ロシアの精神科医はいまだに国民弾圧の手助けをしている
ソビエト連邦時代に精神科医が、反体制活動家に精神障害の診断を下して精神病院に閉じ込めることによって、国民弾圧の手助けをしたことは有名ですが、現代のロシアでもいまだに同じことが行われていると聞いたら驚きませんか?
アンナ・ポリトコフスカヤ『チェチェン やめられない戦争』(三浦みどり訳、NHK出版、2004年)を読むと、チェチェンでロシアがいかにひどいことをしているかが書かれています。それはイラクや北朝鮮どころの騒ぎではありませんが、当然アメリカは触れようとせず、日本の政府やマスコミも右へならえをしています。
チェチェンの位置は、黒海とカスピ海の間にあるコーカサス山脈の北側にあります。豊富な石油を産出するため、ロシアはチェチェンを手放したくありません。
日本のマスコミはチェチェン問題を、独立派の武装勢力とロシアとの闘いのように書いています。しかし大切なのは、両者のはざまでどちらからの援助も受けられず、すべてを略奪され焼きつくされ、国際社会からも目を向けられないまま、自力でようやく生き延びている多くの民衆がいることなのです。ロシアの下級兵士が「掃討作戦」の名のもとに民家を訪れ、金目のものを略奪し、家畜などの生活手段を意味もなく焼き尽くし、男たちを「連行」します。残された家族は隣近所や親戚から金を集めて、連行された家族を収容所に「買い戻し」に行かなければなりません。そうしなければ家族は「死体」となって町はずれで見つかることになるのです。ロシアに敵対するはずのテロリストも、ロシア兵の行為を「見て見ぬ振り」しているのだそうです。
さて、第二次チェチェン戦争のさなかの2002年の2月、ロシアのブターノフ大佐は、「武装勢力に加担している女狙撃兵を拘束する」という名目でタンギ・チュ村を訪れました。しかし実際は「女が欲しかったから」であって、その村のある家に美しい娘がいることを事前に知っていたのです。兵士たちはこの家の18歳の女性を捕まえ、ブダーノフの宿舎の部屋に運びました。そして彼は彼女を強姦したうえで殺したのです。
大佐はタマーラ・パヴロヴナ・ペチェルニコヴァ精神科教授が率いる委員会の精神鑑定を受けました。鑑定経験52年の彼女は、1960年代から80年代にかけて反体制派に「統合失調症」の鑑定をして次々と精神病院に送り込んだ張本人だったのです。彼女が委員長をつとめた委員会が鑑定した結果は、ブダーノフは責任能力がなく無罪というものでした。しかしそれは犯罪を犯したときだけで、その前もその後も正常な状態なので、再び軍務に復帰していいというのです。この鑑定のけっかブターノフは無罪放免となりかかりましたが、さすがにクレムリンが疑義をとなえ、この本が書かれた時点ではブダーノフの判決はまだおりていません。
2005年3月8日にチェチェンのマスハドフ元大統領がロシア特殊部隊によって暗殺されたというニュースが飛び込んできました。彼は、国際監視団が見守るなかで有効と認められた選挙で選ばれた大統領でした。
また『チェチェン やめられない戦争』の著者のポリトコフスカヤは、2004年9月におきたロシアの学校人質事件の交渉のために現地に向かう飛行機のなかで、スチュワーデスが出した紅茶を飲んだ直後に気を失い、あやうく毒殺されかかりました。
ロシアがいまだにこういうことをしている国であること、アメリカがそれを黙って見ていること、そして日本のマスコミもこの問題をとりあげようとしないということを、よく頭に入れておかなければなりません。まあ、この本に書かれていることも、どこまでホントかぽん太にはわかりませんけど。
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