東京都の精神障害者の移送(34条)サボタージュに再びもの申す!
ぽん太は以前の記事で、精神保健福祉法34条で規定された医療保護入院のための移送を、東京都がほとんど運用していないということを、統計資料をあげて指摘しました。平成13年度から平成15年度までの3年間に、全国では550件の34条による移送が行われているのに、東京都はたったの3件しか行っていないようなのです。
以前の繰り返しになりますが、この制度は、患者さんが医療保護入院が必要な状態でありながら、主治医や家族が説得しても入院を拒否するばあい、「行政の責任」で患者を病院に連れて行ってくれるというものです。
さらに繰り返しになりますが、なぜこのような制度ができたかというと、これまでは患者さんの病状が悪化して入院が必要な状態でありながら患者さんが納得しないばあい、患者さんを病院に連れて行ってくれる制度はなく、家族が自力で連れて行かなければならなかったのです。
病院に患者さんを運ぶというと、まず救急車を思い浮かべるかもしれませんが、救急車は精神障害者を精神科へ運んでくれません。
そこでご家族は不本意ながら警察の応援を頼もうと思うかもしれませんが、警察は「事件」を起こさないと関与してくれません。
で、ぽん太のいる東京都であれば医療機関案内の「ひわまり」に連絡してみたりするのですが、ここでも「事件を起こしたら警察を呼んで病院に連れて行ってもらってください」という返答が帰ってくるだけです。ぽん太の患者さんの例をあげると、「悪霊が憑いている」と飼い犬の首をカッターナイフで切って殺した患者さんの家族が「ひまわり」に連絡したところ、「次になにかあったら警察を呼んでください」と言われたとのことです。「次というのは家族のことか?」とぽん太は思いました。また、以前に妄想から自宅に放火したことがある患者さんが具合が悪くなり、「危ないことをしそうなので入院したい」と言い出し、家族が「ひまわり」に連絡したことがありました。このときも「実際に何か起こしたら警察を呼んでください」とのことでした。「放火するまで待て」ということかとぽん太は思いました(個人情報に配慮し、事例には変更を加えてあります)。折しも来たる2005年7月15日に「心神喪失者等医療観察法」が施行されます。これは重大な犯罪を犯した精神障害者に対して手厚い医療を行おうという法律ですが、その前に、病状が悪化した精神障害者が早期に手厚い医療を受けられるようにし、犯罪を起こさないで済むようにしたほうがいいと思うのはぽん太だけでしょうか?犯罪を起こさないと入院できないというのはおかしくないでしょうか?
で、ご家族は民間の救急会社に頼むことになるのですが、これが普通で数十万かかり、かなりの高額です。また、入院を拒否する患者さんを強制的に病院に連れて行くという重大な行為を、民間の営利企業が行っていいのか?という問題が付きまといます。
そこで、行政の責任で患者さんを病院に連れて行きなさい、そのための窓口を整備しなさい、というのが精神保健福祉法34条の規定するところです。
ぽん太は以前の記事を書いたころ、東京都が34条の移送を適切に実施していないことについて東京都に苦情のメールを出しました。しばらくして返答が来たのですが、「34条の移送は人権などの問題があるので慎重に運用しており、それ以外の方法で患者さんを医療に結びつけるように努力している」というような内容でした。きわめてお役人的な返答だったので、返答のメールは消去してしまいましたが、とっておけばよかったと思います。
さて前置きが長くなりましたが、さいきん、以前にぽん太のクリニックに通院していたけれでも病状が悪化して来院しなくなり、やむなくご家族が薬だけ1年間以上も取りに来ていた患者さんが、興奮して暴力を振るうようになりました。そこでご家族に保健所に相談に行かせたところ、「そういうケースは主治医が病院と相談して入院させてください。保健所は犯罪など警察が絡むような重症の患者しか扱いません」と言われたとのことです。直接保健所の対応を聞いたわけではないので、ほんとうに保健婦さんがこのような応対をしたのかどうかはわかりませんが、もしホントだとしたら、この保健婦さんは34条のことを知っているのでしょうか? これでは、東京都からのメールの返事にあった「それ以外の方法で患者さんを医療に結びつけるように努力をしている」ということすらしていないことになります。だいたい医者が患者さんの診察をしないで処方をするのは「違法」です。しかし行政が患者さんを病院に移送することは、法律上行わなければならない「義務」です。東京都が「法律上の義務」をサボタージュしているのを、医者が「違法行為」でフォローしなければならないのでは、割があいません。
東京都は保健所に34条の移送をきちんと行うように指導すべきです。あるいは34条の移送を行わないのなら、「法律で定められているけれども東京都は実施いたしません」とはっきり公表して欲しいものです。そして「東京発医療改革」と言っていますが、34条に関しては「医療後進自治体である」と宣言する義務がはるはずです。
【関連するブログ内の記事】
・「精神障害者の移送に関する事務処理基準について」をアップしました(2007/08/02)
・ぽん太のみちくさ精神科: 東京都はちゃんと34条の移送を実施しなさい!(2005/02/05)
« 八海山山頂直前で時間切れ敗退 | トップページ | 梅雨を逃れて斜里岳の花 »
「精神医療・福祉」カテゴリの記事
- 【拾い読み】鈴木晶『ニジンスキー 神の道化』(2)病歴のまとめ(2018.05.31)
- 【臨床】抗うつ剤の副作用のプロファイル比較(2014.09.30)
- 【苦情】デイ・ケアに行った日は「通院精神療法」が算定できないなんてオカシイにゃん(2015.01.11)
- 【拾い読み】DSM-5を使う前に読んでおこう。アレン・フランセス『<正常>を救え 精神医学を混乱させるDSM-5への警告』(2014.10.15)
- 【珍百景】レトロでシュールな東京都の児童育成手当障害認定診断書(2012.02.13)
コメント