『法華経』を読む(2)ーー誰でも仏になれる
『法華経』(上・中・下、坂本幸男・岩本裕訳注、岩波文庫)を読み進めましょう。さて、法華経で繰り返し語られる大切な教えは、ひとことで言えば「誰でも仏になれる」ということです。
でも正直に言うと、現代の仏教解釈から入門したぽん太には、この教えは当たり前に感じられます。「誰でも仏になれる」ことを強調していることのほうが不思議に感じられました。この教えを強調しているということは、『法華経』が、小乗仏教から大乗仏教に移行した初期に書かれたお経であることを示していると思われました。
そこで仏教の歴史を調べてみました。仏陀がいつごろの人かについては諸説がありますが、だいたい紀元前5世紀頃と言われています。仏陀の死後、信者の集団は教義の解釈によってさまざまに分裂しました。彼らの一部は、出家して僧となり厳しい修行することによって自分自身が救われることを目指すようになり、その教義は思弁的・哲学的なものになっていきました(上座部仏教)。彼らは、自分たちが仏陀と同じような完全な悟りを得られるとは考えていませんでした。修行によってある程度の悟りには到達できるが、その境地は仏陀には及ばないと考えていたのです。ところがこうした考え方に反対する動きが高まってきました。在家信者を中心に、自分が悟るだけではなく他人を救うことを目的とし、誰もが成仏できるという考え方に基づく仏教が展開したのです。彼らは、自分たちの教えを大乗仏教(すぐれた乗り物)と呼び、上座部仏教を小乗仏教(劣った乗り物)と呼びました。この大乗仏教の教えに基づいて1世紀から3世紀頃に創られたのが、『法華経』や『般若経』『維摩経』『華厳経』『無量寿経』などの初期大乗経典です。あ、お経は仏陀自身が書いたものではなく、後世のひとが編纂したものだという点はいいですよね。
『法華経』で仏陀が説法している時期が、仏陀の生涯のどのあたりに位置づけられているのかぽん太はわからないのですが、すでに多くの弟子を引き連れ、さまざまな教えを説いて来ているようです。このときはじめて仏陀は、「誰でも仏になれる」という全く新しい教えを説いたわけです。ということは、これまで仏陀は小乗の教えを説いて来て、弟子たちはそれを信じて修行をしてきたことになります。「誰でも仏になれる」と聞いた弟子たちは、「おひおひ、いままで言ってたこととちがうじゃん」と、びっくり仰天したことでしょう。長年仏陀に従って修行をして来たシャーリ=プトラは、この新しい教えを聞いて踊りあがって悦んだと書かれています(上、135ページ)。またこの教えを聞いた天子たちは、「ヴァーナラーシーにおいて、偉大な勇士よ、あなたは五蘊(ごうん)の生起と滅亡とを説かれた。かの地で最初に回された教えを、指導者よ、あなたはこことで再び回された」(上、157ページ)と、この説法が仏陀の最初の説法に匹敵するものだと言って讃えています。
では仏陀は、これまで嘘をついて弟子たちをだましていたのでしょうか。いえ、それは「方便」だったのです。「方便」というと、現在では「うそも方便」ということわざのように、便宜的に用いる都合のよい手段のように使われています。しかしもともとの仏教用語では、相手のレベルに応じて教えを説くことを言います。つまり相手のレベルが低いばあい、いきなり「誰でも仏になれる」という真の教えを説いても理解できないので、まず真実ではないがわかりやすい小乗の教えを説いたのです。そして相手のレベルが十分高まったところで、本当の教えを説くのです。
「譬喩品 第三」では、有名な「火宅の譬喩」によって、大乗の教えこそが本当の教えであることが説かれますが、どの解説書にも書いてあるのでぽん太は省略いたします。
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