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2018/05/29

【オペラ】(ネタバレ注意)ワーグナーのひ孫がベートーヴェンを破壊!「フィデリオ」新国立劇場

 ★本日の記事にはネタバレがありますので、観劇前の方はご注意ください。

 読み替え演出で何かと物議を醸しているカタリーナ・ワーグナー演出の「フィデリオ」。期待と不安、いや、不安と期待を抱きながら観に行ってきました。

 で、結果はやっぱり×。
 納得できないというか、軽い憤りまで感じました。他のお客さんに関しても、ぽん太は4階席で観てたのですが、数人からブーイングがあがり、またマチネだったにもかかわらず早々に席を立つ人が多かったようです。

 ぽん太は決して読み替え演出が嫌いなわけではありません。ペーター・コンヴィチュニーなども、一時は日本でもよく上演されていましたが、「サロメ」で屍姦の同性愛を舞台上で演じて以来、日本出入り禁止になったのかすっかりご無沙汰しているのを、寂しく思っているひとりなのです。
 コンヴィチュニーの演出は、たしかに奇を衒ってる部分はありますが、楽譜を徹底的に読み込んでその中からアイディアを引き出してくると、どこかのインタビューで言ってました。例えば「サロメ」でヨカナーンが地下から出てくる場面は、たったそれだけなのシーンに実に見事な音楽が作られているので、それに匹敵する演出(サロメのカニバリズム)にしたといいます。

 一方、カタリーナ・ワーグナーの「フィデリオ」はどうでしょうか。フロレスタンとレオノーレが死んで、変装したピツァロが生き残るという読み替えに従えば、ラストの囚人や民衆たちの合唱は、人類愛を歌い上げる歓喜の歌ではなく、騙されてぬかよろこびをしている愚かな人々の歌ということになります。ワーグナーはベートーヴェンの音楽の中に、そうした「愚かさ」を聴き取ったのでしょうか。それとも指揮者がラストの合唱をわざと「愚かに」演奏すべきなのでしょうか。
 たしかにヴェートーヴェンの人間愛は、ちょっとストレートすぎて気恥ずかしく感じる部分もあるのですが、それがベートーヴェンの良さなのであって、それを聞くために我々はオペラやコンサートに足を運ぶわけです。モリカケやらアメフトやらで汚い嘘が横行してる世相の中、馬鹿正直かもしれないけど、まっすぐな愛と心からの歓喜を聴きたいわけです。でもワーグナーは、そういうベートーヴェンの人間性そのものを否定していると、ぽん太には感じられました。

 冒頭の序曲の間に、舞台上のひな壇に敷物をしいたり造化を生けたりするのですが、靴音もうるさいし、序曲に集中できません。こういう演出をしたワーグナーの目的は、観客が序曲を聞くのを邪魔しようというのか、それとも「こんな序曲、真剣に聴く価値ないでしょう」と言いたいのか。

 で、それで、ワーグナーが替わりに持ち出したラストに創造性があるのならいいのですが、牢獄に閉じ込められたフロレスタンとレオノーレが、死につつも愛を確かめあうというものでは、「アイーダ」や「トスカ」、バレエの「白鳥の湖」の焼き直しです。ひいては「トリスタンとイゾルデ」の愛の死ですから、結局はひいお爺ちゃんの遺産の利用かい、と突っ込みたくなります。

 その他、細かい突っ込みどころはいろいろありますが、遠慮しておきたいと思います。


 演奏は、飯守泰次郎指揮の東京交響楽団。なかなか良かった気がします。聞き慣れた「レオノーレ序曲」第3番でいうと、飯守さんにしては早めのテンポで、ドラマティックで若々しい演奏でした。でも、その時に舞台で行われているのがアレですからね。
 今期で芸術監督を辞する飯守さん。オーソドックスな演出の方が好きそうな気がします。最後の指揮だったのにちょっとがっかりしているのではとなどと、少々心配になりました。恒例の解説動画もこんかいはなかったし……。

 歌手陣もなかなかのできで、特にフロレスタンのステファン・グールドが素晴らしく、第2幕の最初のGott!の咆哮が圧巻。会場全体が緊迫感に包まれました。
 いつもながら新国立劇場合唱団もお見事で、囚人の合唱や、ラストの民衆の歓喜の歌など、(目をつぶって聴いていると)とても良かったです。

新国立劇場 開場20周年記念特別公演
オペラ「フィデリオ」
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

2018年5月24日
新国立劇場 オペラパレス

特設サイト

作曲:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
台本:ヨーゼフ・フォン・ゾンライトナー、シュテファン・フォン・ブロイニング、ゲオルク・フリードリヒ・トライチュケ
指揮:飯守泰次郎
演出:カタリーナ・ワーグナー

キャスト
ドン・フェルナンド:黒田博
ドン・ピツァロ:ミヒャエル・クプファー=ラデツキー
フロレスタン:ステファン・グールド
レオノーレ:リカルダ・メルベート
ロッコ:妻屋秀和
マルツェリーネ:石橋栄実
ジャキーノ:鈴木准
囚人1:片寄純也
囚人2:大沼徹

管弦楽:東京交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団

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