やっぱりプリニウスの『博物誌』はあやしい本だった
澁澤龍彦の『私のプリニウス』(河出文庫、1996年)を読んでみた。というのもぽん太はプリニウスの記述について/EBMによる帝王切開の語源で書いたように、『プリニウスの博物誌』にカエサルが帝王切開で生まれたと書いてあるのを読んで、プリニウスに興味を持ったというか、ホントはとんでもないひとなのではないかと疑ったからである。
で、プリニウスといって思い出したのが、澁澤龍彦のこの本である。澁澤龍彦と言っても若い人は知らないかもしれないが、SMで有名なサドの作品を日本に紹介したので有名で、あやしい世界の専門家である。ちなみにぽん太は、あやしい世界の専門家としては生田耕作も好きである。
で、本題に戻って、『私のプリニウス』は、『博物誌』の一部を訳しながら澁澤がコメントを加えるというかたちで書かれています。オタクというか、トリビアの泉というか、こうした枝葉末節の知識にこだわるのはすごいな〜という感じです。プリニウスに興味を持った方は、一読をお勧めします。
で、澁澤は、『博物誌』をやっぱりあやしい本だと見なしているようです。「かように、プリニウスの記述をあまりに真面目に受けとると、とんだ徒労を味わわされる羽目になることがあるから用心しなければならない」(15ページ)。「あんなに嘘八百やでたらめを書きならべて、世道人心を迷わせてきた男のことだ。私たちとしても、そういう男にふさわしい付き合い方をしてやらねばならぬ」(17ページ)。「結局のところ、ここでもプリニウスは先人の説を無批判にアレンジして、ちょっぴり自分の創作をつけ加え、自分なりに編集し直したにすぎないもののようである。独自の科学的な観察眼と私は書いたが、どうやらそんなものは薬にしたくも『博物誌』のなかにはないと思ったほうがよさそうだ。あきれてしまうくらい、プリニウスは独創的たらんとする近代の通弊から免れているのであった」(28ページ)。「なんとまあ、見てきたような嘘を書くものだろうかと、私たちはつくづくあきれてしまう。けつを捲っているのか、とぼけているのか、それとも本気で信じているのかは、だれにも分からない。なんという無責任! すでにこれは文学である」(37ページ)。
たとえばプリニウスは、女が男に変わることもありえない話ではないと言い、「私自身も、コンシティウスと呼ばれるアフリカのティスドルスの一市民が、その結婚式の日に男に変わったのを見たことがある」(35ページ)と、自分で見たと言い張っています。
だから、カエサルが帝王切開で生まれたというのも、当時広まっていたウワサを書いただけかもしれません。ここで一句……
プリニウス、見て来たような嘘を言い
ところで、ふと思ったのですが、プリニウスが『博物誌』で帝王切開で生まれたと書いたカエサル1世というのは、ほんとにあのカエサルのことなのでしょうか? 実はカエサル家の初代ということはないのでしょうか。だって、ほかのところでカエサルに言及したときは、「独裁官カエサル」と書いてありますもん。でも、そんなことは、ローマ学者がとっくに検討しているでしょうから、やっぱりあのカエサルのことなんでしょうね。
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