス 振付指導:キャサリン・ベネッツ
川島麻実子 渡辺理恵 秋元康臣
河合眞理 崔 美実 高橋慈生 伝田陽美 松野乃知 吉川留衣
ドリーム・タイム
振付・演出 :イリ・キリアン 振付助手:エルケ・シェパース 音楽:武満徹 オーケストラのための「夢の時」(1981)
装置デザイン:ジョン・F. マクファーレン 衣裳デザイン:ジョン・F. マクファーレン
照明デザイン:イリ・キリアン(コンセプト)、ヨープ・カボルト(製作) 技術監督、装置・照明改訂:ケース・チェッベス
吉岡美佳 乾 友子 小川ふみ
木村和夫 梅澤紘貴
テクネ
振付:アクラム・カーン
音楽:アリーズ・スルイター(マッシュルーム・ミュージック・パブリッシング/BMGクリサリス、
プラサップ・ラーマチャンドラ、グレイス・サヴェージとの共同制作)
照明デザイン:アダム・カレー、ルーシー・カーター 衣裳デザイン: 中野希美江 リハーサル・ディレクター:ホセ・アグード
シルヴィ・ギエム
パーカッション:プラサップ・ラーマチャンドラ ビートボックス:グレイス・サヴェージ ヴァイオリン、ヴォイス、ラップトップ:アリーズ・スルイター
デュオ2015
振付:ウィリアム・フォーサイス 音楽:トム・ウィレムス
照明:タニヤ・リュール ステージング:ブリーゲル・ジョカ、ライリー・ワッツ
ブリーゲル・ジョカ、ライリー・ワッツ
ヒア・アンド・アフター
振付・演出:ラッセル・マリファント
照明デザイン:マイケル・ハルズ 音楽:アンディ・カウトン 衣裳デザイン:スティーヴィー・スチュワート
シルヴィ・ギエム、エマヌエラ・モンタナーリ
バイ
振付:マッツ・エック
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン ピアノソナタ第32番 Op.111 第2楽章(演奏:イーヴォ・ポゴレリチ)
装置・衣裳デザイン:カトリン・ブランストローム 照明デザイン:エリック・バーグランド 映像:エリアス・ベンクソン
共同プロデュース:ストックホルム・ダンセン・フス
シルヴィ・ギエム
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